ボッチと人気者
7/7 (金) 午後 第1室内模擬戦場
第1室内模擬戦場の観客席は10人足らずだろうか。
全校生徒36人で1ヶ月の模擬戦日は4日か5日。1人1試合とすると18試合はこなすので1日4ないし5試合。
これを2ヶ所の室内模擬戦場で同時におこなうので1ヶ所あたり1日2、3試合で終わる計算だ。
さらに、対戦によっては5分と掛からずに終わるので早ければ30分以内で終わることもざらにある。
模擬戦の観覧は自由意志で、どちらの会場を見てもいいし、全く観ずに帰宅しても構わない。
だが多くの生徒は自分の試合日以外は観戦するのが普通だ。だれがどんな能力を使うか、どんな戦い方をしてどれだけ強いのかを観察することは自分の試合で大いに参考になるからに他ならない。
僕がこちらの第1模擬戦場を選んだのは他でもない、節家先輩と呼刀の試合が気になったからだ。
第2模擬戦場のサックの試合も気になったが、相手は3年生とはいえ下位の人だったのでそれほど心配はしていない。
万屋さんたちはそちらを観に行ったようなので今日は1人で観戦……のつもりだったが、観覧席最後列の隅っこに一際目立つ巨体を見つけた。
「堀田さん」
声をかけると長髪のレスラーのような大男がこちらを振り向き、笑顔をつくる。
「やあ、小林君。ああ、普人君と呼んだほうがいいかな。今日はもう1人の小林君が出るみたいだからね」
「ええ、構いませんよ。隣り、いいですか?」
「ああ、もちろんだよ」
先輩の左隣に腰掛ける。観覧席の椅子は長いベンチタイプが階段状に並んだもので、背もたれもない簡素なつくりだ。
座り心地がいいとは言えないが人の出入りがし易いし、模擬戦は長くても1時間もしないで終わることが多いのでこれで十分だろう。
「やっぱりお目当ては第1試合かな?」
「ええ、節家先輩とは不適合者判定試験からちょくちょくお世話になってますし、呼刀とも割と仲いいんで気になりましてね」
「ほー、普人君は意外と交友関係が広いんだね」
堀田先輩に世渡り上手の八方美人だと誤解されてはたまらない。慌てて否定する。
「いやいや、僕なんてクラスじゃほとんど1人でいるような根暗ボッチですよ。呼刀は誰からも好かれる人気者で、彼とも大の仲良しってほどじゃないですしね」
「でも、2人の対戦は気になるんだろう? だったら立派な友達じゃないかな」
穏やかな笑みを浮かべ、堀田さんが僕に言う。
サックに万屋さんに呼刀。3人はクラスで人気者なので、どうしても心のどこかで負い目を感じてしまう自分がいる。
ふと、堀田さんと養ちゃんの関係も似ているのかなと気になった。
「堀田さんにとって火田先輩ってどんな存在なんですか? 火田先輩って人気者じゃないですか、友達も多いですし。
そういう人と仲いいと、なんか引け目に感じたりしませんかね?
……あ、いや、これは別に堀田さんが友達少ないとか、そーいう意味じゃないんですよ」
うわっ、俺はなんつー失礼なこと言ってるんだ。『友達少ない』なんて、ボッチにとっては最大のNGワード。発声禁止用語として国会で法案が通ってもいいレベルだぞ。
「ははっ、そんなに気を遣わなくてもいいよ。事実なんだし。
確かにその気持ちはわかるよ。実際火田君がほかの友達とワイワイ楽しんでるときは、邪魔しないように僕は自分から離れてるしね。
でもその遠慮は、逆に火田君を友達として気遣う気持ちとも言えるよ。ただ騒いでる集団を嫌って離れてるのと、友達がたのしんでるのを邪魔しないよう気遣って離れるのとじゃ全然違うからね。
僕のその気使いを彼もくみ取ってくれるから、僕は火田君と友達なのかもしれないな」
堀田さんの答えはいつも的確だ。養ちゃんのアドバイスも的確だが、それとはまた少し違った意味で的確だ。
なんとゆうか、『共通の価値観をもつ人の客観的なことば』とでも言うのか、自分の感じていた気持ちを正確に表現してくれる感じだ。
堀田先輩の言葉を聞くと、自分の気持ちが再確認できる。
たしかに僕が3人の人気者と友達でいられるのは、3人とも周りの友達と接しながらもボッチな僕を気遣ってくれるからに他ならない。だから僕も、彼らと友達でいたいと思うのだ。
どちらか一方通行の気持ちなら上辺だけの関係になっているだろう。
「先輩、いつもくだらない質問に答えて頂いて、ありがとうございます」
「急にどうしたんだい? それに君の質問はくだらなくはないさ。ときどきドキッとするような問いかけで、僕自身も考えさせられることが多々あるよ。
そういう人と話すのは今まであまり経験が無かったから、君との会話はなかなかに楽しいよ」
なんだかこの人に褒められると妙にうれしい。聡明であり丁寧な物腰ながら、偉ぶってないのがいい。
いつも1人で居るが、見かけで損しているのではないかと思う。でも1人でいるのが好きなふうでもあるので、堀田さんにとっては丁度いいのかもしれない。
「おっと、出てきたみたいだね」
先輩の言葉で、模擬戦場に視線を移す。
男子控室の一方から赤い髪の呼刀が出てきて室内中央へと歩いてゆく。その表情は幾分緊張している様ではあるが、模擬戦も3戦目のせいか僕とのときほどではないようだ。
しばらくしてもう一方の男子控室から白髪頭の節家先輩が出てくる。軽く屈伸をし、アキレス腱を伸ばしてから呼刀の待つ中央へと向かう。
僕は呼刀が先輩に勝つことを期待しているわけではない。なにか模擬戦を積極的にとらえる出来事が彼の身に起こらないかと思っている。
自分も確かに模擬戦は好きではないが、必要なことだとは認識している。そして強くなりたいとも感じている。
そういったモノが呼刀にも芽生えれば、負けることへの恐怖心もなくなるはずだ。




