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勇者の護り、ココロのお守り。  作者: サイトウ純蒼
第三章「敗北が約束されたクエスト」

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24/37

24.魔王倒したのに、お金がない!!

『早く……、早く行くんだ!! この事実を、皆に……、頼む……』


 シュガルツ王国の【陸の孤島】と呼ばれる僻地。そこに聳える魔王の居城。人類最強と称えられた騎士団長ウィルソン・ローズハートを中心に編成された魔王討伐隊は、想定外の事態に全滅の危機を迎えていた。

 赤髪の騎士団員サヤカ・ヴァレンタインが震えながら答える。


『私、私……』


 優勢だった王国騎士団。魔王討伐まであと少しの所で、それは起きた。



(氷!?)


 突如一面を覆いつくす巨大な氷塊。既に多数の死傷者を出していた騎士団にそれは致命的な敗北を告げた。徐々に氷漬けにされていく騎士団長ウィルソン。たまたま物資の補給のため前線を離れていたサヤカは、戻って来てその光景を見て唖然とした。



『早く、行け……、これは、命令、だ……』


 ウィルソンの最後の言葉。サヤカはそれを聞き全力で出口へと駆け出した。歴史的な大敗。人類の希望である騎士団長ウィルソンの喪失。数週間かけたったひとり王都に帰ったサヤカだったが、当然の如く批判の的となった。



『団員風情が騎士団長を見捨てた』

『あんな奴よりウィルソン様が帰って来れば良かったのに』

『騎士団の恥晒し』


 団長が託したサヤカの報告は軍によって一蹴された。起こり得ない団長の敗北、突然の氷結。それよりもウィルソンを失った軍の怒りの鉾先が全てサヤカに向けられた。帰還して直ぐに強制的に軍を除名。周囲からは『恥晒しのサヤカ』と罵られるようになった。



『お前が代わりに死ねば良かったのに』

『お前が、死ね死ね死ね死ね死ね死ね……』



 ――死ね!!!!!






「!!」


 目を覚ましたサヤカは全身汗だくとなり、手足が震えていることに気付いた。目には涙。またいつもの悪夢。軍を辞めてから数ヶ月。時々自分を襲うあの時の記憶に今も苦しめられる。


(何もできなかった私が悪い……)


 サヤカは騎士団の中でも下っ端。もちろん敗北の原因が彼女にある訳でもないのだが、それでも軍や王都の民は英雄を失った怒りを誰かにぶつけずにはいられなかった。



【騎士団長救出作戦、決行!! 猛者を求む!!】


 サヤカは机の上に置かれたチラシを手に見つめる。騎士団長ウィルソンと向かった僻地にある魔王城。だが不思議なことに敗北以降、そこは何もない荒野となり捜索が不可能であった。


(きっと魔王城が見つかったのですね、でも……)


 サヤカは艶のある赤髪を丁寧にブラシで梳き、身支度を整える。今日ブルック村を出て呪われた王都へと向かう。




「おはようございます。エリート様」


「うむ」


 ひょんなことから行動を共にすることとなった黒髪の男。全身黒づくめで一見するとただの怪しい人なのだが、その強さ、そして一緒にいる安心感はあの騎士団長をも凌ぐ。


「今日、王都へ向かわれるのですね?」


「ああ。ココロが行ったんだろ? なら仕方ない。むしゃむしゃ……」


 チラシを手にそう尋ねたサヤカにエリートが焼き菓子を食べながら答える。もう逃げるのはやめた。彼が行くと言った瞬間、サヤカの中に不思議とある感情が湧き出した。



(彼となら行ける気がします……)


 恐怖に体が震え、罵られた呪われた王都。ひとりになったココロが、騎士団長救出作戦と言うクエストに参加するのもきっと私の為。もう逃げない。正面から立ち向かう。



「エリート様……」


 朝食を食べているエリートが顔を上げ答える。


「なんだ?」


 サヤカが深く頭を下げて言う。



「よろしくお願いします!!」


「分かったから、お前も早く座って食べろ。焼き菓子最高だぞ」


「はい!」


 きっとまたこの人に頼ることになってしまうんだろう。サヤカはそう思いつつも、ようやくあの事件に向き合えるようになった自分を褒めてあげたくなった。






「はあはあ、はあ……、さすがに遠いなあぁ。あとちょっとだと思うのに……」


 天空の塔から毒消し草を持ち帰り、急ぎ村を出たココロ。目指すは【騎士団長救出作戦】が始まる王都シュガルツ。大切なサヤカの名誉挽回の為に自分も参加する。


(サヤ姉がひとりみんなを裏切って逃げ帰ることなんてあり得ない。絶対確かめてやる!!)


