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勇者の護り、ココロのお守り。  作者: サイトウ純蒼
第二章「案外、この世界も悪くないかもな。」

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13.ブルック村の伝承

「ふ~ん、なるほどね」


 ココロは小さな依頼主である少女ルキアと一緒に歩きながら言った。ルキアが住む村は徒歩で半日程度の距離。ココロは色々な話を聞きながら村へと向かっていた。


「突然呪いの毒を受けた、か……」


 正直聞いてもその理由も原因もさっぱり分からない。見当すらつかない。回復の魔法なんて使えないし、市販の毒消し薬はすべて試したけどダメだったらしい。ただ、村に伝承として伝えられている郊外の天へ聳える塔『天空の塔』の頂上には、どんな病気や呪いも解く薬草が生えているそうだ。ココロが尋ねる。


「ねえ、それってどんなお話なの?」


 歩きながらルキアが答える。


「うん。えっとね、何百年も前のお話だけど、村には焼き菓子を作る職人が居て、とても美味しくて有名だったらしいの。それでね、毎日たくさんのお客さんが来ていたんだけど、ある日ひとりの黒髪の女の人がやって来たの」


「黒髪の女の人? ねえねえ、それってまさか??」





「はい、その通りです。ふたりは恋に落ちました。あの、どうしてそれがお分かりでしたか? エリート様」


 俺たちは結局、ココロが向かった方角に出る馬車に乗りながら移動していた。ゴブリンに襲撃を受けた村。急ぎの馬の手配などできなかった。サヤカがその村の伝承を話し始めたのは、荷台に揺られながら暇を持て余していた俺の為だったらしい。


「そんなもん、大概そうなる」


 見てはいないが人族の伝承など大方色恋沙汰が絡む。それぐらい安易に想像がつく。サヤカが続ける。


「それでですね、その焼き菓子を気に入った黒髪の女性が毎日のように通い、職人と恋に落ち、二人は結ばれたのです!」


 妙に嬉しそうなサヤカ。俺は外の景色を眺めながらそのどうでもいい話を聞いた。





「でもね、幸せは長く続かなかったの」


 ココロはルキアの表情が曇るのを見て小さく頷いた。


「女の人が子供を身ごもった直後にね、突然原因不明の毒に冒され倒れちゃったの」


「毒に? どうして??」


「それは分からないの。倒れて、話すことも動くこともできなくなって、職人さんは途方に暮れちゃったの」


「そうよね……」


 ココロも相槌を打つ。


「でもね、その時村の郊外にある高い塔の上に何でも治せる薬草があるって言い伝えを聞いて、ひとりで採りに行ったの」


「それが今の天空の塔ね」


「うん。それでね……」





「それで不思議なことなんですが、その塔には恐ろしい魔物が棲みついていたのに、男はたったひとりで最上階まで登りつめ、ついにはその薬草を手に入れて女性の元へと戻ったんです!」


「伝承あるあるだな」


 俺はその都合の良すぎる話を聞きながらそう答えた。サヤカが少し暗い表情をして言う。


「でも……」






「でも、職人さんはやっぱり酷い怪我を負っていて、奥さんに薬草を届けた後死んじゃったの」


 悲しげな表情をするルキアにココロも辛い顔で言う。


「そんな……、せっかく薬草を採って来たのに……」


「うん。それから奥さんは無事に回復して子供も産んでね、でもすぐに子供と一緒に村から出て行ってしまったってお話」


「そうなんだ……」


 ルキアがココロに言う。



「ルキアはね、その言い伝えを信じているの! だってちゃんと天空の塔もあるんだから。お母さんの呪いの毒もその女の人と同じだし。だから、お姉ちゃん。お願い!! 絶対に薬草を採って来て!!」


 ココロはルキアの頭を撫でながら答える。


「分かった。私に任せて! 必ず採って来るから!!」


「うん、ありがとう……」


 ルキアは流れる涙を拭きながら嬉しそうに答えた。




「それでどうして急にそんな話をし始めたんだ?」


 俺は妙に嬉しそうに話すサヤカを見てそう尋ねた。


「あ、べ、別に次に向かう街が、その焼き菓子の村から近くて販売所があって食べられるなんて、これっぽっちも思っていませんから! ただ、色んな情報は共有しておいた方がいいかなと思いまして……」


