秒殺
7/7 (金) 午後 第1室内模擬戦場
梅田先生の合図と共に、ファイティングポーズのまま1歩前に出る。
1年の呼刀は俺の行動を予期していなかったのか、一瞬ギョッっとした表情を見せたが予想どおり魚型の魔物を3匹真っ直ぐこちらに突進させる。
「来い」
最速で不死ガラスを1羽、目の前に召喚する。予備動作なしのクイック召喚。
一瞬で現れたカラスは主である俺の命令に従い、すぐさま空中で翼を広げて盾となる。1歩前へ出たのは俺に向けて複数飛んでくる魚を、なるべくバラけないように全弾不死ガラスで受け止めるためだ。
もちろんその間もただ待ち構えているわけではない。
サイドステップで左へ回り込むように移動し、右手を背後に回してカラスをもう1羽呼び出しておく。
今度は慌てることもないので後ろ手に右手のひらをかざし、普通にゆっくり召喚する。
トストスッ
という刃物が刺さる音を確認する。
「クワァアアーーッ!」
と、盾となったカラスが苦痛の叫びをあげ、地面にバタリと墜落する。だが刺突音は2つしか聞こえなかった。
目の前の呼刀を警戒しつつも半身になって、逃した1匹を確認する。どうやら俺の足元を狙ったらしく、逸れた魚はその長くとがった鼻先を地面に着き刺していた。
すかさず背後に呼び出した2羽目の不死ガラスに命じ、地表に突き刺さった状態の魚に火炎放射を浴びせる。
「ぅあっつあつあつっ!」
眠そうな目をした魚は業火に飲まれ、火だるまになりながら悲鳴をあげる。
焼き魚にされた魔物はフッと姿を消す。
分かったことは2つ。不死ガラスの炎で強制帰還させることができることと、魚型の魔物は言葉をしゃべれること。
……まあ2つ目はどうでもいいが。
呼刀のほうは、最後の1匹を俺に飛ばすか迷っているようで、目の前に魔物を待機させたまま俺と2羽のカラスの様子をチラチラ伺っている。
間髪入れずに残りの1匹を放ってきたら自分の腕でガードするくらいの覚悟はしていたんだが、はじめの思い切りの良さはすっかり影を潜め、赤毛の1年は途端に慎重になりはじめる。
「クワワッ!クアックアッ!」
2匹の魚が刺さったカラスがのた打ち回りながら激しく鳴き始める。どうやら2匹を引き抜いて回収しようと暴れさせているようだ。
だがそいつは判断ミスだ、1年坊主。
あのスピードで刺さったんだ。ちょっとやそっとじゃ抜けないぞ。それに抜けたとしても確かに攻め手は増えるかもしれんが、せっかく仕留めたカラスを自由にしちまうことになる。
1匹だけ抜くつもりだとしても2匹刺さった状態であれだけ暴れてるんだ。1匹で1羽を押さえ込んでおくのはリスクがデカいし、戦闘中の貴重な時間をさくほどのリターンがあまりない。
なにより自分の魔物を引き抜くことに集中しすぎて俺への注意が散漫すぎる。
左手を前にかざし、3羽目を召喚する。
「出てこい」
ゆっくりと3羽目のカラスを召喚し終えた俺に、呼刀は刺さった2匹を引き抜くのをようやく諦め、身構える。
召喚したてのカラスを羽ばたかせ、まっすぐ呼刀へと向かわせる。そのあとを追うように俺も拳を構えたまま距離を縮める。
不死ガラスは相手の手前で減速し、そのまま上空から炎を吐きだそうと口を開ける。
「ダガー、突き刺せ!」
空中でホバリングした無防備な状態のカラスに、呼刀は難なく最後のダガーを突き刺す。体のど真ん中に魚が突き刺さったカラスは崩れるように地面に落下する。
だがこれは想定通り。俺にとってはベストな結果といえる。
丸腰になった赤毛に素早く接近し、右ストレートを胸に打ち込む。
”ドンッ”という衝撃と同時に、
「ぐうっ!」
という呻き声をもらす赤毛。
細身の呼刀の薄い胸板へ打ち込んだパンチは、ガードもせずにまともに喰らった奴を簡単によろけさせる。
ふらつきながらもなんとか倒れずに踏みとどまった1年は、さすがに今度は両腕を胸の前にかざしてガードらしきポーズをとる。
そのガードの上から左ジャブを3発ほど放つと、パンチの威力に押されつつ呼刀はグラつきながらじっと耐える。
見よう見まねのガードは脇が上がり、ボディ部分ががら空きで腹部を狙えば倒れるだろうが、ただの時間稼ぎにそこまでやる必要はないだろう。
第一倒すつもりなら1発目にノーガードのみぞおちを狙っている。
呼刀を足止めしているあいだ、2番目に呼び出した無傷の不死ガラスは、俺の背後でダガーが刺さった他の2羽を丸焼きにしていた。
もちろん不死身のカラスは火だるまになってもすぐに回復し、何事もなかったかのように地面をテトテト歩き回り、焼き魚となった3匹は跡形もなく強制帰還されていた。
ビィイーーーッ
というブザー音が館内に響き、俺は呼刀から距離をとってから構えた拳をゆっくり下ろす。丸腰の相手でも最後まで油断しないってのは模擬戦でも実戦でも鉄則だ。
呼刀のほうも試合が終わったことにやっと気付いたのか、ガードを解き、茫然とこちらを見ている。
「はい、魔物がすべて強制帰還されたので節家の勝ちー」
やれやれ、梅田先生は相変わらずふざけてるのか本気なのかよくわからん。
「おつかれ」
ぼけっと突っ立っている1年坊主に俺はそっぽを向きながら言い、2人の先生に会釈して控室へと戻った。




