誤算の対戦
7/4 (火) 放課後 学生食堂
「話というのは他でもない、今月の俺の対戦相手に関することだ」
目の前の2人に俺のメンタルの弱さを露呈してしまったが、今はそんなことはどうでもいい。
……いや、よくはないが取りあえずは置いといてだ。
俺の間抜けな話を一応普人にも話しておいたほうがいいだろう。
「先輩の今月の対戦相手って……誰なんですか?」
普人のやつが至極まっとうな質問をぶつけてくる。
「それが……『小林』だ」
1年2人はポカンと口をあけてこっちを見ている。
「えっ、つまり掲示板の対戦予定表は間違ってるってことですか?」
チビッコ柵平が先に質問してくる。
「いいや、対戦表は合ってる」
「……ってことは、先輩の相手は呼刀のほうってわけですか?」
今度は普人が確認する。
「ああ、そうなんだ」
今まで真剣に聞いていた2人の目が疑いの眼差しに変わる。
既にこいつらは俺の失態に感づいたみたいだ。
非常に気まずい空気が流れるのを感じる。俺は務めて平静を装い、ふたたび缶コーヒーを口にする。
「先輩、模擬戦の投票用紙になんて書きました?」
冷めた目で柵平が尋ねてくる。
「対戦希望者の欄に名前書きませんでしたか?」
死んだ魚のような目で普人が俺に訊く。
「……小林……って……」
2人の蔑んだ視線を避けるように缶コーヒーの成分表示を見ながら答える。自分でも驚くほど小さな声だった。
俺の答えに普人と柵平が同時に溜め息をつく。
「要するに僕と戦うはずが、呼刀のほうに間違えられたってわけですか」
「それで今日は普人くんのことを『普人』って呼んでたんですね」
1年2人の冷めた態度に俺の缶コーヒーがすすむ。
「しょーがないだろ。普通『小林』って書いたら普人のことだってわかりそうなもんだろ? 第一なんで1年に小林が2人もいるんだってはなしだ」
自分でもわかってる、明らかに的外れの八つ当たりだと。だがこうでも言わないと自己弁護できそうもないのも事実だ。
「でも節家先輩ってかなり上位ですよね? 呼刀くんはまだ1勝もしてないから現状最下位のはず。よくそんな組み合わせになりましたね」
「ああ、それは説明がつく。普人の順位が最下位でも対戦組めるように、俺がわざと負けて順位落としてきたからな」
正直あまり気の進まないやり方だが、普人と早く全力で戦ってみたいという欲求のほうが上回った。
「まあ決まっちまったもんは仕様がない。呼刀の方と今週やることになってる。一応模擬戦前に言っておこうと思ってな。
俺が弱い1年狙って勝ち点稼ぐセコい真似してるとお前らに誤解されたくないから話した、それだけだ」
「呼刀は弱くはないですよ」
不意に普人が真顔にもどり、俺に言う。
「ああ、わかってるって。2戦2敗だが、相手はお前ら2人だろ? それに大柄なお前を重症にするだけの威力も魔物にはあるようだし、舐めてるわけじゃあない」
この2人は1年の中でもその魔物の能力には一目置かれている。普人はもちろん、柵平の方もバリアと回避能力に長けためずらしいタイプだ。
個人的にもこれから模擬戦上位になれる素質は普通の1年より上だと買っている。実現するかは各々の努力次第だが。
「普人くんは呼刀くんと仲がいいんですよ」
柵平が口を挟む。
「ほー、そうなのか」
意外な接点だな。
「僕からも、節家先輩に一応聞いておいて欲しいことがあります」
いつになく真剣な普人の表情に俺はそっぽを向くのを忘れ、正面に座るデカい1年に見入っていた。




