2年のプレッシャー
7/7 (金) 午後 第1室内模擬戦場
「よ、よろしくお願いします」
「……ああ、よろしく」
どこ見てんだ? この人。俺、なんか気に障ることやったかな。
普人は悪い人じゃないって言ってたけどホントかな? とてもそうは見えないんだが……
とんでもなく強いとも言ってたな。たしかにどうやっても弱そうには見えないな……
「んじゃ、そろそろはじめるぞー。判定人の梅田と、こっちは星先生だ。よろしくな」
2年の担任の梅田先生が今日の判定人だ。色黒でゴツめの中年男性で、見るからに体育会系教師だな。
もう1人の判定人は女教師の星先生。20代半ばのおとなしめな先生だ。
「分かってると思うが、ルールはなんでもありで無制限。ブザーが鳴ったらすぐ止めろ。そんだけ」
梅田先生はかなり明るい性格……というかいいかげんな性格のようで、おどけた口調で適当に説明する。
「あー、そーいやギブアップなんてのもあったか。負けたくなったら俺か星先生に言ってくれ。
じゃあ、特に問題なければ準備しろ。ちゃちゃっと終わらせちまおーぜー」
梅田先生の口調になんだか緊張の糸がゆるんでしまう。
だが、その言葉を聞くと星先生は梅田先生の隣りから素早く反対側に移動し、そっぽを向いていた節家先輩はボクシングの構えを取る。
いままでやる気なさそうにしていた先輩は途端にスイッチが入り、全身を覆う魔力は急激に輝きを増し、その眼光は直視できないほど鋭くなる。
俺も慌てて右手を前にかざし、ダガーを召喚する。
「来い、ダガー!」
淡い光とともに眠そうな目のダガーフィッシュが4匹姿を現し、空中を泳いで俺のまわりを囲み、先輩に向かい合う。
保険に1匹取っとくなんて出し惜しみしてる場合じゃない。それにいままでの経験で召喚時の隙をねらわれると逆に危険だと学んだ。
「うはっ、おっかねー」
俺の魔物を見て梅田先生が茶化すように言うが、口元は笑っているもののその目は笑っていない。真剣そのものだ。
だが、にやけた口元もすぐに引き締め、先生が俺の方を向く。
「小林 呼刀くん。相手は2年だからって遠慮することはないぞ。殺す気でやっていい。
でないと君が死んじまうかもしれんよ」
さっきまでのふざけた口調とは違い、静かに、諭すように先生がアドバイスをくれる。
「わかりました!」
緊張から、叫ぶような返事になってしまう。
ファイティングポーズで小刻みに身体を揺らす先輩に対し、こちらも軽く膝を曲げて腰を落とし、低く身構える。
柵平君や普人とはまるで違う、強烈なプレッシャーを息苦しいくらい感じる。これが上級生の力か。
だが、先輩は魔物を召喚しようとはしない。俺が1年だからハンデでもくれてるつもりなのだろうか。まあくれるってんなら貰うまでだ。こっちはなんとしても初勝利が欲しい。
普人から聞いた情報だと、先輩の魔物は炎を吐く不死身のカラス。俺と同じ複数タイプの魔物で、3羽いるらしい。
そして憑依能力は不死身と爆破。不死身なんてどうやっても倒せっこない。俺の小さなダガーじゃ4匹集まっても人間1人を拘束することは難しい。
試合が始まったら速攻で3匹を全力で飛ばし、今まで通り脚を狙う。1匹でも当たれば移動は困難になるはず。
カラスを出されたら即ターゲットをカラスに変更する。普通のカラスと同じくらいの大きさらしいから、ダガーを突き刺して暴れさせればいくら不死身でも動きは止められるだろう。
先輩がもし召喚を経由せずに直接憑依が可能だったら……いや、考えるのはよそう。不死身になったらなったでその時は何も考えず総攻撃だ。なにせ不死身なんだから怪我をさせる心配もない。
梅田先生の言う通り、それこそ『殺す気で』やるしかない。
「よし、では本日の第1試合。はじめぇっ!」
先生が気合の入った掛け声とともに手刀を振り下ろして模擬戦が始まった。




