48.目標、ガルディア砦!!
小国であるシュガルツ王国には、武の要になる人材に常に枯渇していた。騎士団をまとめる団長ウィルソン、その腹心の三副団長ラーズリー、バルザック、ミスランドらは別格としても、それに続く将がいなかった。
「兄様、今日も頑張っているわね!」
ふわっとした紫髪のポニーテールを揺らし、妹であるキャロルが中庭でひとり剣を振る兄エムルに言う。額に流れる汗を拭きながらエムルが答える。
「おはよう、キャロル。今日は随分早起きじゃないか」
文武両道の好青年、それがシュガルツ王国次期国王エルム・シュガルツの皆からの評価であった。キャロルが手にした剣を構え、兄に答える。
「今日こそ兄様に勝つわよ!」
エムルがそれを見て苦笑して答える。
「キャロル、お前はまだ幼い。国のことは私たちに任せておけばいいんだよ」
「私だって上達したんだから! 今日は負けないよ!」
「やれやれ。仕方のない妹だ」
エムルも彼女に向かい剣を構える。
騎士団、いや国の要であったウィルソン騎士団長が消えて数か月。副団長らが必死に頑張ってくれてはいるが、シュガルツの弱体化は顕著になっていた。魔物や魔族の蜂起、隣国からの侵攻情報。失ってみてどれだけウィルソンに依存していたのかがはっきりと分かった。
だから武芸にも長けていたエルムが前線に出るようになったのはごく自然なことであった。
「ま、魔王軍襲撃です!! その数不明!!」
そんな事情もあり、エルムが偶然訪れていたガルディア砦でその報を聞いた時、彼は迷わず剣を取った。
「私が先陣を切る。シュガルツの土地を魔族に荒らさせない!!」
エルムが皆の制止を振り切り、直属の精鋭と共に砦を出て迎撃に向かう。ガルディア砦。それはシュガルツの中でも特に重要な拠点のひとつで、ここを失えば国の存亡の危機に直結すると言っても過言ではない場所。
「我に続け!! 魔族を討ち滅ぼすぞ!!!」
「「おお!!」」
騎士団長ウィルソン不在、副長バルザックが負傷、同じく副長のラーズリーとミスランドは遠征中。否が応でも有能なエルムへの負担は重くなっていた。
「ガゼル様。人族の砦よりこちらに向かう一団が確認されました!」
対する魔族。砦に侵攻中のその大将に人族迎撃の報告が上がる。美しい筋肉の長身。頭部に二つの角を持つその男が答える。
「殲滅だ。ひとり残らず抹殺せよ」
「はっ! ガゼル様!!」
魔王ガゼルにエルム皇太子。追い詰められたシュガルツにあって数少ない希望だったエルム。その壮絶な死が報告されるまで、出撃からそんなに時間はかからなかった。
「エムル皇太子が戦死しました」
ようやく皆の希望であるウィルソン騎士団長を救出。王都へ帰還しようとしていた一行に、悲しみの報が告げられた。キャロルが両手で口を押さえ崩れるようにして言う。
「うそ、うそでしょ? 兄様が、兄様がそんな……」
溢れる涙。震える体。だが軍の報告。そこに嘘偽りはないことは分かっている。ミスランドは伝書鳥によって運ばれた報告書を見つめ、キャロルに言う。
「ガルディア砦に侵攻中だった魔族の群れと勇敢に戦われ、見事な最期だったと記されています」
ミスランドの声も気のせいか震えている。相次ぐ国家の損失。魔族に負ける日が来るのか。そんな不安があったのかもしれない。
「うわーーーーーーーん、兄様っ、兄様っ!!!!」
キャロルが蹲り大声を上げ泣く。大切な兄。優しかった兄はもういない。泣きながらキャロルが決意する。
「絶対……」
顔を上げキャロルが言う。
「私、絶対婚儀なんてしない!! 魔族、許さないっ!!!」
流れる涙を拭き、ミスランドに言う。
「ミスランド、馬を借りるわ!!」
「え? あ、姫様!? それは一体……」
嫌な予感。だがある意味それは彼女にとって当然のこと。
「これからガルディア砦に向かうわ! 兄様の仇、私が討つ!!」
ミスランドが困った顔で答える。
「き、危険です。姫様。姫様まで失ったら……」
「私も行くわ、キャシー!!」
俺はそう堂々と口にするピンク髪の少女を見て小さくため息をついた。ある意味想像していた展開。まあ当然そうなるだろう。キャロルが嬉しそうに答える。
「ありがとう、ココロ! じゃあ、エリートも来てくれるんでしょ!!」
まあ、これも想像通りだ。
「仕方ねえな……」
ココロをひとりで行かせる訳にはいかない。それにもう魔王軍との戦いは始まっている。実戦経験を積みながら、奴らを従える。まあ、悪くはないか。
「ありがとう……」
キャロルが両手で俺の手を握り、深く頭を下げ、感謝の言葉を口にする。
「キャロル姫……」
その姿に感動したのかサヤカが涙ぐむ。ミスランドがやや申し訳なさそうな顔で言う。
「姫、すまないが、私は同行できませぬ。団長を王都まで運ぶ義務がありますので……」
軍人であるミスランドには、国の命であるウィリアムを安全に王都まで送り届けるのが最も優先すべき仕事だ。キャロルが答える。
「分かっているわ。心配しないで。彼らが来てくれるから大丈夫」
キャロルからの強い視線を感じた俺は、自然と顔を背ける。まあ、ココロが大切にするこの国。失うのは俺も本意ではない。キャロルが言う。
「じゃあ、行くわよ!! 目標、ガルディア砦っ!!!」
「はい!」
結局いつものメンバー。俺とココロ、サヤカにキャロルを乗せた馬車は、一路魔族の急襲を受けていると言うガルディア砦へと向かった。




