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勇者の護り、ココロのお守り。  作者: サイトウ純蒼
第四章「ガルディア砦の防衛戦」

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49.勇者の力

「はああああああ!!!!」


 ザンザン!!!


「フレイムボムっ!!!」


 ドオオオン!!!!



 俺たち一行は急襲を受けたガルディア砦に向かいつつ、時折現れる魔物と戦いながら馬車を進めていた。あらかた魔物を倒したココロが、ふうと息を吐いて言う。


「もういないね! ああ、疲れた」


「お疲れ様、ココロ」


 それを労うサヤカ。俺は当然あの気だるさによって見学。そしてもうひとり、紫髪のポニーテールのお姫様キャロルも後方で何もできずにいた。俺が尋ねる。



「何もしないのか?」


「……ごめんなさい」


 ココロと同じく元気が取り柄だったキャロル。兄が殺されたと言うのだからそれも仕方ないが、それでも言わなければならない。


「そんなんで砦に行ったところで何になる? むざむざ殺されに行くようなものだぞ」


「うん。分かってる……」


 キャロルの心は兄を失ったと言う事実と、そして次々と頼りの者たちが消えていく恐怖に苛まれていた。



「エリート! キャシー、いじめちゃダメでしょ! キャシーは大変なんだから!!」


 そんな俺とキャロルのやり取りを見てココロが口を挟む。


「何が大変なんだ? 自分で言い出しておきながら他力本願って方がよっぽど問題だぞ」


 キャロルはそれなりに腕は立つ。ただ彼女がひとり砦に行ったところで戦況を変えることは難しい。ココロやサヤカ、そして俺の助力が大前提だ。


「エリート! そんな酷い言い方って……」


「いいのよ、ココロ。本当だから」


 むっとして俺を睨むココロをキャロルが制して言う。


「その通りだわ。私が落ち込んでいても仕方ないよね。王都からの援軍も向かっていると思うし、元気出さなきゃ!」


 キャロルが紫髪のポニーテールを手でかき上げ笑顔になる。


「うん、頑張ろ。キャシー!」


「一緒に参ります、姫様」


 ココロとサヤカもそれに同意して頷く。ただこの先、彼女にとって非常に辛い出来事が待ち構えているなど、この時誰も想像できなかった。






「あー、疲れた。今日はゆっくり休めそうね!」


 馬車を走らせ丸一日、ようやく現れた小さな村を見てココロが嬉しそうに言った。ガルディア砦はまだ遠い。焦る気持ちもあるが馬の疲労を考え適切な休憩も必要だ。


「久しぶりにお風呂に入れそうですね!」


 サヤカがその艶めかしい赤髪をかき上げ言う。俺は時々、無防備に見せられる彼女の胸の谷間にあまり目が行かないよう外の景色を見つめる。ココロがずっと黙ったままのキャシーに言う。


「キャシー、一緒にお風呂入ろっか!」


「コ、ココロ!? 何を言っているの!? キャロル様はシュガルツ王国の姫君で……」


 途方もないことを言い出すココロを見てサヤカが慌てて声を出す。ココロが首を傾げて答える。


「う~ん、私、そう言うのあまりよく分からなくて。でもキャシーはキャシーだよ。ね、キャシー」


「そうね。一緒に入ろっか、ココロ」


 一瞬笑顔が戻ったキャロル。だがまたすぐに暗い表情となる。

 兄の敵討ちの為向かったガルディア砦。悲報を聞いた時は怒りで我を忘れて行動したが、長い馬車の移動の中、その怒りが徐々に絶望的な悲しみへと変わっていった。


「さあ、みんな行こっか!」


 対照的に元気なココロ。キャロルはそんな彼女の後について小さな宿屋へと歩き出した。





「あ、キャシー! ここに居たんだ」


 夕食後、村に接する湖のほとりのベンチで一人座るキャロルを見つけ、ココロが駆け寄る。小さな村。建物も数えるほどしかなく、長閑な、ゆっくりとした時間が流れる場所。日も落ち、湖面に映った月明かりが風でゆらゆらと揺れる静寂の中、ココロがキャシーの隣に座り言う。


