11.俺がFランクとか有り得ないだろ!?
「はい、じゃあエリートさん。この水晶に手を置いてください」
ここは村にある冒険者ギルドのカウンター。そう話す受付嬢を見て俺は何度も思った。
(なぜこんなことになった……)
そう、あれはココロを救出し、村の宿屋に戻って来てからのことだ。
「エリート様、申し訳ございません。実はもうお金がないんです……」
「金がない? どういうことだ」
俺は二階にある宿屋のベッドに、ココロを寝かせながらサヤカに尋ねた。純粋にその意味が分からなかった。
「ここの宿も二部屋取りまして……、その、それでもうお金が尽きてしまいました……」
俺が増えた分、部屋代が嵩んだと言うことか。
「普段は何をして金を稼いでいるんだ?」
「はい。私達は冒険者なのでギルドからの依頼を受けて、その報酬で何とか過ごしています」
「ギルドの依頼?」
「はい。私のことはもうどうでもいいのですが、この子、ココロの夢だけは叶えてあげたいんです」
そう言いながらベッドの上で寝息を立てるココロをサヤカが優しげな眼で見つめる。
「夢? こいつの夢って何なんだ?」
「勇者です。ココロは勇者になりたいって本気で思っています。私はそれを応援するために一緒にいます」
(けしからん夢だ。まあ、こいつなら絶対そう言うとは思うがな……)
勇者候補のココロ。やはり自然とそちらへと歩み出すのか。だが俺はそれを阻止するためにここへ来た。彼女にしてみれば不本意だろうが、まあそれは世の為仕方のないことだ。サヤカが言う。
「と言ってもココロはまだ駆け出しの冒険者。ランクもようやくEになったばかりです。だから少しずつ依頼を受け、経験を積んでいるんです。もちろん報酬は生活するためにも必要ですから」
「事情は分かった。なら俺もその依頼を手伝おう。大きな依頼を受けて来い。一瞬でクリアしてやる」
何せ魔神の俺が手伝うのだ。ある意味チート。ここで生きていくためならばそれも仕方ないことだ。サヤカが少し困った顔で答える。
「ええっと……、その、エリート様。エリート様も冒険者でしたら、大きな依頼はランクが上がらないと受けられないのはご存じですよね……?」
「ん? そうなのか」
俺はようやくここで、先に自分が冒険者だと説明したことを思い出した。
「あの、エリート様の冒険者ランクは幾つなんでしょうか?」
(しまったな……)
俺は適当に誤魔化したことを今更ながら後悔した。
「その、なんだ。とある事情があって俺は冒険者リストから抹消されてな。だ、だから今はランクはないんだ」
「え? ま、抹消ですか!? 一体何をされて……」
驚くサヤカに俺は冷静に言う。
「せ、詮索はするなと言ったはずだ。よし、分かった。今からその冒険者に登録に行ってやる。それならいいだろ?」
「あ、はい。再登録ですね。分かりました。冒険者ギルドは一階にありますので、早速行きましょうか」
「うむ」
俺とサヤカは、ココロがぐっすり眠っているのを確認してから、一階にある冒険者ギルドへと向かった。
「はあ? 何だよ。もうゴブリンはいねえのかよ!!」
「せっかく来てやったのによ!!」
冒険者ギルドはいつの間にか多くの冒険者で溢れていた。
襲撃を受けた村。緊急クエストが発動されたらしく、高額報酬を求めて冒険者たちが押しかけていた。ただ、残念なことにゴブリン討伐は王国騎士団によって制圧されてしまったことになっている。
「あ、エリートじゃないか! わらわに会いに来てくれたのか!?」
冒険者に説明する騎士団の中から、青いリボンに青のボブカットの少女が俺を見つけて駆けて来た。副騎士団長ラーズリーだ。意味不明な言葉に、俺が無表情で答える。
「どうして俺がお前に会いに来るんだ? ふざけるな」
「何を言っている。わらわのことが恋しくなったんだろ? さ、はよ、騎士団に入れ」
