雑談が長すぎる、メンタルが弱すぎる
7/4 (火) 放課後 学生食堂
「ところで先週の模擬戦の傷はもういいのか? 大怪我したって聞いたぞ」
節家先輩が僕に話を振ってくる。
僕ら3人はガラーンとした人気のない放課後の学生食堂で、それぞれ缶コーヒーを買って窓際のテーブル席に着いていた。
「ええ、この通りもう大丈夫ですよ。大した傷でもなかったですしね」
作り笑いで全快アピールをするが、横の席で缶コーヒーをちびちびやっているサックがちゃちゃを入れてくる。
「うーそばっか。体じゅうにダガー刺さって大怪我だったじゃないさ。もう少しで左目も見えなくなるとこだったんですよ。そりゃもう大騒ぎでしたよ」
サックは普段は紅茶派だが、僕と先輩に合わせてめずらしくコーヒーを飲んでいる。細かいところも気を使うのはさすがだ。
「そうだったのか。2人とも気を付けろよ、いくら仲間でも模擬戦じゃ真剣勝負だ。油断や情けは自分も相手も危険に晒すだけだ。
手加減はしても手は抜くなってのが模擬戦の鉄則だからな」
同じことを霧真者先生も言ってたな。確かにこの前は僕が手を抜いたから大怪我をした。同じ失敗は繰り返さないようにしないと。
「肝に銘じときますよ。ところで今月の僕の相手は森ノ本先輩でしたよ。なんか憂鬱ですねー。僕、あの人苦手かもしれません」
「なんだ、森ノ本さんのこと知ってるのか? 普人」
おっと、また名前で呼ばれた。やっぱりなんかまだ慣れないなー、先輩に名前で呼ばれるの。
「え、ええ。このあいだ火田先輩と一緒に居るところに偶然出会いまして、紹介してもらったんですけどね」
「普人くんも宮ノ本さんとデート中だったんだよねー」
はいはい出ました、柵平君の執拗な嫌がらせ。
「へー、普人と宮ノ本がねー」
ほらほら、先輩も信じちゃったじゃないの。
「いえいえ、違いますよ。僕らはただちょっと話をしてただけですから。決してそーゆう関係ではないですよ」
「2人っきりで何をはなしてたのかな?」
サックは攻撃の手を緩めない。うわー、またこれが数日続くのかー。
「だーかーらー、軽い世間話的なものだって。疑り深いなーサックは」
「こんなこと聞くのはあれなんだが……」
僕とサックの攻防を眺めていた先輩が、おもむろに割って入る。
「おまえら2人はそのー……デキてるのか?」
……は?
「……え? そ、そんな、センパイ。ボクと普人くんが蜜月ハニートラップで首までドップリ浸かってるなんて……そんな……へへっ、うへへっ」
柵平さん、目がイっちゃってますけど……
「い、いや、俺は別に悪いとは思わないぞ。その、なんだ、男同士でも個人の自由だと思うし……あっ、だけど俺はそっちの人間じゃないからな!
あくまでお前らの関係に口は出さないし、周りに言いふらすような真似はしないって話だぞ。俺はノーマルだからな!」
何時になく力を込めて節家先輩が話す。
こっれはいろいろとめんどくさいことになってしまったなー。
とりあえず僕とサックの関係を否定するしかないな。
「先輩、僕とサックはただの……」
「付き合ってます」
……はい?
「普人くん、もう先輩には隠しきれないよ。仕方ない、ここはもう思い切って……」
「ちょっと何言ってんの、サック?」
「でももうボクらの肉体関係が明るみになってしまった以上は……」
「黙って黙って、サックもうお願いだからダマッテ!」
凶悪。凶悪すぎるだろこれは。
モチつけ。ここは冷静に打開策を考えろ。この小悪魔の皮を被ったディアボロの口を封じないことにはこの食堂に平和は訪れない!
