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欲望=魔物  作者: クニクニ
5章
101/172

模擬戦1位の彼

7/14 (金) 午後  第1室内模擬戦場


「ほーらー、普(しん)ちゃん、サック、見て見て! 養助(ようすけ)くんが握徒(あくと)倒したわよ。やっぱさすがよねー、超かっこいいんですけどー!」


 森ノ本(もりのもと)先輩が嬉しそうにはしゃぎながら話しかけてくる。だが、僕とサックは養(よう)ちゃんの魔物の強さに圧倒されていた。


「先輩、今のはなんで握徒が胸を撃ち抜かれたんですか? あの空気砲、さっきまでは握徒に当たってもかすり傷さえ付かなかったのに。

 やっぱ始めのは本気で撃ってなかったからですか?」


 サックの疑問は僕も知りたかった。あの恐ろしく硬い握徒の体に、しっぽからの空気砲が何発も貫通していたのは解(げ)せない。

 遠目から見た感じでは、はじめの全く効かなかった空気砲と大差ないように思えた。ただ威力を上げただけとは考えにくい。


「ふふーん、たしかにはじめのは本気で撃ってなかったと言えるわね。あれはいわば空撃ち。最後の胸を貫通した砲撃は実弾を込めて撃ったからよ」


「つまり鉄の弾を空気といっしょに射出したってことですか?」


 今度は僕が先輩に訊ねる。

 しかし握徒の体は相当硬いものだ。正直銃撃にも耐えうるんじゃないかとも予想してたんだが。


「いいえ、そんな生易しい代物(しろもの)じゃないわ」


 笑いながら森ノ本さんが詳しい説明をはじめる。


「はじめに握徒の右腕を引き千切ったのはどうやってた?」


「歯で喰い千切った……でしたよね?」


 僕が質問にこたえると、


「それじゃあ不完全よ、普ちゃん」


 不完全? 僕とサックは意味が分からず、顔を見合す。


「養助くんの魔物、ビータの能力は『何でも噛み砕く』っていうモノよ。それを実現するには何が必要?」


 なんとも唐突ななぞ掛けだな。でもこういうのは僕は結構好きだ。


「まるで『矛盾(むじゅん)』の話みたいですね。となると、なんでも貫く牙と、なんでも押し潰せる力でしょうかね」


「正解よ。さっすが普ちゃん、オタクは好きよねーこういう話」


 さらっと傷ついたが、稀(まれ)によくある世間からの厳しい風当たりだ。そんなことより講釈の続きが気になる。


「でもそんなものありえないってのが普通ですよね。『なんでも』って付くものは基本的にみんな胡散(うさん)臭いもんでしす」


「そう、だから別の原理が必要……その答えは『空間ごと砕く』よ」


 なるほど、それは確かに何でも砕けるな。物体は空間に存在してるんだから。つーか、そんなの防ぎようがないな。おそろしい能力だ。


「実はこの能力をもつ人間は、割合は少ないけれど発現者の世界ではけっこう居るから有名なの。いわゆる空間操作能力ってやつね。

 ビータはその能力を歯によって発動しているってわけ。万屋(よろずや)さんの魔物も指先で発動しているわね。ただ単にバカ力ってだけじゃ、あんなに周りから期待されてないわよ」


 握徒がなんでも握り潰せるのは空間ごと掴(つか)めるからなのか。そりゃ最強だな。


「つまりその歯を弾にして撃ったってことですかー」


 サックも感心したように先輩に相槌をうつ。


「そう。ビータの歯はすぐに再生可能。抜けた歯を体の中を通してしっぽに送り込み、圧縮空気と共に発射する。発射する直前に空間を引き裂く能力を歯に発動させれば、何でも貫通する銃弾になるってわけ。

 引き裂かれた空間はすぐに元に戻るけど、その軌道にあったモノは破壊されたまま残る。これが握徒を倒した空気砲の正体」


 ビータが空気砲を握徒に避けられて歯ぎしりしていたように見えたけど、あれは歯ぎしりじゃなくて自分で歯を抜いてしっぽに装填していたのか。

 さすがに養(よう)ちゃんの魔物は模擬戦1位をとるだけのことはあるな。あんな攻撃、人間がまともに喰らえば即死だろう。


「火田(ひだ)先輩って負けたことあるんですか?」


 あれだけ強いんだ。負けたことなんてないんじゃないか?


「あら、1年のころは負けまくってたわよ。入学したばっかのときはあの力に気付いて無かったからねー」


 森ノ本先輩の意外な答えに驚く。あの完璧を絵に描いたような養ちゃんにもそんな時期があったのか。


「彼が模擬戦首位をとるようになったのは2年の後半からよ。正直はじめは口ばっかの頼りないヤツって思ってたんだけど、ホントたいしたもんだわ」


 先輩が会場の養ちゃんを見つめ、やさしく微笑みながら独り言のようにつぶやく。こんな表情の森ノ本さんははじめて見た。

 正直この人はどこかいい加減というか、快楽主義者というか、あんまり他人を認めないような人間かとも思っていたが、養ちゃんだけは違うようだ。


「好きなんですね、養ちゃんのこと」


 はじめはこの人は養ちゃんとは不釣り合いだと思っていたが、なかなかしっかりしたところもある。宮ノ本が言っていたが、悪い人じゃーないようだ。


「あらー、普ちゃん生意気な口利くじゃない。あたしがただ見てくれや人気だけで養助くんと付き合ってると思った?」


 まあ、良い人でもないんだが。


「そ、そんなこと思ってませんよー」


「まあ、そう思われてもしょうがないわよねー。私はこんな性格だし、実際養助くんはカッコよくてクラスの人気者。他の同級生みんなにもそう思われてるわ」


 なんか何時(いつ)になく弱気な発言だな。ちょっとどう返事したらいいかわからないぞ。


「いいんじゃないですかね、火田先輩も森ノ本先輩のこと好きなら」


 悩む僕に代わって、サックが先輩を励ます。


「あら、ありがとサック。そーよねー、養助くんはわたしにドはまりして脱出不能の蟻(あり)地獄状態なんだから」


 森ノ本先輩が明るく答えるが、表現の仕方が若干コワイと思うのは僕だけなのだろうか。

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