 正直どうでもいい。まあ、これから次の街までは数日掛かるし、今はココロが向かった方面へ俺たちも急ぎ向かうだけ。あいつの場所を察知してからが本当の勝負だ。俺は欠伸をしながら退屈な移動時間を過ごした。






「着きました、お姉ちゃん!! ブルック村にようこそ!!」


 歩くこと半日、ココロとルキアは彼女の家があるブルック村へと辿り着いた。小川と木々に囲まれた長閑な光景。村の至る所から上がる煙から、焼き菓子のほんのり甘い香りがする。ルキアが言う。


「うちの名産はね、村の名前にもなっているブルックって焼き菓子なの。さ、お姉ちゃん。うちに来て食べて行ってよ!!」


 ルキアはココロの手を握り、村にある自宅へと駆け出す。初めて訪れる村。もちろんそんな焼き菓子のことなど知らない。



「ルキア! 本当に冒険者さんなんて連れて来たのか……!?」


 娘を迎えた父親がココロの姿を見て驚いて言った。天空の塔の幻の薬草。それは伝承であり言い伝えであり、村の人ですら本当に存在しているとは誰も思っていない。ココロが頭を下げて言う。


「ココロと言います! Dランク冒険者です。必ずその薬草を採ってきます!!」


 ピンクの髪の少女。自分の娘よりちょっと年上の女の子。こんな子がひとりであの恐ろしい塔に登れるのか。ルキアの父親は俯き、答える。


「ちゃんと正規の冒険者さんなのでお強いことは分かりますが、決して無理はなさらないでください」


「分かっています! その前にルキアちゃんのお母さんに会わせてくれますか?」


「はい、わかりました。こちらへどうぞ」


 ココロはルキアの父親に案内されて、家の奥にある寝室へと向かった。



「妻です」


 そう紹介された女性。ベッドに横になって眠っている。


「毒、なんですね……」


「ええ」


 黒髪の美しい女性。ただ毒のせいか全身の肌が黒紫色に冒され、じっとり汗をかきながら眠っている。呼吸も苦しそうで時々小さく唸り声を出している。父親が言う。


「突然、本当に突然妻がこのような状態になってしまいまして。色々な薬草や薬を試したのですが、全く効果がなく。本当にどうしていいのか分からなくて……」


 父親の目にうっすらと涙が浮かぶ。


「分かりました。それでその塔の上に薬草があるんですね?」


 そう尋ねるココロにルキアが答える。


「うん、そうだよ! きっとある。絶対あるはずだから!!」


「ルキア、それは分からないよ。誰も登ったことなんてないし、それだってただの言い伝え。恐ろしい魔物だっているんだから……」


「でも、でもココロさんなら大丈夫!! ね!」


 そう言ってココロの手を握るルキア。もちろん彼女はそれに頷いて答える。


「はい! ココロに任せて下さい!!」


 困っていれば後先考えずに行動してしまうココロ。本当はあまり自信はなかったのだが、そんなことはおくびにも出さない。




「じゃあ、行ってくるね!!」


「気を付けてね、ココロさん!!」


 翌朝、村でしっかりと道具や食料の準備をしたココロをルキア親子が見送る。村にギルド銀行は無かったので報奨金は下せなかったが、ルキアの家に泊めて貰い食事にもありつけた。


(あの焼き菓子、美味しかったなあ。無事に帰って来てまたご馳走してもらおう!)


 ココロは村で食べた名産の焼き菓子を思い出し自然と笑みになる。サクッとした食感に程よい甘さが絡む村の名産。絶対また食べてやる、そう心に刻み天空の塔へと向かう。





(あれ? 誰かいる??)


 郊外にある天空の塔へ向かっていたココロ。その塔の前で背を向け立つひとりの女性に気付き、歩みを止める。紫髪のポニーテール。白のマントに美しい鎧を着た品のある佇まい。女性がココロに気付き声を掛ける。


「あ、もしかして塔の挑戦者?」


「え? あ、はい。そうだけど……」


 思ったよりフレンドリーな態度に、ココロの気が少し緩む。女性はココロに歩み寄り、手を差し出して言う。



「私、キャシーって言うの。あなた塔に登るんでしょ? 一緒に行こうよ!!」


 ふわっとまとめた紫のポニーテール。可愛らしい顔。耳につけたイヤリングを光らせながら手を差し出すキャシー。ココロは自然とその手を握り返していた。

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