 そう思ったココロは深く考えず、気がついたら王都へと走り出していた。無計画な移動。王都までの長い行程を前にさすがのココロもやや反省し始める。



 ぐう~


「ううっ、お腹減ったよ……」


 ゴブリン魔王討伐で貰った報奨金はまだ全く手を付けていない。お金を下ろすこともせず行動に移る。当然村を出てから夜通し走りっぱなしの彼女の疲労は、とうに限界を迎えていた。



「あれ?」


 そんなココロの目に脱輪した荷馬車が映る。商隊だろうか。車輪が溝にはまり動かなくなっている。ココロが駆けつけて言う。


「どうしたんですか??」


 商人っぽい成りをした男が困った顔で答える。


「見ての通りだよ。車輪がはまっちゃってね。動けなくなって困ってるんだ」


 ココロはすっぽりと溝にはまった車輪を見てから言う。


「私、手伝いますね!!」


「おお、そうか! それは助かる!!」


 ココロは荷馬車の後ろに行き掛け声を上げて言う。



「行きますよ!! せーの!!」


 ゴゴゴゴッ……


 ココロの手伝いもあってか荷馬車がゆっくりと動き出す。



「おお!! やったぜ、嬢ちゃん!! 助かる!!!」


「てへへへ……」


 ココロが顔を赤らめ嬉しそうな顔をする。この瞬間が好き。人が素直になれる大切な一瞬。商人が荷馬車から果物を取り出しココロに渡して言う。



「食べな。お礼だよ!」


「え? いいんですか!! ありがとうございます!!」


 空腹だったココロはすぐに果物に齧り付く。商人は馬車に乗り手を振って言う。


「ありがとうな! じゃあな!!」


「ひゃい!! また!!」


 それにココロも手を振って答える。誰かの笑顔。それが勇者を目指す彼女にとっては最高の元気の源となる。


「さて、行こっかな!!」


 果物を食べ終え元気が出て来たココロ。再び高速移動で王都へと駆け出した。






「うわああ! あれが王都か。でかっ!!!」


 一体どれだけ走ったのだろう。体の疲れもピークに達したココロの前に、ようやくその巨大な城塞都市が姿を現した。深く掘られた堀に、街をぐるっと囲む堅固な城壁。正面にはまるで外敵を拒むよう架けられたつり橋。堂々たる王都の面持ちだ。


 つり橋の前には行列ができている。皆街への許可を求める人たちのようだ。行商人に冒険者、身なりの整った人も見かける。


「身分証を見せろ」


 門兵が順番になったココロにぶっきらぼうに言う。すぐに冒険者カードを取り出し見せる。


「Dランク冒険者? お前みたいな子供が? ふーん、で王都に何の用だ?」


 素性は問題なし。門兵が決められた質問をココロに尋ねる。


「あ、はい。ギルドのクエストに参加しようと思って……」


 緊張気味のココロ。門兵は冒険者カードを返すと興味なさそうに言う。


「行っていいぞ」


「ありがとうございます!」


 ココロは内心ドキドキしながら冒険者カードを受け取り、長いつり橋を駆ける。巨大で分厚い鉄製の門。その横の小さな出入り口から彼女が街へと入る。



「うおおおお!! これはこれは!!」


 田舎で生まれ育ったココロにとって、初めての王都はそれはまるで別世界のように見えた。

 レンガ造りの高い建物が並び、広い石畳の街道には見たこともない花が咲き誇る。歩く人たちの身なりも気品がありとてもお洒落。エルフやドワーフ、獣人族も闊歩し、まさに国の中枢と言える賑わいであった。


「まずはお金。お腹減った……」


 ココロは街の人に尋ね、ギルド銀行へと向かった。今夜の宿代に食事。必要に迫られて初めて彼女は行動する。



「あの……、お金を下ろしたいんですけど。これ、冒険者カードです……」


 石レンガ造りの重厚な建物。警備兵が多く物々しい雰囲気の中、カウンターにやって来たココロが小さな声で尋ねる。これまでこういった事務的なことはすべてサヤカに任せていた。何もかもココロにとって初めてのことであった。


「ええっと、ココロ・ホワンシュガーさんですね。少々お待ちを……」


 ギルド銀行職員が冒険者カードを見ながら参照を始める。緊張するココロ。金500。今から何を食べようかとワクワクする。職員がやや困った顔をしながら尋ねる。



「あの、サヤカ・ヴァレンタインさんはご一緒でしょうか?」


「サヤ姉? ううん、今はいないけど……」


 嫌な予感がする。そしてそれは現実のものとなる。



「ココロさんは、サヤカ・ヴァレンタインさんとパーティを組んでいらっしゃいますね?」


「はい……」


「パーティ責任者がサヤカさんになっておりまして、基本、お金の出し入れはその責任者しかできないんですよ」


「ん? それどういう意味……?」


 事態が飲み込めないココロ。職員が分かりやすく言う。


「つまり、もうひとりのエリートさんを含め、ココロさんではパーティのお金を勝手に下ろせないと言うことです」


「ええ!? な、なんで!? 私が頑張ったお金だよ……」


「事情は存じ上げませんが、ココロさんおひとりではお受けすることはできません。サヤカ・ヴァレンタインさんと一緒にお越しください」


「だ、だって、サヤ姉は……」


「すみません。後ろのお客様がお待ちですので」


 ココロは自分の後方で順番を待つ別の客に気付き、頭を下げその場を去る。



「どうしよう~、サヤ姉が居ないとお金下ろせないなんて聞いてないよ……」


 ギルド銀行を出たココロ。ひとりがっくりと肩を落とした。

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