28.ギルドに集う偉い人たち?
ひょろっとした体に撥ねたくせ毛。他者を馬鹿にしたような視線で見下すガンダス大隊長。護衛の兵士と共にギルド本部に姿を現した。
「ガンダス大隊長……」
軍の幹部の出現に冒険者たちが驚く。ギルド長に至っては何度も頭を下げ、作り笑いを浮かべている。ガンダスが言う。
「騎士団長救出作戦が上手く行っていないと聞いてきたが、一体何をしている?」
ガンダスはギルド長、そして何やら揉めていた女二人を見て渋い顔をする。ギルド長が慌てて答える。
「いえいえ! 順調でございます! 頼もしき冒険者が続々と参加を表明しております!!」
「ふん……」
そんな報告は聞いていない。何かを言おうとしたガンダスは、そのどこかで見たことのある赤髪の女に気付き首を傾げる。
「お前……、冒険者か? 名前は何と言う?」
一瞬体をビクッと震わせたサヤカが俯きながら答える。
「さ、三流冒険者です。とても大隊長に申し上げる名前など……」
「サヤカ・ヴァレンタインです! この女が図々しくも討伐に参加したいと申してきておりまして!!」
サヤカを遮るようにしてギルド長が言う。体を震わせるサヤカ。ガンダスが手を叩き言う。
「ああ? まさかあの『恥晒しのサヤカ』か!! お前、なぜ参加したいと思った!? 誰のせいで騎士団長が行方不明になっていると思ってるんだ!!」
「も、申し訳ございません……」
もう謝るしかなかった。最悪の事態。できるだけ騎士団には会いたくなかったのだが、よりによってその幹部に出会してしまうとは。突如起きた出来事に、ギルド内が静まり返る。
「サヤ姉はそんな卑怯なことしない!! だから今回騎士団長を助けて、それを証明するんだよ!!」
黙って聞いていたココロ。でもどうしても言わずにはいられなかった。ガンダスがぎろりと睨み、ココロに言う。
「何だ小娘? この俺に意見すると言うのか!?」
「違うよ! 私はただサヤ姉の無実を証明しようと……
ドフ!!
「ぎゃっ!!」
ガンダスが問答無用にココロの腹部を蹴り上げた。
「低級冒険者が!! この大隊長ガンダスに意見など……、!?」
俺は無意識にココロの前に立っていた。そしてそのひょろっとしたくせ毛男の睨みつけ言う。
「おっさん。それ以上やるなら俺も黙っていられねえぞ」
人族同士の喧嘩に興味はない。ただ、『護り』の対象であるココロに危害が加わるとなれば見過ごす訳にはいかない。
周りの冒険者、特にギルド長の顔が青ざめる。ガンダスは軍の中でも副騎士団長に次ぐ幹部。一介の冒険者が楯突いていい相手ではない。
バン!!!
(あっ、殴られた……)
ガンダスは顔を真っ赤にして俺を殴りつけた。頬にじわりと広がる痛み。俺はやはりココロの前ではただの村人に過ぎないことを理解した。ガンダスが大声で言う。
「た、たかが冒険者が、この俺に!? 死罪を持って償うか!!!!」
軍幹部に対する愚行。周りの冒険者たちは驚きと、憐みの目で俺を見つめる。俺は心底面倒臭いと思いながらも、この勘違い人族にその思い上がりを問う。
「この俺に死罪だと? 貴様、本気でそのようなことを……」
「ごめんなさい! でも、私たちは本当に遠征に参加したいだけなの!! お願い、参加させて!!」
俺の腕を引っ張り、ココロが前に出て言う。本当に純粋で真っすぐだ。俺は横からココロを見ながら改めて思った。
「私も参加します! 必ずお役に立てると思っていますから!!」
負けじとサヤカも声を出す。俺は一歩下がって二人を見つめた。苛立ちを隠せないガンダスが更に大きな声を上げて言う。
「ふざけた奴らだ!! お前ら三人とも死罪だ!! ここで死罪だ!! 俺が叩き斬ってやる!!!!」
ガンダスはそう叫ぶと腰に付けた剣を抜き、振り上げた。突然の緊急事態にギルドの空気が凍り付く。軍幹部の激怒。ゴミのように扱われる低級冒険者はいつもこうして国によって抹殺される。
「何やってる!!!!」
そんな凍り付いた空気を、その突如響いた声が一瞬で破壊した。剣を振り上げたまま固まるガンダス。その顔は青ざめ、脂汗が滲み始める。ギルド長が震える声で言う。
「ミ、ミスランド副騎士団長……」
真っ赤な衣装に同じく赤い三角帽。腰には革製のムチを携えた口の悪い副騎士団長ミスランドが、がつがつとギルド内に入って来て言う。
「おい、クソキン〇マ野郎!! なんで抜刀してんだ!!」