「夕ご飯、美味しかったね!」


「うん、そうだね……」


 田舎の料理。それでも遠征隊と別れてから初めて食べるきちんとした料理を皆は喜んだ。



「お兄さん、のこと?」


 ココロが遠慮なしに尋ねる。キャシーはそれに少し苦笑して答える。


「う、うん。そうかな……」


 自分が姫だと分かっても特別扱いしないココロ。キャシーはいつの間にかそんな彼女といることに心地良さを感じていた。ココロが膝の上に置かれたキャロルの手を握り言う。


「大丈夫。絶対仇は取るから!!」


「うん、ありがと」


 嬉しい。だけどやはり自分の表情が曇ってしまいことを隠しきれない。キャロルが静かな湖面を見つめながら言う。



「あのね、ココロ。私、魔王に()()されているの」


「……え?」


 突然の言葉。さすがのココロも一瞬その意味が分からなかった。


「驚いた? まあ、そうよね。何せ一国の姫が、魔王と結婚だなんて有り得ないもんね」


「そ、そうだけど、どうしてなの??」


 まだ言葉の意味が良く理解できないココロ。キャロルが言う。


「うちの国ってさ、まあ弱くはないけど小さいし、周辺国や魔族の攻撃を受けて大変なの」


「うん……」


「そんな時、突然魔王ガゼルって言うのが城にやって来て、私との婚儀を申し込んできたの。自分と結婚すれば彼の軍勢が味方に付くってね」


「うそ!? 何それ……」


 驚くココロ。キャロルが自嘲的に言う。


「もちろん断ったわ。国王パパもそうだったけど、その場にいた団長ウィルが剣を突き付けて追い返してくれたの」


「そうだったんだ」


 ココロは知る由もない国の実情を聞き不思議と体が震える。キャロルが言う。


「でも、そのガゼルって魔王、中級クラスの魔王だったみたいでうちへの攻撃が激しくなったの」


 それはココロも知るところ。魔族の襲撃が立て続いている。ゴブリンに襲われた村もその一環であろう。キャロルがベンチに置かれた朱色の剣を握り言う。


「だから私、強くなろうと思ったの。強くなって魔王を倒してやる。そうすればいいって」


「うん、そうだね!」


 ココロはようやく彼女が貪欲に強さを求める理由が分かった。魔王の自由にはさせない。そんな奴は許せない。



「でもね……」


 キャロルがやや声のトーンを落として言う。


「お城から国宝の宝刀を貸して貰って戦ってみて分かったの。私、弱いなって……」


「え、どうして? キャシーは強いよ!」


 キャロルが苦笑して答える。


「強くないよ。宝刀フレイムソードに聖騎士の鎧。これだけの装備がありながら、全然じゃん。ココロは本当にすごいよ……」


「そ、そんなことないって!」


 キャロルは自分の限界を感じていた。ほんの少しの剣のセンスに強力な装備。下級の魔物相手なら無双できたこれまでの戦いであったが、相手が上級魔族、そして魔王クラスになるとまるで歯が立たない。対照的に隣に座る同じぐらいの女の子は別格。どんな強大な相手にも怯むことなく立ち向かう。


「ココロは勇者なんだよね」


「ち、違うって! 私はただの下級冒険者で……」


「ただの冒険者がその剣を使いこなすことなんてできないよ。謙遜しなくていいから。ココロはすごいんだよ」


「そ、そんなこと……」


 励ますつもりが励まされてしまった。改めて自分の不器用さにココロは情けなくなる。キャロルが言う。



「ココロもそうなだけど、私、エリートが来てくれたことに心底安堵しているの。自分がやらなきゃって思うんだけど、きっと心のどこかでまた彼に頼ろうとしている」


「うん……」


 その気持ち、ココロもどこか理解できる。


「ふたりはさ、本当に魔王とか、大魔王まで従えるつもりなの?」


 キャロルはココロから聞いたその荒唐無稽な話について尋ねた。有り得ないこと。たった一体の魔王を倒すだけでも大変なのに、数多の魔王、そしてそれを統括する大魔王を従えるなど本当にできるのか。ココロが笑って答える。


「うーん、なんかそんなことに誘われちゃったけど、まあエリートがやるって言うなら私は頑張るよ。みんなの平和の為。それが私の一番の願いだから!」



(ああ、やっぱり彼女は勇者なんだ)


 キャロルはそう言って笑うココロを見て思った。どんな恐怖よりもみんなの平和。みんなの幸せのために戦える。兄が討たれ、たったひとりの魔王に怯えていた自分とは根本が違う。


「私も力になりたい……」


 キャロルは自然とココロの手を握り、そう口にしていた。姫として、ひとりの平和を願う人としてそれを脅かす敵と戦いたい。ココロやエリートたちと一緒ならできる気がする。

 キャロルは不思議と何か自分の心を覆っていたものが綺麗に晴れていく気がした。



「うん、頑張ろ!」


「よろしくね!」


 笑顔が戻ったキャロル。彼女は後に気付くこととなる。他者に勇気や希望を与える。そんな勇者の力に知らず知らずのうちに助けられていたことを。

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