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勇者の護り、ココロのお守り。  作者: サイトウ純蒼
第三章「敗北が約束されたクエスト」

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38.砂中の迎撃者

 魔王城へ続く最後の難所『死の砂漠』。そこへ至る前夜。野営をする皆の前に、今回の総指揮を執るガンダス大隊長が現れて言った。


「明日からは最大の難所『死の砂漠』だ!! だがそこを超えれば魔王城は目と鼻の先。俺たちは全力で騎士団長を救出し、そして生きて帰る!! そして喜べ、お前ら! 景気づけのため最高級のシュガルツ牛ステーキを用意した!! 存分に食べて英気を養ってくれ!!」


「うおおおお!! ガンダス大隊長!!」

「ありがとうございますっ!!!」


 星空の下、騎士団や冒険者たちから喜びの声が上がる。最高級のシュガルツ牛。野営地なので簡単に火で炙っただけなのだが、染み出る肉汁に芳醇な香り。特殊なスパイスをかけて食べるその牛肉は、長距離移動で疲れた皆の顔をあっと言う間に笑顔にした。



「やだ~、美味しい~~」


 赤らめた頬に手を当て、ココロが満面の笑みで言う。サヤカも初めて食べる最高級ステーキに驚きの声を上げる。


「初めて食べましたけど、ほ、本当に美味しいですね……」


「まあ、悪くないかな〜」


 対照的にキャロルは大した反応はない。さすが王族。舌の肥え具合は庶民のそれとは全く異なる。



(こんな遠征中に、最高級のステーキ? 妙だな……)


 俺は人族の美味い肉に驚きながらも、魔王城目前にして提供されたこの食事に一抹の不安を覚えた。ココロが俺の頭をぽんぽんと叩きながら言う。


「またエリートは難しい顔してるー。美味しいもの食べる時は笑顔よ、笑顔!!」


 そう言ってココロが無理やり俺の両頬を引っ張る。


「痛てててて! 分かったから、やめろ!」


「そうそう、そうやって美味しそうに食べればいいんだよ!!」


 気になる点はあったが、まあ皆が笑顔で食べられればいいかと俺も食事を楽しむことにした。






「明日にはこの『死の砂漠』に突入するかと思います。ヒュカリス様」


 同じ星空の下、野営をするシュガルツ遠征隊を遠くから眺める魔族。その横に立つ緑髪の女性。頭には曲がった双角。美しい魔王ヒュカリスが答える。


「分かったわ。手筈通りに頼むわよ」


「かしこまりました」


 魔族が胸に手を当て頭を下げる。



 ゴゴ、ゴゴゴッ……


 彼らの周りの砂漠の砂が蠢く。ヒュカリスが緑髪をかき上げて言う。



「さあ、明日は久しぶりにご馳走が来るわ。たんまりとお食べ……」


 静かな砂漠の夜。不気味に砂音だけが辺りに響いていた。






「進め進め!! 一気に砂漠を抜けるぞ!!!」


 翌朝から遠征隊による『死の砂漠』縦断が開始された。馬や馬車にとって砂漠はある意味天敵。砂漠の中でも比較的まだ硬い地面を探しつつ行軍を行う。


「暑いよ……」


 馬上でぐったりするココロ。サヤカが言う。


「しっかり布で頭を覆ってください! 熱と埃で体力が奪われます」


「うん……」


 経験者であるサヤカ。先の遠征後、たったひとりでこの砂漠を超えて来た彼女はある意味、強靭な精神を持っていると言えよう。



(くっそ。なんで俺がこんな大変な目に遭わなきゃいけないんだ……)


 段々苛ついて来た。何の危険もない魔神界でのんびり暮らしていればこんな大変なことはしなくて済んだ。『護り』が俺たちにとって必要なことは分かるが、暑さが俺の感情を苛立たせる。

 そして皆が厳しい行軍を強いられる中、それは起こった。



「た、大変です!! 斥候部隊が、何かの襲撃を受けています!!!」


 隊の遥か先、周りを警戒しながら進んでいた斥候部隊の辺りから砂煙が舞い上がっている。同時に聞こえる悲鳴。詳細は分からないが、恐らく魔物の襲撃を受けているようだ。騎士団の小隊長が叫ぶ。


