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勇者の護り、ココロのお守り。  作者: サイトウ純蒼
第三章「敗北が約束されたクエスト」

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31.御影石の正神

 その日の深夜。俺はひとり宿を抜け、街の郊外へと向かった。昼間の喧騒が嘘のように静まり返る街。空には溢れるほどの星が輝いている。


「おい、待て! お前どこへ行く!? 夜は危険だぞ」


 王都シュガルツに架る長いつり橋。その手前で街を出ようとした俺に門兵が声を掛けた。まあ、当然だろう。こんな時間にひとり外出する方がおかしい。


「散歩に行く。通してくれ」


 俺は冒険者カードを見せそのまま歩き出す。夜のクエストだと思ったのか、門兵はそれ以上咎めることなく鉄の扉を開けてくれた。




「ふう……」


 吹き抜ける夜風が心地よい。ココロも眠っているようなので、あの気だるさがなく体も軽い。俺は街が見えなくなるほど歩いてから、ポケットに入れておいたからの魔弾を一掴みする。


(まずは量産型の魔弾……)


 下級魔法を込める安い魔弾。俺は適当に幾つかの魔法を唱え魔弾に充填していく。


「さて、次はこれだな」


 そして昼間に道具屋で買って来た王都最高の魔弾。月明りを受けキラキラと光るその匠の品は、もう芸術作品と言っても過言ではない。俺は少しだけ楽しくなってきて、その赤いラインの入った魔弾を握り特別な魔法を詠唱する。



「出でよ、神が炎! 地獄の業火(インフェルノ)


 人族でこのクラスの魔法を使える奴がいるかは知らない。魔神である俺の最高峰の魔法のひとつ。これが魔銃でぶっ放せれば、サヤカにだって魔王を一撃で滅することができよう。



 バキ……、パリン!!


「あっ」


 割れてしまった。裂けるようにして割れた魔弾は、その断面が熱で溶けてしまっている。最強硬度を誇るミスリルであるが、さすがに神域の魔法に耐えることはできないようだ。


「まあ、ある程度予想はしていたがな……」


 ちょっとだけ興味があった。人族が作る技術品がどのレベルなのかと。実際キャロルが使うフレイムソードは中々の品であったし、この魔弾ももしかしたら魔法を閉じ込める為の『包括魔法』の強度が不足していただけだったのかもしれない。

 俺は色々考えながら残ったミスリルの魔弾にやや威力を抑えた魔法を充填していった。





「さあ、もうひとつは……」


 深夜に単騎、郊外を訪れた理由はもうひとつある。それは『使える正神せいしん探し』だ。

 ココロが起きている間は、あの極悪スキル【魔神無効】により俺はただの村人になってしまう。これでは『護り』としての使命を果たせない。魔弾を揃えサヤカを強化してもすぐに限界が来るだろう。

 だから村人の俺でもある程度戦えるよう、適当な正神を見つけ使役する。何かの見返りを与えれば彼らにとっても悪い話ではない。



(ん? あの辺に強い気を感じるな)


 俺は更に離れた場所にある鉱石採掘場へと足を運んだ。


「いるな……」


 そこは花崗岩、いわゆる御影石みかげいしなどを採掘し工芸品や住宅に使用するための場所。人族の休憩小屋や、採掘に必要な道具などが並んでいる。ただ俺はある異変に気付いた。



(食われている?)


 そう、人族が掘った規律正しい採掘跡とは別に、無造作に何かに()()()()ような跡が幾つも目に付く。俺は月明りを受け、キラキラと小さく光る御影石の前に立ち声を出す。



「いるんだろ? 出て来い」


 少しの静寂の後、その白い御影石のような肌をした少女が現れる。銀色の髪に銀色の目。無表情の少女が言う。


「初めまして、魔神様。私は御影石の精霊にございます」


 精霊、正神。どんな呼称を使うかは自由だが、まあ簡単に言えば低級の石の神ってとこだ。俺は腕組みをしながら石の正神に尋ねる。


「俺は南の魔神だ。お前、何ができる?」


 御影石の正神は小さく頭を下げてから俺の問いに答える。



「石のことなら色々できますが、最も得意なのは硬化です」


(悪くないな)


 正神としてのエネルギーも強く、そして硬化と言うスキルは村人の俺にとっても色々と応用ができそうだ。



「使い魔にしてやる。望みを言え」


 使い魔。正神にとって魔神と契約を結ぶことは何よりの誉れ。さらにその契約の対価として得られる望みは決して彼らだけでは叶わないもの。御影石の正神が俺の前に歩み出て言う。



