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勇者の護り、ココロのお守り。  作者: サイトウ純蒼
第四章「ガルディア砦の防衛戦」

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47.新たな戦いの幕開け

「それでお前はそのような怪我を負って、逃げ帰って来たと言うのか?」


 銀髪に銀縁の眼鏡のイケメン、レザウェルは負傷した顔を引きつらせながら評議会の老長アーグレイに答えた。


まことに己が不徳の致すところ。ただ、ただひとつ言い訳をさせて頂けるのならば……」


 純白の白衣を纏ったアーグレイ。その他魔神評議会の面々が頭を下げるレザウェルを見つめる。


「久しぶりに降り立った下界。その澱んだ空気のせいで私の力が存分に発揮できませんでした。次こそはしっかりと準備をし、万全の態勢であの()()()を討伐致します!」


 アーグレイたち評議会の面々はしばらくの沈黙の後、頭を下げるレザウェルに言う。



「うむ、分かった。ならばもう一度お前にチャンスをやろう。きちんとあの愚か者を処分してくるのだ」


「は、はい」


 顔を上げたレザウェルに笑顔が戻る。


「だが……」


 厳つい表情のアーグレイ。それを見たレザウェルの顔からその笑みが消える。


「だが、我々に二度目の失敗は許されぬ。相手は混血とは言え同じ魔神。確実に処分するにはお前ひとりでは心許ない」


「そ、それは……」


 レザウェルの背中に汗が流れる。


「ゴーゼルを連れて行け。ふたりして必ず謀反者エリート・ゴットラングウェイを討ち取るのだ!!」


「は、ははっ!!」


 レザウェルは再び頭を下げながら、同伴者に指名されたその荒くれ者の顔を浮かべ目が虚ろになった。






「団長の意識はまだ戻らぬのか?」


 無事にウィルソン騎士団長を救出した遠征隊。だが大隊長ガンダスの裏切りに多数の死傷者。最大の目的であるウィルソン救出は辛うじて達成したが、想定以上の損失を出し、更にその団長自身が救出直後から昏睡状態となっている。

 ミスランド副騎士団長に尋ねられた兵士が暗い表情のまま答える。


「はい、残念ながら……」


「そうか」


 ウィルソンは救護班の馬車に寝かされたまま王都への帰路を急いでいる。皆の必死の回復も空しく容体は一向に回復の兆しを見せない。長きに渡る拘束。後に知ることになるのだが彼は氷柱に閉じ込めらえた後も、激痛に耐えながらしばらく意識があったのだ。



(ボクのせいだ……)


 ウィルソンと同じ馬車。その片隅で小さく蹲るニッカが表情を曇らせる。苦渋の決断。あのままではウィルソンは勇者を発現し、自らの手で抹殺しなければならなかった。それを魔王の甘言に乗った形ではあったが、一時的にその危機を回避させた。だがこの現実は辛い。


「ニッカ、本当に何も覚えていないのか?」


「は、はい……」


 魔神であることを知られるわけにはいかない。だから魔王に襲撃され記憶を失っていたことにした。ただそんなことはどうでもいい。魔神の力を持ってしても回復しないウィルソンの症状。心が破壊されてしまった彼の回復は困難を極めた。





「良かったね、サヤ姉。やっぱりサヤ姉は何も悪くなかったんだよ!」


 別の馬車の中。向かいに座ったココロが表情の冴えないサヤカに言う。


「そうね……、ありがとう。ココロ」


 自身の汚名は返上できた。彼女がひとり逃げだした訳ではなく、それはウィルソンと言う騎士団上官からの指示で行ったこと。今後はその報告を信じず、遠征失敗の責を逃れたい為にサヤカを戦犯に仕立て上げた騎士団の責任が問われることになるだろう。



