やる気とキッカケ
7/4 (火) 放課後 学生食堂
「呼刀は今、かなり落ち込んでいます。2連敗してますし、こないだの僕の怪我は自分のせいだと思い込んでる。
あいつは見た目はチャラいですが性格はやさしくて、争いごととか苦手なタイプなんです。だから模擬戦に対してすごい後ろ向きになってて……」
自分で言ってて話がまとまらない。でもこのあいだの沈んだ表情の呼刀を思い出すと、節家先輩に言わずにはいられない。
学校で会ってもまだ先週の模擬戦のことを引きずってるようで、浮かない顔のときが多い。
「だから……」
「だから手を抜けとでも言いたいのか?」
すこし怒ったような声で先輩が僕のことばを遮る。
「……いいえ、そんなことは……」
とはいえ、こんなことを今週対戦する先輩に話している時点で遠まわしに『負けてください』って言ってるようなもんだ。
「確かにお前と戦うためにわざと負けて順位を落としたが、それは自分がやりたいからやっただけだ。
他の誰かに頼まれて八百長試合をする気なんざ更々ねーよ」
「いえいえ、節家先輩。普人くんはただ、落ち込んでる呼刀くんのことを相談したいだけですよ。模擬戦の経験者に聞けば、逃げ腰な友達になにか打開策が見つかるかもしれないと思って訊いているだけなんです」
サックが僕に助け舟を出す。
それでも先輩は憮然とした態度のままだ。
「そんなもんはない。周りがいくら焚きつけようが、本人がやる気にならないとどんな言葉も右から左だ。普人、判定試験でのお前もそうだっただろ?
いくら周りが励ましても恐怖心ってのは取り除けない。恐れや諦めってのは自分1人で打ち勝つことしかできない。目の前の障害は自分にしか見えないんだから当然だ。
それをやさしいだの、争いごとは嫌いだのと取ってつけたような言い訳でごまかしてるようなヤツは一生変われない。やる気がない奴、諦めた奴を助けようとしても時間のムダだぞ、普人。
少なくとも俺は、そんな野郎を助ける気はない」
それは分かってはいるけれど……本人のやる気次第なのは理解しているけれど……
「それでも……周りの一言でやる気になることってあるじゃないですか。
がんばっても、やる気になっても、結果が出ないときってあるじゃないですか。
そんなときに誰かの一言がキッカケになることもあるんですよ。
僕が発現できたのは僕1人の力じゃない。サックが、養ちゃんが、万屋さんが、霧真者先生が励ましてくれたからなんです。
節家先輩が『お前は落ちこぼれじゃない』って言ってくれたからなんですよ。
……呼刀はまだ諦めてない。だから何かできないかと思ったんです」
誰も何も言わない。
沈黙が辺りを支配する。
はじめに口を開いたのは節家先輩だった。
「模擬戦は卒業するまで続く。1年はまだ始まったばかりだ。
その呼刀ってやつが負けても勝っても模擬戦に出続けたら、自ずと答えは出るだろう。
だが途中で逃げ出したり、諦めたりするのなら……そいつはそこまでの奴ってことだ」
缶に残ったコーヒーを一気に飲み干し、先輩は席を立つ。
「弱い相手なら手加減はする。だが手を抜くことはありえない。きっかけは他の誰かに任せるよ。俺は口下手なんでな」
空き缶をくずかごに捨て、食堂を出て行く節家先輩の後ろ姿を僕らは見送った。




