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勇者の護り、ココロのお守り。  作者: サイトウ純蒼
第三章「敗北が約束されたクエスト」

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33.お忍び参加

(ごめんなさい。あるじさま、本当にごめんなさい……)


 負傷者用の馬車に乗せられ、救護班の治療を受けながら、俺は頭の中に語り掛けてくる御影石の正神イシスの謝罪を聞いていた。

 【騎士団長救出作戦】の遠征には、騎士団や冒険者などの攻撃部隊の他に、怪我の治療などを行う治療班、そして食料や簡易テントなどの準備を担当する物資班などが同行している。


(気にするな。ちゃんと説明しなかった俺が悪い)


 イシスにはきちんと説明していなかった。と言うより、剣が硬化して強くなれば俺でも戦えると勝手に思い込んでいた。主なのに色々と確認や、打ち合わせ不足だった俺が悪い。

 気品ある白い御影石だったイシスがほんのり赤色に染まっている。俺はそれを手に取りながら言う。


(硬化はほどほどに。あと、攻撃を受ける際にできれば俺の体を石化してくれ。そうすればダメージ減になるだろ?)


(かしこまりました)


(ココロが起きている間はとにかく俺は弱い。それを補って欲しい)


(承知致しました。ところで主、ひとつ質問してもよろしいでしょうか?)


 俺は今後の戦い方についての相談だと思い許可する。


(なんだ?)


(あの……、ココロさんとは一体どういうご関係なんですか?)



(……は?)


 俺は手にした御影石がさらに赤くなるのを見ながら答える。


(くだらん質問をするな。ココロは俺の『護り』の対象。それ以上でもそれ以下でもない)


(かしこまりました。ありがとうございます)


(それよりお前はあと何ができる?)


 俺はイシスの能力をしっかりと把握しておきたかった。



(はい。硬化の他には、対象物の重量を石のように重くすることができます。あとは石化。対象を完全に石にすることができます)


(完全に石にする? やられたら死ぬのか?)


(いいえ。仮死状態と言いますか、石化を解くか、私が死ぬまで石のまま時が止まります)


(なるほど……)


 俺は意外なほど優秀な正神を拾ったのだと改めて思った。かなり使える。この腕の怪我はただ単に俺の能力不足だったに過ぎない。俺はイシスに礼を言い御影石を懐にしまう。




「は~い、交代ですよ~」


 明るい声。新たに馬車にやって来た紫髪の看護師が、俺の手当てをしていたふたりの女性を追い払うように言う。


「交代? そう、じゃあお願いね」


「了~」


 ふたりはあまり見かけない看護師だと思いつつも、早めの交代に笑顔で馬車を降りる。俺の横に座る看護師。紫髪をきゅっと軽く結ってから俺に言う。


「さあ、治療を始めましょうか~」


 随分軽いノリ。俺はやや不安を覚えつつ、彼女が取り出した一枚の()()に目をやる。


「何だそれ?」


「え? ああ、これね。ちょっと負傷者名簿って言うか、うん! はい、ここに名前を書いてね」


「……」


 俺は女看護師が差し出した書類を見つめる。



「護衛契約書【生涯】……、おい、何だこれ?」


 そう言いつつ俺は彼女がしている耳のイヤリングを凝視する。


「え? あれ? 何だろう、これ!? いいのいいの、関係ないから、ほら、ちゃっちゃとサインして!」


「ふざけるな! ()()()()!!」


 俺は手の伸ばし、彼女のイヤリングを奪い取る。



「あれ? バレちゃった~??」


 ふわったした紫の髪。軽いノリ。そう、彼女はシュガルツ王国のお転婆姫キャロル。俺が問う。



「何でお前がここに居るんだ?」


「う~ん、お忍び?」


 一国の姫君がお忍びで魔王討伐遠征に参加するのか。そうは思いつつも俺には関係のない話。


「だって、願ってもない腕試しのチャンスでしょ? 絶対行きたいのに、国王パパがダメって言うから……、こっそり来ちゃった♡」


「だからってなんで看護師の格好をしている?」


 キャロルは俺から変化のイヤリングを受け取ると、それを耳に付けながら答える。


「うん、それそれ! エリートが負傷したって聞いたから見に来たんだよ。強いのにどうして? まさか、何か訳があって本当の強さは隠さなきゃいけないとか?? わざと負傷? ねえ、本当にエリートって一体何者なのよ。ねえねえ、教えて教えて!」


