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勇者の護り、ココロのお守り。  作者: サイトウ純蒼
第二章「案外、この世界も悪くないかもな。」

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20.魔草の魔王デスプラント

(な、なにこの毒……、体の自由が利かない……)


 ココロは魔草の魔王であるデスプラントによって冒された毒により、体の自由を奪われていた。皮膚が紫色に変わっていく。それはそう、まるでブルック村で見たルキアの母親のよう。


「毒消しも効かないなんてどういうこと!!」


 キャシーが騎士団から貰っていた毒消しをココロに飲ませるが、一向に変化なし。これはただの毒ではない。呪いの毒なんだとココロは理解した。キャシーがフレイムソードを構えココロに言う。



「今からこの部屋の魔草をすべて焼き払うわ!! そうしたらきっと上への階段が見つかるはず。最上階にはあるんでしょ? どんな異常状態も治す薬草が」


 朱色の刀身。振る度に火が舞うフレイムソードは、火に弱い魔草とは相性がいい。


「うん……、私は、そう信じてる……」


 ココロが一面紫の魔草で覆われた広間を見て答える。キャシーが汗を流しながら言う。


「ココロは必ず上に向かって。何があろうと、ひとりでもいいから必ず行くこと。いい?」


「……分かった」


 キャシーはその返事を聞くと、触手を宙に漂わせているデスプラントに向かって叫ぶ。



「さあ、焼き尽くしてあげるわよ!! 覚悟なさい!!!」



「ウグググ……、数百年ぶりの人族か。これは良い養分になりそうだ。グググッ……」


 たくさん目玉がぎょろぎょろ動き、触手が波打ちながら久々の獲物に興奮するデスプラント。気持ち悪い。薄暗く、空気も悪いし、とにかく早く何とかしたい。キャシーはフレイムソードを振り上げ斬りかかった。


「はああああああ!!!!」


 シュンシュン!!!!


 襲い掛かる触手を炎の剣が次々と斬り落としていく。同時に燃え上がる炎。斬られた触手が燃え始める。



 プシューーーーッ


「え? なに!?」


 キャシーは戸惑った。デスプラントの体からいきなり紫の霧が発生。キャシーの炎を包み込むとあっと言う間に消火してしまった。デスプラントが言う。


「我ら魔草が火が苦手なのは十分承知。だから自己消火できるんだよ。グググッ……」


「それでも斬る!!!」


 キャシーは諦めずに次から次へと延びる触手を斬り落としていく。その度に発生する紫の霧。引火と消火。しばらく繰り返した後、キャシーは体の異変を感じた。



(あれ? 眩暈が……)


 物がふたつに見える。床が揺れるような錯覚。息苦しい。ここで初めて何かに冒されていることを理解した。



「ようやく効いてきたね。このガスにはね、微量の毒が含まれているんだよ。グググッ、さあ、お前ももう終わりだ」


 その言葉と同時に、デスプラントの細く長い触手がこれまでにないスピードでキャシーに襲い掛かる。



 グサッ!!!


「ぎゃああ!!」


 鋭く、まるで尖った細い槍のようになった触手が、キャシーの足に突き刺さる。それを見たココロが立ち上がり、勇者の剣を手に突撃する。


「キャシー!! うおおおおおおお!!!!」



 グサッ!!!


「ぎゃっ!!!」


 だがすでにここは毒が満ちた言わばデスプラントの領域内。呪いの毒を受けたココロも呆気なくキャシー同様、触手で足を貫かれてしまう。デスプラントが笑いながら言う。



「グググッ、簡単には殺さないぞ。ゆっくりゆっくり死に追いやり、その間ずーっとお前らの養分を吸い取ってやる……」


 言わば生きながら命を吸われる地獄。デスプラントは別の触手を伸ばしココロとキャシーの体の自由を奪うと、ゆっくりとふたりの生気を吸い始める。


「こ、こんなこと……」

「体が、動か……ない……」


 毒によって意識が遠くなり、体の自由も利かない。もはや敗北。やはり相手は魔王。たったふたりで何とかできる相手ではなかった。




「ココローーーーーっ!!!」


 そんなココロの頭に、その聞き慣れた声は女神の声のように響いた。



「くそっ、最悪の状態じゃねえか!!」


 俺はココロに絡みついている触手を見てそう思った。あれは魔草の魔王デスプラント。駆け出し冒険者が何とかなる相手ではない。サヤカが言う。


「わ、私の魔銃で……」


「やめろ! あの霧、あれは爆発性の霧だ。微量の毒も混ざってやがる」


「そ、それじゃあ……」


 動揺するサヤカに俺が言う。



「相手は魔王だ。魔王デスプラント。地味だが剣で薙ぎ払うしか助けられねえ!!」


 俺は今更ながらココロの持つスキル【魔神無効】を呪った。本来ならばこの程度の魔王、相手にすらならない。



「ウグッ? お前、マダ生きていたのか……!?」


 そんな俺にデスプラントが言う。まだ生きていた? 一体何を言っている。無論、俺はこんな下賤な生物と会うのは初めて。


「いやいや、そんなはずはない。人族が何百年も生きるはずはない。お前、ダレだ?」


 俺は中古の鉄の剣を抜き、デスプラントに答える。


「知った時、お前は死ぬぞ? 死にたくなければそのふたりを放せ」


 デスプラントが触手をフロア中に揺らしながら答える。


「グググッ、違うか。あの男も勇ましかったが、これほど馬鹿じゃなかった。あまりにもそっくりなので驚いたよ、またあの()()が遣わせたんじゃないかってね……」


(!!)


