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欲望=魔物  作者: クニクニ
5章
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遠距離戦と近距離戦

 握徒(あくと)の握り潰すチカラは単純に握力が強いだけではない。確かに掴(つか)む力は人間の比ではないが、それはおまけ程度の能力であり、真の能力のフェイクとも言える。


 本当の握徒の能力は空間を掴んで捻(ね)じる能力。

 でも、憑依能力のときほど捻じれる範囲は広くはなく、自分が触れているごくわずかな空間。

 それでも、空間ごと掴んで捻じれればどんなに硬いものでも簡単に引き千切れる。


 あのビータもほぼ同じ能力ではないだろうか。

 サメのような鋭い歯は空間ごと噛み千切れる。だからどんなに硬いものでも防御不能。更に体もかなり高い防御力を有している。握徒のバカ力で地面に叩きつけたにもかかわらず、もげた左前脚以外はピンピンしている。

 おまけに見た目に反して空中を泳げる機動力の高さ。素早く近づいて必殺の一撃を喰らわすスタイルは握人と瓜二つだ。


 さすがに模擬戦1位なだけあるが、こちらにも有利な点はある。

 向こうは噛むという行為のため、圧倒的にリーチが短い。おそらくあの短い四肢には掴んで千切れる能力は無いだろう。先に握徒の長い手足で掴めれば、相手の攻撃は当たらずにこちらが一方的にダメージを与えられる。


 召喚者は自分の魔物に意識や思考を送れる。ある種のテレパシーのようなもので、この能力で命令、指示を出せる。

 私の思考を握徒に送ると、彼もそれを理解したようだ。

 腕1本失っただけならまだ機動力は十分だし、足でも空間を掴む能力は使える。勝機はある。


 握徒はトカゲとの距離を詰め、一気に攻め込む。


「ビータ、構えろ」


 火田(ひだ)先輩の合図でビータは重心を低くし、千切れた脚以外の3本を地面に踏ん張る。また高速で宙を泳ぐのかと思ったが、今度は長いしっぽの先端を正面に向ける。

 先はわずかに膨らんでいて、末端には口のような器官がある。そこが開き、しっぽの先に穴ができる。


 ぽんっ


 と間の抜けた音がしたかと思うと、走り寄っていた握徒が何かにあたって倒れる。

 何か撃った。

 だが、倒れた握徒に怪我は無い。どうやら空気砲をしっぽから撃てるみたいだ。確かに遠距離攻撃だし、足止めやけん制にはなるかもしれないが、攻撃手段としては貧弱だ。人間ならいざ知らず、装甲の硬い握徒のボディにはほぼダメージはない。

 それに握徒の反応スピードなら近距離でなければ当たらないだろう。


 立ち上がった握徒にぽんぽんと空気砲を撃ってくるが、私の予想どおりエイリアン型の魔物はステップでかわしている。


「ぐぎっ、ぐぎぎぃ」


 悔しいのか、ビータは口をもごもごしながら渋い表情で歯ぎしりしているようだ。ちょっとカワイイかも。


 握徒が空気砲の合間を縫うようにして近づくと、ビータも撃つのをやめ、ジャンプして格闘戦で迎え撃つ。

 先に相手を捉えたのは握徒だった。左手と右足でオオサンショウウオのような胴体をがっちりと掴み、そのまま暴れるビータの背中を地面に押さえつける。

 体が大きくて手足の握力がメインの握徒の方が、単純なパワー勝負では分(ぶ)がある。


「ぎゃうぎゃぎゃーっ!」


 地面に押さえ付けられたトカゲは雄叫びを上げながら必死に噛み付こうとするが、その歯は空を切るだけだ。

 あれ? ビータの歯、さっきより小っちゃくなってない? 気のせいかな…… それとも何かもっと強力な攻撃の歯に生え変わったとか。

 まあ、どちらにしても噛み付かれなければどうということはない。握徒は両足でビータの胴体を左右から押さえつけると、左手で右の前脚を引き千切る。


 ぶちいぃっ!


 と、空間ごとねじ切って千切られた脚は地面に放り出され、強制帰還のときのように消えてなくなる。硬そうな質感の皮膚も、握徒の能力の前ではいとも簡単に千切れる。


「ぐぎゃっ、ぎゃうあぁーっ!」


 痛がるビータを見ると可哀そうになるが、戦いなのだから情けは禁物だ。



 パギュッ


 突然、鋭く奇妙な音と共に握徒の背中から何かが飛び出す。


 パギュッ パギュパギュッ パギュッ


 続けざまに2個3個とエイリアン型の魔物の胸を何かが貫通し、天井へと猛スピードで登ってゆく。

 よく見ると、トカゲのしっぽの先端が握徒の胸に向けられていた。


 私の魔物は崩れるように倒れ込み、その姿が消えてゆく。


 ビーーーーッ


 というブザー音が鳴ると同時に、握徒の胸を貫いた『何か』の1つが天井に当たり、私の前に落ちてきた。

 なんだろうと近づくと、


「万屋(よろずや)さん、危ないから気を付けてね」


 火田(ひだ)先輩が私に声をかける。


 地面に落ちた白く輝くそれは、鋭く尖った歯だった。

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