「先輩、ちょっとお時間をいただきますね」
節家先輩に断りをいれ、サックに耳打ちする。
「ごめんごめん、サック。僕が悪かったから。機嫌直してくれよ。でないと先輩にまで迷惑かかるだろう?」
サックも耳打ちで返答する。
「では誠意を見せてくれたまえよ、普人くん」
取引する気まんまんじゃないですか。
「何が欲しいの? 言ってみなさいよ」
「普人くんと行く、2泊3日引きこもり旅行。(添い寝付き」
なんとも地味とゆーか、リアルとゆーか。生々しい取引だな。
とはいえこちらに選択権はない。
「じゃあ夏休みでどう?」
「分かったオッケー。約束だからね」
サックが笑顔で机の下から左の小指を差し出す。その指に自分も小指を絡ませ、指切りする。
先輩の影で僕とディアボロの契約が交わされた。
「お待たせしました。先程の件ですが、柵平君の誤解だったようです。僕と彼には肉体関係も恋愛関係もございません」
「いやー、すみません先輩。こちらでいろいろ手違いがありまして」
僕らの釈明に節家先輩は缶コーヒーを一口飲んで答える。
「おお、そーか。まあそれならそれで俺は一向に構わんよ。どっちにしてもお前らの関係を言いふらすことは無いってことだ。
ところで何の話だったかな?」
あれ? なに話してたんだっけ。
「普人くんが森ノ本先輩と対戦するって話だよ」
サックが考え込む僕に指摘する。
「そうそう、僕が森ノ本先輩が苦手って話ですよ」
「ああ、あの人は俺も苦手だよ。得意な人のほうが少ないだろう」
どうやら節家先輩も僕や宮ノ本と同じ考えのようだ。
「そんなにパンチの効いた人なんですか、森ノ本先輩って?」
サックも彼女に会えば、僕らの意見に同意するはずだ。
「まあなんと言うか、自由とゆうか、わがままというか……こないだの模擬戦もすっぽかして帰っちまったって話だよ。
その理由が、つまんなそうな相手だったからって言ってたそうだ」
なるほど、模擬戦の順位が下がったのはそのためか。
「だが、あの人の実力は本物だ。伊達に森ノ本家の令嬢じゃあない」
途端に節家先輩の表情が引き締まる。
模擬戦3位だったってことは順位的には節家先輩より上ってことだ。模擬戦をすっぽかすようなことがなければ1位になる実力も有るかもしれない。
「森ノ本家って確か、宮ノ本家、月ノ本家と並ぶ有名な異能者の3大本家の1つですよね」
へー、サックも3大本家を知ってるとはね。父親が発現者人材派遣の大手の社長だから、その辺から情報を得ても不思議じゃないか。
「ああ。森ノ本さんも子供のころから発現者としての訓練を積んでるらしい。あの人も、相手が普人なら対戦をすっぽかすことはないだろう。
むしろ楽しみにしてるはずだ」
うわー、やなこと聞いたわー。鬱だわー。夜中エロ同人誌読むしかないわー。
僕の思考がどうやらラブリー日ノ芽ちゃん化してしまったようだ。いかんいかん。
「ところで今日ありったけの勇気を振り絞って、恥を忍んで、断られたらどうしようと震え声でお前らを誘ったのは他でもない。その模擬戦のことで話したいことがあったからだ」
模擬戦のことってなんだろう。先輩からのアドバイス的な何かか? それともなにか問題でもあったのだろうか。
それはともかく節家先輩の消極的アッピルがすげーな。このひとあんなTUEEEのに、意外とメンタル弱いんじゃないですかね?
缶コーヒーを一口飲んで、先輩が口をひらく。
「お前ら今、俺のことメンタル弱ぇーなと思ったろ?」
「……い、いいえ。そんなことは……」
「……お、思ってないですよ……」
うわー、すげぇ気にしてるわ、この人。
僕とサックは愛想笑いするしかなかった。




