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欲望=魔物  作者: クニクニ
5章
98/172

嘘つき

7/14 (金) 午後  第1室内模擬戦場


 ビィーーーッ


 模擬戦終了のブザーが館内に響く。


「あれ? なんか終わっちゃいましたね」


 僕のつぶやきに森ノ本(もりのもと)先輩が答える。


「あー、あれは多分ザックが素振り酔いしたのね」


 スブリヨイってなんだろう? と、僕とサックが顔を見合わせていると、判定員の一ノ関(いちのせき)先生が館内マイクで説明する。


「えー、宮ノ本(みやのもと)さんの魔物がこれ以上の戦闘ができない状態になったことを確認しましたので、この試合は堀田(ほった)君の勝ちとします。

 では、第2試合の準備に移りますのでおねがいします」


 理由が未だによく呑み込めない観覧席の生徒たちは、隣同士であーだこーだと雑談をしだす。

 ざわつく客席のなか、僕も先輩に質問する。


「先輩、さっきのスブリヨイって何なんですか?」


「素振り酔いよ。素振りで酔うこと。乗り物酔いとかのあれよ。

 ザックは剣の魔物のくせに三半規管(さんはんきかん)弱いから。あんまり振り過ぎると目が回って気持ち悪くなっちゃうらしーわ。試合中に剣から液体出てたでしょ? あれゲロっちゃってたのよ」


 え? 剣なんだから振るのは当たり前だろう? そんな不合理な魔物いるのか。


「魔物でも乗り物酔いとかするんですね。剣なのにゲロも吐いちゃうし」


 サックも不思議そうに相槌(あいづち)をうつ。


「魔物っていうのは見た目はいろいろだけど中身だって1人1人違うし、基本的には人間と同じよ。性格や体質、趣味趣向も千差万別あって、ペットみたいなもんね。

 自分の魔物の特徴や性格を把握することも発現者の大事な素養の1つだってウチじゃあ教わったわ」


 確かに森ノ本先輩の言うように魔物の性格や特徴を把握するのは大事だ。だけどペットっていうのは少し違う気もする。

 魔物は自分が生み出した自分の意志や欲望が元となった存在で、個性もあるし、動物以上の感情や思考も有しているように感じる。

 切っても切れない主従関係という点から飼っているとも捉えられるし、そう考えるのも悪いことではないだろうが、僕は魔物は『家族』として扱いたい。


 まあ、ペットを家族のように扱う愛犬家、愛猫(あいびょう)家もいるし、こんな言葉尻で先輩と争うのは馬鹿げている。それに発現者になりたての僕が異能者の家で育った先輩に『魔物とは何か』を説くなんて釈迦(しゃか)に説法(せっぽう)もいいところだろう。


 とはいえ森ノ本先輩の魔物ってどんなのだろう。

 2週間後には模擬戦で戦うことになるんだが、宮ノ本の話じゃ蜘蛛みたいで捕獲が得意って言ってたよなー。やっぱ糸で絡め取ったりするんだろうか。毒蜘蛛という可能性もあるな。


「そーいえば森ノ本先輩の魔物って蜘蛛なんですよね? 宮ノ本がスゲー強いって言ってましたけど」


 おーし、ここはさりげなく持ち上げて、さりげなく良い気持ちにさせて、さりげなく情報を聞き出して、さりげなく模擬戦で勝つる作戦だ。


「あら普(しん)ちゃん、両子(りょうこ)ちゃんとベッドのなかでそんな話してるの? 女の子はもっと違う話のほうが盛り上がるわよ」


 はい、無理でした。


「えぇ? うそでしょ、普人(しんと)くん?」


 藪(やぶ)をつついてヘビを出すとはいうが、森をつついても毒しか出ねー。あー、余計なことしたわー。


「あーら、サック知らなかった? 普ちゃんは胸の大きな女の子にしか興味ないのよ。このあいだも喫茶店で両子ちゃんと口移しでスイーツ食べてたわよねー」


 なんでそんなウソつくんでしょうか?

 森ノ本という名の悪魔がゲス顔でサックを焚(た)きつける。


「なにそれ、やだやだ。普人くん言ったよね? 女の子はおっぱいの大きさじゃないって。おっきいのは歳とって垂(た)れるだけだから意味無いって。

 『僕は貧乳幼女趣味のドヘンダイだ』って言ったよね? 言ったよ、普人くん……いったよぉ」


 なにこれなにこれ! こいつらなんでそんな嘘つくの? しかもちょっと事実を織り交ぜて嘘言うから全否定しづらくて困るんですけど。


「ちょっと落ち着こうか、サック。1つずつ正していこうね」


 涙目で詰め寄るサックを説得にかかる。


「胸の大きさで好き嫌いを判断しないって言ったよね」


「言った」


「おっきいのは歳とって垂れるだけなんて言ってないよね」


「言ってない。でも事実」


「貧乳幼女趣味のドヘンタイなんて言ってないよね」


「言ってない。でも事実」


 お、おう……


「じゃあ先輩の発言も整理しようよ」


 す、するんですか。


 サックが死んだ魚のような目で質問をはじめる。


「宮ノ本さんとベッドで話した」


「ノー」


「宮ノ本さんと喫茶店に行った」


「イエス」


「宮ノ本さんと口移しでスイーツ食べた」


「ノー」


「スイーツは食べた」


「イエス」


「スイーツ食べながらキャッキャウフフしてた」


「うっ……い、イエス」


「宮ノ本さんの胸を触った」


「ノー」


「宮ノ本さんの胸をさわっても嫌ではない」


「……い、イエス」


「宮ノ本さんから胸を揉んでくださいとお願いされたら揉んであげてもいい」


「……い、イエ……ス」


「宮ノ本さんの胸を揉まないと地球が滅んでしまうとしたら……」


「ストップ、すとっぷ! もう関係ない話になってるから。最後、誘導尋問(じんもん)みたいになってただろうっ。

 なんなんだよ、胸揉まないと地球滅ぶって。おかしーでしょーが。設定おかしーでしょうがぁ!」


「ちょっとぉ、2人とも。次の試合はじまるわよ」


 ぅおまえのせいでしょうがああぁーーーっ!

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