「い、急いで救助に向かえ!! 全力だ!!!」


「は、はい!!!」


 先頭にいた騎士団、そして冒険者が武器を手に駆け出そうとする。



「待て!! 止まれ、バカク〇野郎!!!」


 それを後方から現れたミスランド副騎士団長が大声で制止する。鎮まる一行。皆が振り返り、ミスランドに顔を向ける。


「落ち着け、バカども! 残念だが、あれはもう間に合わねえ。それよりお前ら、周りを見ろ」


 離れすぎた斥候部隊。もう救助は間に合わない。それよりも皆はミスランドに言われた周囲を見渡す。



「な、なんだ、これ……」


 暑さで集中力が欠けていたが、よく見ると周りの砂漠の砂が静かに波打っている。ミスランドが叫ぶ。


「構えろ!! 戦闘準備っ!!!!」


 甲高い皆に響き渡る声。同時に剣を抜き、魔法の詠唱を始め、皆が戦闘準備に入る。



「おい、ココロ。気をつけろ。地中に何かいる。恐らくあれは……」


 俺はじっと揺れるように動く砂漠の砂を見つめながらココロに言う。張り詰める空気。じわっと流れる汗。そして一斉に砂中からその魔物が出現したと同時に俺が言う。



「サンドワームだ」



「キュウウウウウウ!!!!」


 独特の唸り声。長い体に、大きく開いた口。動く物をそのまま飲み込み捕食する獰猛な魔物。砂漠で稀に遭遇するサンドワーム。それが群れを成して襲って来た。


「迎撃迎撃!! 気を抜くな!!! 一瞬でやられるぞ!!!!」


「おおおおーーーーーっ!!!」


 騎士団、そして冒険者たちが一斉にサンドワームを迎え討つ。獰猛な性格だが、皮膚は柔らかく精鋭揃いの遠征隊なら決して勝てない相手ではない。足場の悪い砂地さえ気を付ければ十分に戦える。



「はあああ!!!」

「サンダーボルトォオオオ!!!!」


 前衛の者は剣を振り、後方から魔法隊が援護射撃を放つ。騎士団と、高ランク冒険者の前に次々とサンドワームが倒れていく。


「滅せよ、炎柱!!!!」


 副騎士団長ミスランドが得意の火炎魔法で離れた場所にいるサンドワームを焼き尽くす。砂中から出た瞬間、彼女の強力な炎でサンドワームが灰となっていく。



「うおおおお!!」


 ココロも不安定な足場に気を付けながら剣を振る。


「フレイムソード!!!!」


 キャロルも朱の炎を放つ剣でサンドワームを切り刻む。もちろんサヤカも魔銃で応戦。迎撃は順調であった。だが俺を含め、一部の戦歴の冒険者らの間に違和感が生じる。



(おかしい。サンドワームは生来、群れを作る種ではないはず……)


 その貪欲な食欲からお互いの獲物を奪い合ってしまう為、基本サンドワームは単体で行動する。このように群れを成してある一定の行動をすることなどまずあり得ない。


(それにあの斥候部隊。それなりの精鋭だったはず。なぜやられた……?)


 斥候部隊は特に腕利きの冒険者や騎士団員が指名されていた。それが奇襲だったのか知らないが、ああも簡単にやられることは考えにくい。




「はああああああ!!!!」


 ザンザン、ザン!!!!


 Sランク冒険者ジェイルが双剣を振り回し、女魔導士と共に次々とサンドワームをねじ伏せていく。性格は悪いが腕は一流。さすがSランクは他とは違う。ジェイルが剣を振り上げ皆に言う。



「どんどん行くぞ!!! お前……、ら……、!?」


 ゴゴゴゴゴッ……


 快進撃を続けていたジェイルの表情が一変する。突如彼の前に現れた巨大なサンドワーム。他種とは違う固い装甲に、小隊を丸ごと飲み込めるような巨大な口。そしてその上に立つ、緑髪の双角の女性を見て唖然とした。


「ま、魔族……」


 明らかに違う。その魔族だけ明らかに別次元のオーラを放っている。緑髪の女性が言う。


「私の可愛い子供たちを、まあよくもこれだけやってくれたわね。これからそのお返しを始めてあげるわ。さあ、たんとお食べ。()()ちゃん」



「ギュゴオオオオオオオオ!!!!」


 巨大なサンドワームが地響きするような唸り声を上げる。ココロが言う。



「何あれ!? キモこわ……」


「あんな個体、見たことありませんわ!」


 俺はじっとその緑髪の女を見て、そして皆に言う。


「気をつけろ。あの女……」


 ココロたちが俺の方を振り返る。そしてその言葉を聞いた。



()()だ」


 静かな静寂。魔王討伐隊の大きな目的のひとつ。その相手がいきなり姿を現した。

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