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欲望=魔物  作者: クニクニ
5章
99/172

何でも千切る手・なんでも砕く歯

7/14 (金) 午後  第1室内模擬戦場


 館内放送によると両子(りょうこ)ちゃんは負けてしまったようだ。

 まあ、相手は模擬戦2位の3年生だし仕方がない。でも怪我でもしてないかと心配になり模擬戦場へ出てみると、丁度両子ちゃんが隣りの控室に帰ってきたところだった。


「両子ちゃん、怪我しなかった?」


「ええ、大丈夫よ。でもバランはへし折られて強制帰還だし、ザックは素振り酔いで戦闘不能になっちゃったわ。やっぱり3年生は強いわね」


 あの両子ちゃんでも勝てないのかー。やっぱ3年生って強いんだ。


「理紀(りき)は自分の試合に集中しなさいよ。あなたならできるわ」


 両子ちゃんでも勝てなかったんだから、私なんてムリだよぉ。しかも相手は1位の火田(ひだ)先輩だし。


「う、うん。ありがとう両子ちゃん」


 まだ先生たちは模擬戦の準備をしているが、すぐ始まるんだしそのまま会場中央まで歩いて行くことにした。

 メガネの一ノ関(いちのせき)先生と若い代前(しろまえ)先生に挨拶しながら待っていると、男子控室から火田先輩と思われる人物が出てきた。

 爽やかな笑顔で駆け足でこちらに来る。


「いやー、すみませんお待たせしました。よろしくお願いします、万屋(よろずや)さん。はじめまして、3年の火田です」


「あ、よろしくおねがいします。1年の万屋です」


 慌てて私も自己紹介する。

 しかしなんとゆー爽やか好青年。普人(しんと)君から聞いてた通り、いい人を絵にかいたような人物だった。

 背も高くてイケメンだし、しかも頭も良くて模擬戦も1番っていうんだから、小市民のわたしとしてはなんか恐れ多くて卑屈になってしまいそうだ。


 だが勝負は時の運。サルも木から落ちるし、葉っぱの枝分かれもあるかもしんない……ちがった、カッパの川流れだ。

 プククッ、葉っぱの枝分かれってぇ……やばい、こんな時に限って神がかり的なオヤジギャグが。


「……ように。万屋さん? 聞いてましたか?」


「えっ、あっ、はい! いいえ、すみませんでしたぁ……」


 うわぁ、サイアクだー。サイのアクだー。こんなだいじな場面でアフォなこと考えてしまった。


「ブザーが鳴ったらすぐ止(や)めるように。わかりましたね?」


 一ノ関先生が私に念を押す。


「わかりました!」


 右手を挙げて大きく返事する。よし、集中だ!


「では2人とも準備して」


 私と火田先輩は後ろ歩きで距離をとり、お互いの魔物を召喚する。 


「握徒(あくと)!」


 呼びかけに応じてノッポで細身の宇宙人が姿をあらわす。


「ビータ!」


 先輩の方は大トカゲかオオサンショウウオのような短めの4本脚に平べったい頭、長めのしっぽにつぶらな瞳という愛らしい魔物だ。


「へー、君がウワサの握徒だね。僕は火田っていうんだ、よろしくね」


「……」


 おっきい握徒は相変わらず無愛想(ぶあいそ)で、火田さんの挨拶にも無視を決め込む。


「ほら握徒。挨拶されたら返事くらいしなさい。すみません、この子照れ屋でして」


「いやいや、気にしないで。そーいえばこちらの魔物も挨拶してなかったね。ビータ、ごあいさつ」


「ぎゃうぎゃぎゃ!」


 ビータと呼ばれた魔物はダミ声で挨拶らしき言葉を発し、ペコンと頭を下げる。

 口を開けたとき見えた歯は、そのカワイイ顔とは不釣り合いなくらい鋭く、まるでサメのようにギザギザが並び、内側に向かって獲物を引きずり込むように生えている。


「ビータちゃんはちゃんと挨拶してるよ」


 そう私が言うと、ようやく握徒が口を開ける。


「よろしく……」


 やっと聞こえるくらいのちいさな声であいさつする。まあおっきい握徒じゃこんなものか。


「ははっ、よろしくね」


「ぎゃうぎゃうっ」


 そんな握徒にも先輩とビータは笑顔でふたたびあいさつしてくれた。


「では第2試合、火田対万屋戦、はじめっ!」


 一ノ関先生の合図とともに、さっきまでの和やかなムードが一転する。


「理紀、下がっていろ」


「わかった、気をつけてね」


 握徒は基本的には自分の意志で戦うスタイルだ。動きの速い魔物なので1つ1つの動きを命令してたのでは間に合わないし、人間の戦い方とは違うので本人に任せた方が強い。

 ただ、このあいだの件から大まかな私の指示には従うようになった。それに合わせて魔力の供給量も私が制御するようにしている。


 まずは様子を見て、相手がどんな能力か見定める。

 ビータは四肢を踏ん張り、低い体勢から前方に向かってジャンプする。そのズングリした体型には見合わないスピードの乗った跳躍で、一気に握徒との距離を詰める。

 握徒はまだ様子を見るため、バックステップでさらに距離をとる。かなり離れた間合いは、1度のジャンプでは到底届かない距離だ。

 だが、ビータは一向に着地する気配が無い。そのまま水かきの付いた短い4本脚を空中で掻(か)くと、流れるような動きで空中を泳ぎ、いつの間にか握徒の目の前まで迫っている。


「握徒っ!」


 これはもう様子見とかいってる場合ではない。自分の魔物に一気に魔力を送り込み、全力で攻撃に備えさせる。

 握徒は更に距離をとるが、空中を泳いで進むビータの速さは人の走る速度をはるかに凌(しの)ぐ。もしかすると握徒よりも速いかもしれない。


「ぎょああっ!」


 おおきな口を目いっぱい開き、サメのような真っ白で鋭利な無数の牙が露わになる。

 握徒は右手で、相手の左前脚を掴み、そのまま地面に叩きつける。


 ドンッ


 という地響きがし、


「ぎゃうぁあっ!」


 とビータが悲鳴をあげる。『やった!』と思った次の瞬間、オオトカゲが素早く首を捻(ね)じって、掴んでいる握徒の右腕に噛み付く。


「ふんっ!」


 握徒が噛まれた右腕に力を入れ、トカゲの左前脚を握り潰す。”ぐじゅぎゅっ”と肉と骨が引き千切れ、脚が吹き飛ぶ。

 だが、その右腕を今度は”バキガキッ”とビータが噛み千切る。


「ぐぉああっ!」


 その場で痛みに呻(うめ)く握徒とは対照的に、ビータは3本脚ですばやく空中に浮きあがり、反転して宙(ちゅう)を泳ぎ、一旦距離をとる。


「握徒っ!」


「大丈夫だ、理紀。まだやれる」


 冷静に答える自分の魔物に一安心する。 

 あの魔物、おそらく握徒と同じ力。でなければ金属並みの硬さを誇る握徒の腕を、噛むちからだけで千切れるとは思えない。

 だとしたらかなり厄介な相手だ。

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