27.騎士団長救出作戦、始動!
シュガルツ王国の軍会議室。テーブルを囲み、ずらりと並んだ幹部を前に、そのひょろったしたくせ毛の男ガンダス・ボーギレは苛立ちを隠せなかった。
「なんで冒険者が集まらないのだ!! 何をやっている!!」
皆は下を向き黙り込む。議題は数日後に迫った【騎士団長救出作戦】。作戦の指揮を任された大隊長であるガンダスは、思うように進まない作戦の状況を聞き声を荒げる。
ドン!!
テーブルを叩きガンダスが言う。
「とにかく冒険者を集めろ! 使える冒険者だ!! いいか? 後は俺が何とかする」
国中が軍に不満を抱いていた。人類の希望であったウィルソン騎士団長が消えて数か月。救出どころか所在さえ掴めない軍に人々は落胆していた。騎士団長の代わりを務める副騎士団長らは、皆各地の小競り合いで忙しい。そこでガンダスが動いた。
『俺が軍を指揮する!!』
戦闘力は皆無だが、姑息な策略に長けたガンダス。あっと言う間に国王を巻き込んで【騎士団長救出作戦】の決行が決まった。幹部の一人が言う。
「ガンダス大隊長! ミスランド副騎士団長がお越しです!!」
「うむ……」
とは言え、やはり作戦には強い駒が必要。その最たるものが三名いる副騎士団長だった。
バン!!!
勢いよく開かれる会議室の扉。そこには小柄だが真っ赤な衣装に三角帽。腰に同じく赤い革製のムチを携えた少女が仁王立ちしている。ガンダスが目じりを下げて言う。
「これはこれは、ミスランド副騎士団長様。ようこそおいでくださいました!」
これまでの態度がまるで嘘のように一変。腰を低くしてミスランドに頭を下げる。ミスランドは会議室を一瞥し、腕組みしてから言う。
「ふん! まだこんなくだらない会議をしているのか。おい、キン〇マ野郎!! お前なんかで大丈夫なのか!!」
ミスランドはとにかく口が悪かった。実力は折り紙付きだが、あまりの口の汚さに部下も次々と辞めて行くある意味『問題児』。ガンダスが顔を引きつらせながら答える。
「も、もちろんでございます! ミスランド副騎士団長様らが来てくだされば、間違いなく騎士団長様の救出もできるかと」
「ゴリラとロリは参加するのか? キン〇マ野郎」
ガンダスが手を擦りながら答える。
「バルザック副騎士団長様に、ラーズリー副騎士団長様ですね? ええっと、今のところ遠征に出ておられており参加はまだ不明でして……」
「ふん! あんなゴミクズなんていなくても私だけで十分だ。おい、ガンダス。ちゃんと作戦立てろよ? でなきゃ、今後お前をクソキン〇マ野郎って呼ぶからな!!」
「か、かしこまりました……」
ガンダスはそう言って頭を下げながら、部屋を出て行くミスランドを見送る。
(クソ、相変わらずなんて下品な女なんだ!! 今に見ていろ。もうすぐこの俺がトップに上り詰めるんだから!!)
頭を下げながらガンダスは、間もなく手にするだろうその光景を思いほくそ笑んだ。
「いや~、お腹いっぱい。美味しかった。ね、サヤ姉」
俺たち三人は王都のレストランでたらふく食事をし、賑わう大通りを歩いていた。さすが王都。食事のレベルも高いし、店で売られている商品の質もいい。ココロが言う。
「でも、サヤ姉しかお金下ろせないなんて聞いてなかったよ~」
これはサヤカも知らなかったようで頷きながら答える。
「そうですね。私も本当に知りませんでした。でも良かったですね。魔王討伐報酬がたくさんもらえていまして」
ギルド銀行の口座を見てサヤカは驚いた。残高が金1,000以上もある。これまでの節約生活が嘘のように、王都でお腹いっぱいの食事を皆で楽しんだ。サヤカが振り返り俺を見て言う。
「これもエリート様のお陰です。ありがとうございます」
俺はポケットに手を入れたまま黙って後を歩く。ココロが呆れた顔で言う。
「サヤ姉~、だからエリートじゃないってば。ちょー弱いでしょ? きっとサヤ姉の攻撃が効いて倒せたんだよ!」
「ココロ、だからそれは違いますって! 本当にエリート様が……」
「もお、やっぱりサヤ姉は騙されているんだ。いつかその誤解を私が解いてあげるよ!」
「ココロぉ~」
くだらない会話。俺はもうそんなことどうでもいいし、それよりもココロの持つ【魔神無効】から来る気だるさの方が鬱陶しい。
「おい、着いたぞ……」
