↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
欲望=魔物  作者: クニクニ
5章
102/172

3羽と1人のピクニック

7/15 (土) 朝  林道


 靴ひもをしっかりと結び、丁度いい締め付け具合であることを入念に確かめる。途中で解(ほど)けたのでは集中が切れるし、なるべくなら止まらずに走りたい。

 背中のリュックには水や軽い食事とともに長袖と合羽も入れてある。山の天気は変わりやすいと言うし、もしものときの備えは一応しておくに越したことはない。


 学園の西側、医療棟や模擬戦場に面した林から伸びる林道は、通称『ウサギ山』とよばれる小高い山へと繋がっている。名前の由来は野兎がよく見られるかららしいが、俺はまだイノシシしか見たことがない。

 一応学園の敷地内なのだが、小さい山とはいえ山頂ともなれば校舎からかなり離れることになるし、普段は誰もいない場所なので安全のため学園事務所に施設使用願の書類を提出することになっている。

 もちろん俺も一昨日(おととい)届出を出しておいた。


 林道の舗装されたマラソンコースもあるのだが、たまには山道を登るのも楽しいし、頂上からの景色もなかなかに悪くない。ジムのランニングマシンでは味わえない解放感もあって、長期休みのときにはよく1人でウサギ山に登る。

 今日から3連休なので疲れてもゆっくり休めるだろうと、日課のボウリングを取りやめて登山がてらのクロスカントリーランニングに出かけることにした。


 医療棟と室内模擬戦場に挟(はさ)まれた道をまっすぐ進むと、すぐに両側にはうっそうと茂った林が現れる。

 早朝の山道は涼しく、運動には最適だ。7月も中旬となると日中は焼けつくような暑さに変わるため、日射病を避けたいのもあって朝早めに家を出てきた。


 林道に入ってしばらく歩いたところで立ち止まる。


「出てこい」


 左手をかざすと3羽の不死(ふし)ガラスが姿を現す。

 林道の利点は魔物を呼び出せることも大きい。校舎内や商店区では普段は魔力の使用は禁止されている。能力者だけでなく、普通の人間も居る場所では事故が起こるともかぎらないからだ。

 居住区や家の中では呼び出せるが、たまには広い場所で自由にしてやりたい。校庭や室内模擬戦場、林道などの開けた場所や、人の少ない場所は思い切り魔物を動かせる。

 特に俺の場合は空を飛ぶ魔物のため、屋外でのこうした時間はカラスたちにとっても貴重な息抜きになる。


 カラスたちはよろこんで上空を飛び回りだす。

 俺は人間嫌いだが、動物はそれほど嫌いじゃない。もちろん自分の魔物も含めて。人間ほどうるさくないし、面倒でもないからだ。

 不死ガラスたちともあまり話はしないが、家ではなるべく呼び出すようにしているし、不満や要望があるようなら聞くようにしている。大事なパートナーだし、自分の分身ともいえるのだから嫌ったり、粗末に扱う理由が見当たらない。

 ウサギ山や林道へ来るのはこいつらの要望でもある。


(ハジメー、エサくれ)


(えさえさー)


(オレにも、オレにもくれー)


 普段は無口な3匹がリュックにエサが入っていることを察知し、喚(わめ)きだす。

 言葉を話せる魔物もいるが、不死ガラスは本物のカラスと同じ鳴き声しかできない。

 だが、代わりにこいつらは直接主人とテレパシーで会話できる能力がある。

 通常、魔物は主からの命令を感覚的に受け取って行動するが、これは交信速度が速い分おおざっぱな内容で、主人からの一方的な指示の意味合いが強い。必然、魔物側の独自の判断要素も強くなる。

 しかしテレパシーによる会話が可能になることで、遠距離における細かく具体的な指示や魔物側からの状況報告が行え、偵察などの役割もかなり効率的に果たせる。


(わかったわかった、少しだぞ。昼飯の分がなくなっちまうからな)


 脳内会話で返事をし、リュックからスナック菓子の袋を出して道端に菓子を少量ばら撒く。


「カカァー」


「カァカァ」


「カアアァ」


 カラスたちは鳴きかなが着地し、道端の菓子をついばみはじめる。

 魔物はメシを喰わなくても発現者の魔力があれば生きていけるが、魔力には味は無い。

 喰うことってのは只のエネルギー補給だけではなく、ストレスの発散にもなる。不死ガラスはスナック菓子に目がなく、いつも欲しがるので家には常備してある。


「よし、じゃあ急ぐぞ。午後一番には家に戻って来たいからな」


 今度は言葉で魔物に話し、リュックに菓子の袋をしまって背負い直し、軽く走りだす。

 誰もいない朝の林道をカラスたちと快調に進んでゆく。


 やがて道は真っ直ぐ野外実習場へと続く舗装道路と、右に逸(そ)れたウサギ山へと続くケモノ道に分かれる。

 もちろん俺たちは右への道を進む……はずだったが、野外実習場への道の先に人影が見えた。


(おい、みんな隠れろ!)


 俺は道路脇の林のなかへ身を隠し、カラスたちも指示通りゆっくり旋回して木に止まる。

 どうやら向こうは俺たちにまだ気付いてないようだ。

 早朝の林道を行く人影と、その隣りには小さな生き物が浮いている。見覚えのあるそれは、おそらく奴の魔物だろう。


 野外実習場まではここから相当離れている。野外授業で使う場合は学園のバスに乗って行くのが普通だ。

 施設使用願を出せば休みの日に使えないこともないが、ここの夏休みは8月に入ってからだし、ただの3連休で使うとは思えない。

 それにあんな遠くまで徒歩で行くことは考えにくい。移動能力のある魔物があるなら話は別だが、あいつの魔物じゃ無理に決まってる。


 このまま放っておいてもいいが、普人(しんと)から話を聞いてたし、見ちまった以上はそうもいってられないだろう。

 しっかし呼刀(ことう)の野郎、本気で学園から逃げ出す気なのか?

 めんどくせーことになったもんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。