10.ラーズリーのお願い
「おい、お前ら! もう二度と村を襲うなよ」
「ヒャガアアア!!?? ゴメンナサイーーーーーっ!!!!!」
薄暗い洞窟。俺はついでに回復してやったギガゴブリンと、雑魚ゴブリンらが逃げるのを見ながら言った。あいつらを必要以上追い詰める気はないし、そもそも人族と魔族の争いにこれ以上首を突っ込むつもりはない。
ぼうっとしたままゴブリンらが逃げていくのを見つめる王国騎士団員。その頭である青のボブカットの副団長が改めて言った。
「エリート、わらわに力を貸して頂きたい。是非とも、何卒お願い致す……」
王国副騎士団長ラーズリーは、俺の前に立ち深々と頭を下げた。
「ふ、副長が、人に頭を下げて……」
「あんな姿、初めて見た……」
団員たちの間から驚きの声が上がる。魔物に屈しない気の強さ。プライドの高さ。無論その実力も評価されて彼女は副騎士団長を任されている。そのラーズリー・ランドールが人目を憚らず頭を下げている。
「断る」
当然、俺はそう答えた。
「……」
ラーズリーは頭を下げたままじっと動かない。少しの間。静かになった洞窟内の静寂。彼女が顔を上げ言った。
「団長様を、助けて頂きたい。わらわたちは、何としてでも団長様を救出したいのだ……」
俺は涙目になりながらそう訴えるラーズリーを無表情で見つめる。悪いがそんなことはしていられない。俺が動くのはココロの護衛以外、基本ない。
「エリート様……、私からもお願い致します……」
ココロを介抱していたサヤカがラーズリーの隣に立ち、同じく頭を下げる。『恥晒しのサヤカ』と呼ばれた彼女。その団長と何か関係があってのことか。
「お前には言ったはずだ。俺の仕事はココロの護衛。それ以外興味はない」
そう冷たく言い放つ俺に、ラーズリーが再度頭を下げて言う。
「先の非礼は詫びさせて欲しい。申し訳なかった。わらわが悪かった……」
皆が頭を下げるラーズリーを見つめる。だが俺が変わることはない。
「勘違いするな。貴様らの非礼、その程度の謝罪で済むと思っているのか? 本気ならその首を差し出して詫びよ」
ちょっと言い過ぎた。そう思った俺に騎士団員たちが怒りを表す。
「ふ、ふざけるな!! お前、副長様に……」
「よせ。お前らも彼の実力を見ただろ? あれが全てなのだ」
団員たちを手で制したラーズリーが真顔になって俺に言う。
「本当にわらわの首で団長様を助けてくれるのだな? 約束だぞ……」
そう言って護身用の短剣を取り出すラーズリー。俺は慌てて彼女に言った。
「よせ、よせって! 言い過ぎた。ちょっと言い過ぎた」
「じゃ、じゃあ、団長様を……」
「それとこれとは話は別だ。命は無駄にするな」
「そう、か……」
肩を落とすラーズリー。こいつ、本当に死ぬ気だったのか。団長とは一体何者なのか。ラーズリーが俺を見つめて言う。
「だが、わらわは諦めないぞ。お前は、エリートは勇者なんだろ? 絶対にわらわに協力してもらう。絶対に。絶対の絶対にだ!!」
俺が勇者? 冗談も休み休み言え。まあ、どう思おうとこいつの勝手だが俺は動かない。そもそもただの人族が、神である俺に命じようなど勘違いも甚だしい。俺は眠ったままのココロを担ぎ上げ、サヤカに言う。
「女、帰るぞ」
「あ、はい! エリート様」
立ち去る俺たちに、深々と頭を下げるラーズリー。なんかこう、ばつが悪い。歩きながら俺は、いつか近いうちにあいつの願いを聞いてやるんじゃないかと、何だかそんな気がした。