「本当に国としてもお詫びするわ。サヤカ」


 俺の隣に座った紫髪のポニーテールのキャロルが少し頭を下げて言う。それに驚いたサヤカが手を出し首を振って答える。


「と、とんでもございません、キャロル姫! 不甲斐ない戦いをしたのは事実ですし」


 なぜかキャロルはガンダスが乗って来た指揮官用の豪華な馬車ではなく、この狭い兵士用の馬車に乗っている。ココロが言う。


「魔王案件だったんでしょ? 騎士団長が敵わない相手だったらそりゃ仕方ないよ」


 その通りである。魔王相手にサヤカレベルの兵士がひとり戦っても勝てる見込みはない。ウィルソンの判断通り、逃がして報告させるのが正しいだろう。



(そんなことよりも……)


 俺は腕を組み、目を閉じ考える。レザウェルに大見得を切ったが、あの魔神界を敵に回し、さらに大魔王以下数多に存在する魔王達を支配下に置く。簡単じゃない。さすがの俺でも正直どこまでやれるか分からない。



「サヤ姉、元気出しなよ! ほら、お菓子食べる? あ、キャシーもあげるよ」


「ありがとう、ココロ……」


 とは言え俺はこいつを護らなければならない。ココロの持つ【魔神無効】と、勇者発現したのなら持っているはずの【魔王無効】。ココロさえいれば、俺の荒唐無稽な計画も実現できる。



「ねえ、エリート。どうしたの、さっきからずっと難しい顔して?」


 俺の隣に座るキャロルがのぞき込むように尋ねる。


「何でもねえ」


 ぶっきらぼうに答える俺にキャロルが言う。


「ねえ、私の護衛は? ねえ~、いいでしょ??」


「断ると言ったはずだ。そもそもお前ぐらいの実力ならそんな護衛など要らんだろ?」


 キャロルはベンチシートに座り直し、少し上を向きながら答える。


「守って欲しいの。私なんかじゃ、全然……」



(あっ……)


 俺は急に体の『気だるさ』が消えていくことに気付く。ココロを見ると、お菓子を口に咥えたままうとうとしている。眠ったようだ。俺はすぐに彼女の解析魔法をかけ、確認する。



(スキル【魔神無効】はあるようだな。ならば、勇者が持つと言うそのスキルは……)


 俺はじっと、そうだな、ココロのステータスを食い入るように見つめた。



「ない……」


 思わず口に出た。

 そう、勇者が発現したなら必ず持っているだろう【魔王無効】のスキルがなかった。俺はすぐに彼女のランクを確認。驚いた。


(『Dランク冒険者』、だと……?)


 驚くべきことに、ココロは勇者ではなくまだ『Dランク冒険者』のままであった。だが評議会の遣いでやって来たレザウェルは間違いなくココロは発現したと言った。どうなっている?



「エリート様、どうされました? 何が『ない』のですか?」


 向かいに座ったサヤカが心配そうな顔で俺に尋ねる。


「いや、何でもない。ああ、そうだ。お前の魔弾もう『ない』だろ? 補充しておいてやる」


「あ、ありがとうございます!」


 サヤカは笑顔になって空になった魔弾を俺に手渡す。俺はそれを受け取りながら考える。



(一時的に勇者が発現したのか? そうとしか思えん。だが困ったな……)


 ココロが持つであろう【魔王無効】がないとなると、魔王戦は苦戦が予想される。ただでさえ彼女が起きている間は俺の力が封じ込まれる。やはり『村人エリート』の更なる強化は必須のようだ。



 ギギッ……!!


「きゃあ!!」


 そんなことを考えていた俺は、急に止まった馬車に揺られバランスを崩す。抱き着くように覆い被さって来たキャロルを抱きしめながら言う。


「ど、どうした!?」


 サヤカも、そして眠っていたココロも目を覚まし周りをきょろきょろ見ている。ミスランドが急ぎ俺たちの馬車へやって来て報告する。



「姫、ご報告が……」


 あの鉄の心を持ったようなミスランドが動揺している。それだけで皆は何か良からぬことが起きていることを察した。


「なに? どうしたの!?」


 そう尋ねるキャロルにミスランドが俯き、答える。



「ガルディア砦が魔王軍の急襲を受け陥落の危機との報が入りました。そして、その途中で応戦に出たエムル皇太子が……」


 静寂。そして皆の視線が顔を上げたミスランドに向けられる。



「戦死しました」


 白かったキャロルの顔が、青く、白く染まった。

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