何と言う自分主義。俺はラーズリーを追い払うように言う。
「誰がそんなもんに入るか。俺は冒険者登録に来たんだ。邪魔だ」
「冒険者? そんなもんにならなくても報酬はどんと出すぞ? 幹部待遇も約束する」
何が楽しくて神であるこの俺が騎士団なんぞしなきゃならないのだ。
「エリート様! 準備ができました。こちらにお越しください!!」
そんな俺に登録手続きをしてくれていたサヤカが声を掛ける。
「そう言うことだ。じゃあな、副団長さん」
「あっ、待ってくれ! 話はまだ終わってはおらぬ……」
俺はまだ何か話そうとしていたラーズリーを適当にあしらい、ギルドカウンターへと向かった。金色の髪をした受付嬢が笑顔で言う。
「はい、じゃあエリートさん。この水晶に手を置いてください」
「うむ……」
手を乗せるとその色の変化でステータスが分かると言う人族のアイテム。魔神であるこの俺が手を乗せるとどう変化するのか知らないが、まあこれで上級冒険者になれるのだろう。
一方、そう答えながらも人族の世界で冒険者などにならなければならない自分が可笑しくなった。古来より多くの『護り』の命を受けた神が、こうして下界の洗礼を受ける。色々な逸話は聞いていたが、この俺ももれなくそれに当たった訳だ。
「うっ……」
だが、その水晶に手を乗せようとした俺を、あの気だるさが襲う。
(これは……、まさかココロが目覚めたか!?)
そう、この感覚はスキル【魔神無効】の発動。つまりココロの意識が働いていることを意味する。
「あー、お前!! なんでこんな所にいる!!」
ギルド内に響く甲高い声。皆が振り返ると、そこにはピンクの髪を結ったひとりの少女が剣を向けて立っている。サヤカが驚いて言う。
「ココロ! 起きたのね。何度も言うけどエリート様は……」
「サヤ姉なんてもう信じない!! 魔族に味方するなんて見損なったわ!!」
「おい、待て。俺は魔族なんかじゃ……」
「うるさい!! もういい!! 知らないんだから!!!」
ココロはそう言うと勢いよく外へと飛び出す。
「あ、待って! ココロ!」
だけど彼女はスキル【高速移動】を持つ存在。その姿はあっと言う間に消えてしまった。サヤカが両手で顔を押さえて悲しげに言う。
「どうして、分かってくれないの……」
悲痛な表情。俺も彼女の前ではただの村人。追いかけることも捕まえることもできない。ただ俺はココロの持っていた青き剣に気付きサヤカに言う。
「おい、それよりあいつ、青い剣、勇者の剣を持っていなかったか?」
「え? あ、ああ!! そうですね、隠しておいたのに……」
勇者候補に、勇者の剣を持って逃げられてしまった。これはあまり悠長にはしていられない。まだ目覚めないだろう。そんな油断が俺たちにはあったのかもしれない。
再び騒がしくなったギルド。水晶を見つめていた受付嬢が俺に言う。
「ええっと、エリートさん。変化なしですね。残念だけどFランクだわ」
「……は?」
俺は手を乗せたままの水晶、そして受付嬢を見て尋ねた。
「Fランクって、どういう意味だ……?」
「どういう意味って、何のスキルも能力もない人のことよ。まあ気にしないで。大抵の人はFから始めるのよ」
俺はようやくココロの【魔神無効】の時に測定されてしまったことに気付き、顔を青くする。
「ちょ、ちょっと待て。今のはなしだ! 再測定しろ!!」
受付嬢が呆れた顔で答える。
「それは規定上無理よ。そんなの認めていたらキリがないし」
「ふ、ふざけるな!! なんでこの俺がFランクなんて……」
「これ以上ごねると、登録抹消にしますよ」
「うぐっ……」
それは避けなければならない。ココロを追う為にも、ここで生きていかなければならないからだ。
「エリート様……、これは一体……」
俺以上に意味が分からないサヤカ。さて、この状況をどう説明すればいいのか、俺はそれについてこれから考えることにした。