ギルド内でのトラブル。特に暴力沙汰などギルド長が手に負えない場合、こうして王国騎士団が介入する。言わばこれは当然の仕事。剣を下ろしたガンダスが苦笑いして答える。
「ち、違います。ミスランド副騎士団長様。こいつらは私を侮辱し……、あ、そうそう。サヤカ・ヴァレンタインが現れましたぞ!! 『恥晒しのサヤカ』でございます!!」
ガンダスはそう開き直ったよう言いながら、サヤカを指さす。それを聞いたミスランドがサヤカをギッと睨みながら言う。
「貴様、サヤカ・ヴァレンタイン!! どうしてここに居る!? このクソチ〇ポ野郎っ!!!」
おいおい、サヤカにそれはついていないし、そもそも性別がおかしいだろ。俺はそんなことを思いながら、この低俗女の言葉を辟易しながら聞いた。サヤカが深く頭を下げて言う。
「も、申し訳ございません!! ただ私は今回の遠征に参加して、騎士団長の救助のお手伝いを……」
「ねえ、サヤ姉。この人誰?」
そんなサヤカの隣でココロが尋ねる。それを聞いたミスランドが怒声を上げる。
「この私を知らないのか!!! このクソビ〇チがああああああ!!!!」
同時に周囲に放たれるミスランドの強力な覇気。赤き熱風を伴ったその衝撃に、周りの冒険者やガンダスが腰を抜かして座り込む。
「お前、うるせえよ。ちょっとは静かにしろ」
俺はミスランドの真正面に立ってそう口にした。崇高な神である俺の御前での下賤な言葉の連呼。何に苛立っているのか知らないが、もう黙って看過できるレベルではない。ミスランドが驚いた声で言う。
「ほお、お前。この私の覇気の前でも平然でいられるかのか?」
周りは冒険者を含め、ミスランドの覇気に恐怖し座り込み、腰を抜かしている者もいる。
「この俺が人族程度の覇気に怖気づくとでも思ったか?」
「な、何を言っているのだ、あいつは……」
ギルド長やガンダスが信じられないと言った顔で俺を見つめる。相手は騎士団幹部、副騎士団長のひとり。とてもただの冒険者が意見できる相手ではない。ミスランドがくすくすと笑いながら言う。
「いいね、いいねえ~。そうやって無知で何も知らない奴が、最後泣きながら私に許しを請う姿ってのが堪らないんだよ~。いいか? このクソキン〇マ野……」
「ミスランド、やめなさい!!!」
再び響く大きな声。新たな登場人物。俺はまたかと思うと同時に、一体何人ここにやって来れば終わるのだと小さくため息をつく。だがその人物を見たミスランドが唖然とする。
「キャ、キャロル姫……!?」
王族の真っ白な衣装を身につけ、髪はふわっとした紫色のポニーテール。やや気は強そうだが、可憐で美しいシュガルツ王国の姫君がギルドに現れた。キャロルが近づき言う。
「何をしているの? ミスランド」
そう問い詰められたミスランド。放っていた覇気が一瞬で消え、しゅんとしながら答える。
「ちょ、ちょっとトラブルがあって、その……」
ミスランドはキャロル姫が苦手だった。姫と言う身分もあるが、なぜか彼女のオーラに気圧される。
「ひ、姫様……」
元騎士団員であるサヤカが片膝をつき頭を下げる。ギルド長やガンダスも胸に手を当て敬意を示し、周囲の冒険者も敬礼を始める。
(姫? なんでそんな奴がこんな所に現れるんだ?)
そう思っていた俺を、意外な展開が襲う。
「エリートぉ!! 会いたかったよ!!!」
「ぎゃっ!?」
突如、キャロル姫が俺に飛びつくように抱き着いた。
「え? えええーーーーーーっ!!??」
周囲はもちろん、ガンダスやギルド長、ミスランドまでもが驚き声を上げる。戸惑う俺が言う。
「ちょ、ちょっと待て! 俺はお前なんか知らないぞ!!」
両手を俺の首に回し、じっと見つめながらキャロルが答える。
「そうだった、ごめんね! ええっと……」
キャロルはポケットから小さなイヤリングを取り出し、それを耳に付け始める。そして気付いた。ココロが言う。
「あっ!! キャシー!!??」
そう、それは天空の塔で一緒に戦った孤高の剣士キャシー。驚くココロにキャロルが言う。
「ごめんね! これは『変化のイヤリング』。つけていると相手を誤認させるの。お忍びでよく使うんだ」
身分を明かせないキャロルの護身手段のひとつ。同時にココロは彼女が持っていた高価な装備の理由を理解した。キャロルが俺に言う。
「エリート、ずっと会いたかった!! あなたの凄すぎる衝撃が忘れられなくて。ねえ、私の専属の護衛になってくれない? 報酬は幾らでも出すからさ!!」
やれやれ。俺はまた面倒なことが始まったと小さくため息をついた。




