慰めの昼食
7/10 (月) 正午 学生食堂
「やっぱ夏は冷やし中華だよね」
「ああ、これ食べると夏だなーって感じるよね。商店区のファミレスんのも旨かったけど、学食のも家庭的でうまいよね」
目の前の2人が冷やし中華談義でもりあがる。たしかに夏といえば冷やし中華が定番アイテム。
サックと呼刀のすする学食の冷やし中華は家で母親が作るようなきゅうり、ハム、の千切りに錦糸たまごをトッピングしたシンプルなつくりだ。
上にはアクセントとしての白ごまがふりかけられ、脇には半分に切ったプチトマトが2つ、呼刀のほうにはからしもたっぷりと添えられている。
「君たち、それはぶっかけたぬきそば大盛りを頼んだ僕へのあてつけかね?」
僕の前には広く浅めの漆塗りの器に山盛りの冷たい日本そばがあり、その上にはカリカリの揚げ玉と刻み海苔に薬味の長ネギの輪切りがふりかけられている。
僕も冷やし中華は好きなのだが、どちらかというと蕎麦派だ。学食のそばは僕好みの色が濃いぼそぼそとした食感の十割蕎麦で、噛むたびにブツブツと切れるこの食感がたまらなく好きなのだ。
揚げ玉も始めはカリッとした歯ごたえで、つゆが染みてくるとフニャッとした食感に変わるのも嫌いじゃない。
べつにグルメぶってるつもりはないし、学食のメシを喜んで食べるような貧乏舌なのでお察しだが、好きなモノを金銭の心配することなく食えるのはこの学園の最大のメリットと言っても過言ではない。
大食いの養ちゃんや堀田さんならこの気持ちが分かってもらえるだろう。
しかし目の前の2人は見るからにもやしっ子のモデル体型で、喰うことにはあまり関心がないんじゃないかと疑ってしまう。
「そんなことねーよ。俺も蕎麦好きだぜ、普人。まあ大盛りは喰わないけど」
「そーだよ普人くん。たまたま僕らが冷やし中華被っただけだよ。まあ大盛りは食べないけど」
くっそう。なんか人気者とボッチが食い物で線引きされたようでやりきれない思いになる。
俺だって普段は普通盛りなのだが、今日は無性に蕎麦をガッツリいきたくなったんだからしょうがない。
今日はいつもいっしょの佐野君が風邪で休みということで、呼刀が俺を昼飯に誘ってきたのでサックと3人で喰うことになった。サックと呼刀はお互い社交的な性格なので前からちょくちょく話くらいはする仲らしい。
「ところで呼刀、先週の模擬戦はどうだった?」
呼刀が冷やし中華をつかんだ箸を置き、俺の問いに答える。
「どうだったって、そりゃ言わずもがなだよ。俺が模擬戦上位陣の節家先輩に勝てるわけないだろう?
憑依能力も使わずに秒殺だよ秒殺。せっかくお前から聞いた情報もムダに終わったよ、わるかったな」
まあ俺も観覧席から観ていたからだいたいは分かるが、知りたかったのはコイツの心境のほうだ。
3連敗して相当落ち込んでるかと心配したが、今日の様子じゃそれほど深刻ではないようで安心した。
どうやら俺の取り越し苦労だったようだ。これなら節家先輩に相談しなくてもよかったかな?
「いやいや、たいした情報でもないからな。気にすんなって。
俺が心配だったのはお前のやる気だよ。模擬戦はまだはじまったばっかだからな、焦らずいこうぜ」
言って山盛りの蕎麦をズルズルッとやる。
鼻から抜けるソバの香りがたまらない。やっぱ蕎麦にして正解だったな。
「そうそう。模擬戦はじまってまだ1ヶ月だからね。それに模擬戦での順位が悪くても大抵の生徒は進級できるってはなしだよ。要は実戦での戦力になるかどうかを見るって話だからね」
サックも呼刀を励ます。
確かに模擬戦の結果が進級、卒業、進路に大きく影響するのは事実だが、進級や卒業はあくまで個人の実力が基準に達しているかどうかで判断される。
0勝でも卒業できるかもしれないし、全勝しても卒業できないことも有り得る。まあこれは少々大袈裟な言い方ではあるが。
「それにサックや呼刀は防御や探索の能力がメインなんだからその辺も考慮されるだろ? その点俺なんて厳しいもんさ」
非戦闘能力とはいわないまでも、有用な能力にはそれなりに合格基準も甘くなると霧真者先生も言っていた。リキッドの能力じゃ無理だろうが。
「やれやれ、俺を倒した2人に慰められるとはねー」
呼刀に言われて気付いた。そういえばここに居る2人が呼刀に黒星をつけた張本人だ。
「す、すまん……」
「ご、ごめんね呼刀くん……」
サックと共にばつの悪い顔で謝る。
「おいおい、今更謝んないでくれよ。ほんの冗談だって」
呼刀は呆れ顔で冷やし中華をすする。
「いやー、遅れてすまんかった」
突然どこからともなくトレーを持った八田さんが現れ、僕の隣りの席に座る。もちろん一緒に食べる約束などしていない。
まあ毎度のことだし、一応ともだちになったんだし、同じボッチの身である彼女を無下に追い払うつもりなど毛頭ない。
最近はいつ八田さんが来てもいいように、僕の右隣の席は空席にするよう心掛けているくらいだ。
ただ1点文句があるとすれば、彼女のトレーの上にはぶっかけたぬきそば普通盛りが載っていたことくらいだろうか。