 俺はようやく気付いた。

 このフロアに入ってから感じていたデスプラントの邪気。それは塔の麓にあるブルック村の石塀に刻まれていた魔神用の結界と同じもの。


「おい、お前。ブルック村で何をした? 大昔にあそこに結界を張ったのはお前だろ?」


「……ほお、只者じゃないな。人族にしてはできる。いいだろう、少しだけ教えてやる」


 デスプラントは触手をゆらゆら揺らしながら続ける。


「数百年前、あの村に突然魔神が現れてな、驚いたよ。だが同時に魔神を仕留めるチャンスだと思った。だからその魔神に強力な毒を盛ってやった。焼き菓子に混ぜて」


 俺はそれが先にサヤカから聞いた村の伝承になっていることに気付いた。


「その後、やって来たんだよ。その魔神の遣いが。この上にある解毒剤を求めてな。ただの人族だったんだが、魔神の加護を受けていて殺し損ねて逃げられちまった。魔神がどうなったか知らねえが、居なくなったんで多分死んだんだろう。俺の毒は最強だからな」


「だから村に結界を張ったのか。魔神が能力を使えないように」


「そうだ」


 確実に魔神を仕留めるならそうするだろう。回復魔法を使われたら、この程度の魔王の毒全く意味もなくなる。サヤカが言う。



「すごいです。村の伝承って本当だったんですね……」


「ああ。それより、準備はいいか?」


 俺は小声でサヤカに尋ねる。彼女が頷くのを見てからデスプラントに言う。



「さあ、そのふたりを返してもらうぞ!!!!」


 俺の掛け声と同時にサヤカが護身用の短剣を持って突撃。俺も中古の剣を振り上げデスプラントに斬りかかる。



 ザン、ザザザザン!!!!


 結果的に言えば、サヤカはよくやった。触手に捕らわれていたココロを無事奪還。意識朦朧としている彼女を救助した。対する俺は、まあ最悪だ。


「ぎゃあああ!!!」


 毒の霧、槍のような触手。そのすべてを俺は真正面から受けた。仕方ない。ココロが居る以上俺はただの村人。多分この中で一番弱い。俺の悲鳴を聞き、目を覚ましたキャシーが言う。



「あ、あなたは……、どうして!?」


 それは俺が聞きたい。なぜこの俺がこんな見知らぬ女を命懸けで助けているのか。どうしてこうなった……


「は、早く、逃げろ……」


 俺は中古の鉄の剣でキャシーに絡みつく触手を少しずつ斬っていく。


「あ、ありがとう……」


 俺は黙って触手を斬り続ける。毒と痛みで、頭がくらくらして来た。まずい。このままではさすがの俺ももたないかもしれない。



「みんな、ごめんね!! 薬草採って必ずまた戻って来るから!!!」


 サヤカの持つ薬で少し動けるようになったココロ。先ほどキャシーが焼いた壁の一部に階段を見つけ、全力で走り出す。


「ココロ!! 待ちなさい!!」


 サヤカの言葉にも耳を貸さず階段を上っていくココロ。俺は失いつつある意識の中、それをぼんやりと眺めた。



「ごめんね、ごめんね……、私を助けるために……」


 目の前でキャシーが涙を流す。まだ触手が取り切れていない。切っても切っても増え続ける触手。キャシーには、もう諦めに近い気持ちを抱いていた。


「グググッ、ひとり逃げたか。まあいい。お前ら三人は俺の養分となれ……」


 既にサヤカも毒の霧で体の自由が利かなくなっている。伸びる触手。キャシーが俺の顔に手を添えて言う。



「よく見るとさ、結構可愛い顔してるじゃん……。ココロなんかよりも、私をさ……、口説いてよ……」


 こんな時に私は何を言っているのか。いや、こんな時だから、最期の時だからこんなことを言っているのか。無理とは分かっていたけど、恋愛もしてみたかったな。キャシーの目に涙が溢れる。



「断る」


(え?)


 キャシーは驚いた。今の今まで死にそうになっていた黒髪の男が、急に鋭い目つきとなり強い圧を放ち始める。



 ゴオオオオオオオオオオ……



「え? な、なに……!?」


 同時に黒髪の男から黒い炎が立ち上がる。巻き付いていた触手が一瞬灰となってしまった。



「悪いが、俺とお前では格が違う」


 キュン……


(なになに!? この俺様キャラ!! 惚れちゃうじゃん……)


 キャシーは物語の中でしか会えなかった『俺様キャラ』に遭遇し、死にそうなのに興奮し始める。俺がデスプラントに向かって言う。



「さて、そこの雑草。もう、分かるよな……?」


「ば、馬鹿な……、こんな所に、なぜ……」


 驚くデスプラント。その幹の至る所から、まるで汗のように紫色の体液が流れ始めた。

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