「魔神様、私の望みは……」



 ドオオオオオン……


 彼女が話し始めると同時に、鉱山の麓の方から地響きのような爆音が起こる。御影石の正神が怯えた顔となり言う。


「あの魔獣、いしどらを何とかして頂けませんでしょうか……」


「石喰い虎?」


 あまり聞いたことのない名称。俺の問いに御影石の正神が答える。


「はい。私たち花崗岩を食用とする魔獣でございます。人族が掘るスピードは遅く、多少採掘されても問題なのですが、あの個体、あの石喰い虎の食石のスピードは桁違いでございまして……」


 なるほど。人族の採掘や、通常の石喰い虎では問題ないのだが、何か特異種でも発生したらしい。このままではこの辺りの花崗岩が食い尽くされてしまうとのこと。俺は黒マントを靡かせ答える。


「分かった。それが契約条件で良いな?」


「はい」


 俺は小さく頷く。そしてすぐに現れた見上げるような巨躯の魔獣、石喰い虎の前に立ちはだかった。見た目は巨大なグレーの虎。ただ顎は固い花崗岩を砕けるように大きく太くなっている。俺はゆっくり石喰い虎の前に歩み寄ると顔を上げて言う。



「おい。ここでの食石しょくせきはほどほどにしろ。馬鹿食いしたら石がなくなるだろ」


「グルルルル……」


 石喰い虎はグレーの舌を出してぺろりと前足を舐めると俺に言った。



「ナンだ、お前は。食うぞ!!」


 どうやら俺が魔神だと分からないらしい。会話ができる知能はあるようだが、ただの脳筋馬鹿か。いや、脳()馬鹿か。


「もう一度言う。ここでの食石はほどほどにしろ。理解できるか?」


 石喰い虎が大きな口を開け咆哮しながら言う。



「グオオオオオオオ!!! 生意気な人族め!! 食い殺してやる!!!!」


 天敵の石喰い虎の怒りを前に、御影石の正神が怯え姿を消す。大きく開けられた口。太く強力な牙。あれで石を砕き食べているのか。俺は冷静に、初めて見る珍しいものを見つめた。



 ガガン!!!!


 石喰い虎の牙が俺を襲う。俺がそれをひょいとかわすと、鋭き牙が硬い石へと突き刺さった。中々の強度。石を食うだけのことはある。姿は見せないが、何体かの石の正神が集まって来て俺の戦いを見始めているようだ。それほど彼らにとって特異種の石喰い虎は困った存在のようだ。


「グルルルルルルル!!!!」


 再び太い牙が俺を襲う。だが今度は微動だにしない。俺は片手を上げ、襲ってくるその太い牙を掴んだ。



「ガッ……!?」


 動かない。噛んでも硬すぎて噛めない。石喰い虎は初めての経験で、その頭が混乱した。俺が小さく言う。



「魔神に牙を向けし愚か者よ。その罪、その体でもって償え」



 ドオオオオオオオオオン!!!!


「キャイーン!!!!」


 俺は石喰い虎の牙を掴んだまま、もう一方の手で下から顎を殴り上げた。鈍い音と共に、何か固いものが崩れるような音が響く。倒れる石喰い虎。可哀そうではあるが、その立派な牙はすべて粉々に砕いてやった。



「……クルルルルゥ」


 俺が歩み寄り、石喰い虎の横に立つ。先ほどの威勢が嘘のように、まるで猫のような小声になって俺を見つめる。


「殺しはしない。ただもっと考えて食べろ。理解できたか?」


「ゴ、ゴメンナサイ。ゴメンナサイ……」


 ようやく俺が魔神と気付いた石喰い虎が目に涙を浮かべ何度も頷く。下界の事象に関して過度の干渉はしない。無益な殺生もしないのが魔神だ。まあ、あの顎では当面まともに食べられないだろうし、後ほど微弱だが魔獣除けの結界を張ってやる。これでいいだろう。



「魔神様……」


 石喰い虎がふらふらと山へ帰って行った後、そのグレーの御影石の正神が姿を現した。


「あれで良かったか?」


「はい。ありがとうございます……」


 御影石の正神が深く頭を下げる。俺が言う。



「じゃあ、これで契約成立だな」


「はい。嬉しいです」


 初めてその無機質な顔に笑みが浮かぶ。俺が問う。



「俺はエリート。お前の名は?」


「初めまして。我があるじ、エリート様。私は御影石の正神イシスと申します」


「うむ。俺は『護り』の任務である少女の護衛をしている。ただその女がいると魔神の力が発揮できない。だからその時、お前の力を借りることになるだろう。期待しているぞ」


「かしこまりました。()力を尽くします」


 そうイシスは答えるとすっと姿を消し、代わりに白い御影石がボトッと地面に落ちた。普段は石となり干渉はしない。俺はその白く輝く石を拾い懐にしまう。



(さて、これで多少は戦えるようになったのかな?)


 程よい眠気の中、俺はひとり王都へと戻った。

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