俺は二人がそのままギルドの建物を通り過ぎようとするのを見て言った。サヤカが口に手を当てて答える。
「あら、いやだ。通り過ぎようとしちゃいました。お恥ずかしいです、エリート様……」
本当に恥ずかしかったのか、自身の赤髪よりも顔を真っ赤にしてサヤカが答える。対照的にココロはギルドの建物を見上げやや不満気に言う。
「Bランク以上じゃないと参加できないなんて、条件厳しすぎるよー」
俺たちが次に訪れたのはギルド本部。もちろんココロが希望する【騎士団長救出作戦】について交渉するためだ。彼女の話では参加条件があるようだ。まあ、正直俺にとってはどうでもいい話なのだが。
「うわっ、やっぱりすごい人!」
再びギルドにやって来たココロ。先日同様、たくさんの冒険者や人で賑わっている。ココロとサヤカがカウンターに行き声を掛ける。
「あの……」
カウンターで忙しく書類を眺めていた受付嬢がその声に気付いて答える。
「はい! 冒険者さんですね。どのようなご用件でしょうか?」
眼鏡をかけた感じのいい受付嬢。ココロもやや安心して尋ねる。
「実は緊急クエストの、【騎士団長救出作戦】に参加したいのですけど……」
「【騎士団長救出作戦】ですね? ええっと、失礼ですが冒険者ランクは幾つでしょうか? 現在Bランク以上が参加の条件となっていまして」
残念だがココロはDランク。元騎士団員のサヤカでもCランク。このままでは参加できない。ただ二人には作戦があった。サヤカが前に出て言う。
「私、私はサヤカ・ヴァレンタインと申します。騎士団長が行方不明になったクエストの唯一の生還者です」
「え……」
それまで笑顔だった受付嬢の顔が凍り付く。サヤカ・ヴァレンタイン。王都では『恥晒しのサヤカ』としてある意味有名な人物。戸惑う受付嬢にサヤカが言う。
「私が参加します。私ならきっと捜索のお役に立てるかと思います」
なにせ情報が少ない騎士団長の魔王討伐遠征。その生還者が参加するなら決して悪い話ではないはず。ココロとサヤカの狙いはずばりそこであった。
「ちょ、ちょっとお待ちください。責任者に確認を……」
受付嬢は慌てて奥の部屋へと駆けて行く。当然である。一介の受付嬢で対処できる話ではない。
「サヤ姉……」
ココロはじっとギルドの奥を見つめるサヤカに気付いて声を出した。小刻みに手が震えている。当然だ。彼女にとってあの辛い出来事を掘り越すことは、並大抵の覚悟ではないはず。
「あ、あちらです。ギルド長……」
しばらくして眼鏡の受付嬢と一緒に現れたのは、白髭を生やし高そうなスーツを着た初老の男性。このギルドの最高責任者であるギルド長であった。緊張が走るサヤカにギルド長が言う。
「君がサヤカ・ヴァレンタインかね?」
「はい。そうです……」
その一言でサヤカは理解した。『歓迎されていない』と。
「残念だけど、君に参加の資格はないよ。このクエストはBランク以上が条件だ」
サヤカが答える。
「分かっています。だけど、私が一緒に行けば何か騎士団長捜索の助けになるかと……」
「助け? 我々の英雄を置き去りにして逃げたあなたが、どの口で言うのですかね」
「……」
これまで何でも聞いてきた自分への批判。だが負けない。
「だからこそ、私は……」
「サヤ姉は、そんな卑怯なことしないよ!! それを証明するために参加するじゃん!!」
隣にいたココロが大きな声で言う。騒がしかったギルドが一瞬静かになり、その視線がカウンターに居るふたりの女性に向けられる。
「おい、あれって、サヤカ・ヴァレンタインじゃねえのか!?」
「マジで!? 『恥晒しのサヤカ』じゃん!!」
俺は二人から離れその様子を見つめる。なるほど、王都ではサヤカに対する風当たりが強いのが体感として理解できる。ギルド長が言う。
「あなたに来られては迷惑なんですよ。隊の士気が下がるかもしれない」
「……分かっています。でも」
「何をしている!!」
そんなやり取りを打ち消すような大きな声。ギルド入り口に護衛と共に現れた、そのひょろっとしたくせ毛の男を見て皆が道を開ける。ギルド長がカウンターを出て深々と頭を下げて言う。
「これはこれは、ガンダス大隊長。お恥ずかしいところを見せました」
「ガンダス大隊長……」
俺はまるで汚物を見るかのような視線を送るサヤカを見て、まあ、また下らねえ奴が現れたのだと確信した。




