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欲望=魔物  作者: クニクニ
4章
85/172

お宅訪問

7/1 (土) 午後  普人宅


 ピンポーン


 来訪者を知らせる呼び鈴(りん)の音が鳴る。

 まずいな。思ったより早い。

 まだ掃除の途中だが、お客を待たせるわけにもいかない。慌てて掃除機を片づけようとしたとき、


 ピンポピンポピンポピンポピンポピンポーン


 と、呼び鈴を立て続けに押す音が鳴り響く。


「きゅきゅうっ、きゅきゅきゅっ!」 (来たよ、普人(しんと)っ!)


 テーブルを拭(ふ)いていたリキッドが僕を急(せ)かす。 


「ああ、わかってるって」


 しかし案外せっかちなのかな? あんなに呼び鈴連打するなんて。

 慌てて玄関へと突っ走る。ドアを開けると、


「ようっ、普人。来てやったぞ」


 万屋(よろずや)さんに抱えられたチビ握徒(あくと)が右手を挙げて挨拶する。


「おまえか、連打したのは」


「ごめんね普人君。こら、握徒。お行儀よくしなきゃダメでしょ」


「いいっていいって。いらっしゃい万屋さんに握徒」


 玄関口で話していると、僕の後を追ってリビングからリキッドが走ってくる。


「きゅきゅうぅ!」 (アクト!)


「おー、リキッド! ねーねーリキ。リキッドと遊んでいい?」


「いいけど、あんまり暴れちゃだめよ」


「うんっ! リキッド、いこー」


「きゅきゅー!」 (いこー!)


 握徒は万屋さんの腕から飛び出し、リキッドと一緒にリビングに走って行く。

 握徒は小さくなると、まんま子供だな。まあデカいときも性格は子供みたいなところはあるが。


「さあ、万屋さんも上がって」


「うん、じゃあお邪魔します。あ、あとこれ快気(かいき)祝いじゃないけど、よかったら食べてね」


 万屋さんが手にしていたビニール袋を差し出す。中にはコンビニのチーズケーキが2箱入っていた。


「わざわざありがとう。じゃあコーヒー入れるね」




 アイスコーヒーとチーズケーキを2人分出し、握徒とリキッドにはコーラのミニ缶を出した。

 握徒はリキッドと違って食べることもできるそうなのでチーズケーキを出そうとしたが、いらないと言い出した。どうやら気を使ってリキッドに合わせたようだ。

 なかなかイイとこあるじゃないの。

 この前万屋さんちにお邪魔した時もそうだったが、リキッドと握徒は仲がいいらしい。リキッドも万屋さんが来るのを楽しみにしていた。もちろん僕もだ。


 ”プシュッ”とプルタブを引いて握徒が缶のなかを覗き込む。


「おー、これがコーラか」


「なんだ、握徒はコーラ飲んだことないのか?」


「きゅきゅう?」 (ないの?)


「うん、私炭酸はあんまり飲まないから。ジュースは好きなんだけど、どうかな? 握徒」


 万屋さんが心配そうに握徒を見つめる。

 握徒が缶に口をつけ、ぐびっと一口流し込む。


「うわっ! なにこれ、ビリビリするよリキ!」


「炭酸はみんなシュワシュワってするんだよ、握徒。どう? 飲めるかな」 


 こうみると、万屋さんと握徒はまるで本物の親子だな。


 リキッドはいつものように体のなかに空洞を作ってそこに流し込むように飲み、中に入ったコーラはシュワシュワと泡を立ててはじけ、やがて透明な体に吸収されてゆく。

 握徒もそれをまね、ぐびぐびっと喉に流し込む。


「ぷはー。うん、オレこれ好き」


「そう? じゃあこんどおうちでも買っておくね」


 なんとも微笑(ほほえ)ましい光景だ。なにより万屋さんと握徒の仲がよさそうで安心した。

 コーラを飲む2匹を眺める僕に、万屋さんが話しかける。


「ところで普人君、昨日の傷は大丈夫だった?」


「ああ、おかげさまでね。左目の視力が戻るか心配だったけど、箱入(はこいり)先生のおかげでもうしっかり見えてるよ」


 今朝起きて左目を開いてみると以前と変わりなくモノが見え、箱入先生の検査でも正常と判断された。

 先生にお礼を言い、約束通り呼刀(ことう)にメールし、ついでに万屋さんたちにもメールを送った。

 呼刀(ことう)、サック、万屋さんはすぐに電話をしてきたので、詳しい経過を説明した。宮ノ本(みやのもと)は『よかった』とだけ書かれた返信メールを送ってきた。なんともアイツらしい。


「よかったよー。私心配しちゃった。普人君が死んじゃうんじゃないかって」


「ははっ、大袈裟だなー……ん、でも確かに1歩間違えば死んでたかもしれないな」


 ダガーフィッシュが心臓に突き刺さっていれば、僕は今こうして生きていない。よくよく考えると恐ろしいことだ。


「そうだよ。普通のナイフでも当たりどころが悪ければ命にかかわるんだから。しかも呼刀君の魔物は高速で空中を泳げるし、結構小回りも利くんだし……って両子(りょうこ)ちゃんが言ってたよ」


 そう、油断したら簡単に命を落とす。そして呼刀の魔物は強い。


「万屋さんから見て、呼刀ってどんなヤツかな?」


 昨日の呼刀の様子が気になった僕は、万屋さんにも一応聞いてみることにした。


「え、呼刀君? うーん、人気者だよね。男子の友達も多いし、女子の間でもモテモテだし」


 まあそーだよね。見た目も性格もいいし、モテるのも納得だ。


「でも最近は落ち込んでる姿をよく見るかな。このあいだの柵平(さくだいら)君との試合でも、今回の普人君との試合でも相当ショックを受けてたみたいだったし。

 普人君は呼刀君と仲いいんでしょ?」


 俺と呼刀の仲かー。まあ大親友とは言い難いし、仲が悪いってわけでもない。類は友を呼ぶじゃないが、呼刀の友達ってのはみんな社交的で賑(にぎ)やかなのが好きな人種が多い。そういう集団は僕のような根暗や、八田(はった)さんのような空気を読めない人間を嫌う。

 こちらもその空気が重苦しいと感じるから、そういった集団には近づかないようにしている。ストレス溜めてまで友達作ることに意味があるとは思えないし。

 だが呼刀は例外と言える。それは、誰とでも平等に接するといった正義感や博愛(はくあい)精神を彼が持っているからではない。ただ単純に、俺と呼刀は気が合うのだろう。


 友達ってのは、ただ気が合うだけの繋がりだと僕は考えている。どんな性格か、どんなグループに属しているか、どんな趣味趣向かは全く影響ないとは言わないが、互いに通ずるものがあると他はそれほど気にならない。


「確かに、呼刀がはじめ話しかけてきたときは驚いたよ。なんでこんな人気者が僕なんかにってね。でも一緒に話すうちに自然に仲良くなった感じかな。

 あいつと話すのは嫌じゃなかったし、あいつもなにかと気を使ってくれたりでね。だから呼刀が落ち込んでるなら何か力になれないかと思ったんだけどね」


「呼刀君に何かあったの?」


 心配する万屋さんに、僕は昨晩の呼刀との会話をかいつまんで話した。

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