 顔の上で機関銃のように喋るキャロルにうんざりしていると、俺を乗せた馬車がギギッと音を立てて停車した。周りが騒がしくなる。どうやら小休憩のようだ。



「あ、これだね! ありがと」


 馬車の外からどこかで聞いたことのあるような男の声がする。すると馬車の間仕切り幕の中からひとりの銀髪の男が現れた。


「やっぱり君か~」


 それは両腰に剣を携えたSランク冒険者のジェイル。以前俺に絡んできたウザい男だ。ジェイルが呆れ顔で言う。


「あの犬ッコロで怪我をした奴がいるって聞いて来てみたんだけど、やっぱり君だったんだね。ねえ、何でそんなに弱いのにここにいるの?」


 俺は横になりながらその男の言葉を黙って聞いた。腹立たしいが、俺が弱くて負傷したのは事実。他は皆軽傷だ。


「俺の目的は魔王討伐じゃない。ある女の護衛の為にここに来ている」


 俺にしては珍しく真面目に答えてやった。だがそれを聞いたジェイルは腹を抱えて笑い出した。


「あはははははっ!! 何の冗談だい!? 君みたいなここで一番弱い奴が、え? 誰の護衛をするって??」


 ジェイルが横になっている俺の髪を掴み、顔を近付けて言う。


「みんな真面目にやってんだ。遊びに来たんなら帰れよ」


 そんなジェイルの腕をキャロルが後ろから引っ張って言う。


「やめなさい、あなた。彼は怪我人ですよ」


 意外な行動をする看護師を見てジェイルが言う。



「君、可愛いのに大変でしょ? こんな男の面倒」


 キャロルは紫の髪をかき上げて答える。


「全然」


「僕の怪我も見てくれないかな。今君に引っ張られて腕が痛くなっちゃったよ~」


 そう言ってキャロルの隣に密着して座るジェイル。無論、変化のイヤリングのせいで彼はキャロルの正体に気付いていない。


「ここは重傷者用の馬車よ。あなた邪魔だから出てきなさい」


 大袈裟にジェイルから離れて座り直すキャロル。さすがに邪険にされたSランク冒険者のジェイルは黙っていなかった。



「君さあ、何か勘違いしていない? たかが一介の看護師が、僕のようなSランク冒険者にそんな態度取っていいのかな~? 君の処遇なんて僕がちょっとお願いすればどうにでもなっちゃうんだよ」


 口調は軽い。だがその言葉は、一介の看護師に対してなら非常に重いものであった。さすがに看過できないと思ったキャロルがイヤリングを外そうとする。



「やめとけ」


 俺は寝ながらそうキャロルに言った。


「エリート……?」


 意外そうな顔を俺に向けるキャロル。正直こんな男の処遇などどうなっても構わないのだが、それでもSランク冒険者。居なくなればこちらの戦力が落ち、ココロへの危険度が増す。ジェイルが立ち上がって言う。


「まあ、いいや。どうせその怪我じゃ、この先の『飛竜の谷』は越えられないしね。怪我していなくても無理だけど」



「エリートーーーーっ!!」


 外から元気なココロの声が聞こえる。休憩に入り、俺の様子を見に来たようだ。ジェイルが言う。


「じゃあね。お嬢さんもまた」


「ふん!」


 そう言ってジェイルがまるで天使のような笑顔を浮かべ馬車を出て行く。



「エリート、どお? 怪我の具合は??」


 ジェイルと入れ替わるように、ピンク髪のボブカットのココロが息を切らして駆け込んでくる。頬が赤い。走って来たのか。


「ああ、まあまあだ」


「エリート様、良かった。安心致しました……」


 後ろにいたサヤカも安堵の表情を浮かべる。



「やっほー、ココロ~!!」


「……え?」


 馬車内に居た看護師がココロに挨拶する。あまりに軽い挨拶。見知らぬ女性。ただココロの直感がその人物の名を告げていた。



「まさか、キャシー!?」


「正解~!!」


 そう言って再びイヤリングを外すキャロル。同時にココロが抱き着いて喜びを表す。


「うそぉ? ほんとに信じられない~!! 来ちゃって良かったの??」


「お忍びよ、お忍び」



「キャ、キャロル姫……!?」


 驚いたのはサヤカ。元騎士団員であり、行ってみれば彼女は雲の上の存在。すぐに片膝をついて頭を下げる。キャロルが言う。


「サヤカ・ヴァレンタイン。まあ、そうね。確かにウィルが消息不明になった時はあなたを恨んだわ。でも、軍を除籍になり今はもう一人の冒険者。もうそれ以上でもそれ以下でもないわ」


「は、はい……」


「私もサヤカって呼んでいい?」


「え? あ、はい。もちろんでございます!」


「ありがと、サヤカ」


「きょ、恐縮です……」


 そんなやり取りを笑顔で見つめるココロ。俺が尋ねる。



「おい、キャロル。その『飛竜の谷』ってなんだ?」


 俺は先ほどからジェイルが言っていたその谷のことが気になっていた。


「この先にある飛竜が棲む谷のことよ。とーっても深い谷で落ちたら即死。迂回しようとすると数か月はかかる大きな谷よ」


 サヤカも頷いてそれを聞く。キャロルが言う。


「そこを渡るには、ひとりひとりが飛竜を手懐けてその背に乗って渡らなきゃならないの」


「手懐けるには飛竜より強くなきゃいけねえってことか?」


 俺の問いにキャロルが頷いて答える。


「その通り。だから彼はあんな言い方したのよ」


「なるほどね」


 俺はこのクエスト参加に、強さの基準が設けられている意味も何となく理解した。

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