フィーリングカップル2対2
「あ、なんかお邪魔だったかな?」
席に近づこうとする途中で、すぐに僕の反応に気付いた養ちゃんが歩みを止める。
「いやいや、大丈夫だよ。な、なあ、宮ノ本」
務めて平静を装い、宮ノ本に同意を求めるが、うわずった声で動揺しているのがバレバレだ。
「えっ……え、ええ。もちろん大丈夫よ」
宮ノ本の方もなんとか返事をするが、突然の来訪者に顔を赤くする。
「あら? 宮ノ本ってもしかしてー」
養ちゃんの腕に抱きついていたモデルのようなスラリとした体形のおかっぱロングの美女がこちらに駆け寄って来て、僕の向かいに座る相手を覗き込む。
「あ、やっぱり両子ちゃんじゃないの。こんなところで会うなんて奇遇ねー」
「ゆ、ゆ、結姉……ど、どうしここに……」
宮ノ本の顔色が、今度は青ざめる。どうやらこの女性は宮ノ本の知り合いらしい。
「ちょうどよかったわ。両子ちゃんにも話しときたいことがあったのよ。合席いいかしら?」
制服を着ていることから、この人も3年生とわかる。3年生のカップルにいいかと言われたらイヤとは言えない。それに養ちゃんとかなり親密な関係の様だし。
「あ、じゃあ僕が宮ノ本の隣りに移りますんで、こっちに火田先輩とどうぞ」
「あらー、気が利く1年生ねー。両子ちゃんもこれくらい気の使える子ならいいのにねー」
何気に宮ノ本に嫌味を言いながら、僕の立った席に座り、窓側に移動する。
少し不機嫌そうにする宮ノ本をよそに、モデル美女は養ちゃんを隣の席に呼ぶ。
「養助くーん、早くこっち―」
「邪魔してごめんね、普ちゃん」
養ちゃんは僕に謝りながら席に着く。座った途端に美女は養ちゃんの左腕に絡み付き、艶っぽい笑顔でしなだれかかる。
「宮ノ本、隣り悪いね」
宮ノ本に謝りながら隣りの座席に座ると、彼女は無言で窓際に移動する。コーヒーとパフェを養ちゃんが僕の方に移動してくれていると、おばちゃんが3年生2人に注文を聞きに来た。
「じゃあ僕はコーヒーとホットサンドとプリンアラモードください。結は何にする?」
「わたしは、コーヒーとフルーツパフェくださーい」
注文を受けたおばちゃんは、笑顔でカウンター奥のキッチンへと消えて行った。
「ねーねー養助くん。こっちのイケメンの1年生はお知り合い?」
生まれてこの方イケメンなどと言われたのはこれがはじめてだ。お世辞とは分かっていても、なんだか恥ずかしくてドキドキする。だが、同時にこの女性になんとなく油断ならない雰囲気を感じる。
「ああ、こちらは1年の小林 晋人君。僕の幼馴染みでね。いつも話してるだろ?」
「あ、どうもはじめまして。小林 晋人です」
養ちゃんに寄りかかったままのおかっぱ女性に会釈する。
「へー、この子がウワサの普ちゃん? はじめましてー、3年の森ノ本 結でーす。養助くんのカノジョでーす」
でしょうね。これで只の友達とかいったらとんでもねー尻軽女ですから。ま、まあ、僕と宮ノ本はただの友達だけど……
しかし養ちゃんに彼女がいたとはねー。まあ、顔も頭も性格もいい養ちゃんに彼女がいるのは当然だろうけど、こう言っちゃなんだがけっこう軽そうな女性だったので正直意外だ。
確かに森ノ本さんはパッと見、すらっと痩せ型で背が高く、艶のあるおかっぱロングの黒髪とかなり清楚系なのだが、仕草や言動がどうにもチャラい印象を受ける。
はっきり言って僕が苦手とするタイプの人間な気がする。それに宮ノ本に棘のある態度もイラつく原因の1つだ。
「それで結、こちらの女性とは知り合いなんだろ?」
「ええ、こちらは宮ノ本家のお嬢様の宮ノ本 両子ちゃんよ。両子ちゃん、こちら私の彼氏の|火田 養助くん。『わたしの』彼氏だから、よろしくね。『わたしの』だからね」
しつこいくらい自分の彼氏であることを強調しながら、森ノ本先輩は宮ノ本に養ちゃんを紹介する。
「1年の宮ノ本 両子です。火田先輩よろしくおねがいします」
少し緊張した面持ちで宮ノ本が挨拶をする。
「これはご丁寧にどうも。3年の火田です。よろしくね、宮ノ本さん」
養ちゃんは対照的に、笑顔で右手を軽く挙げる。
「ああ、2人ともパフェ溶けないうちに食べてね。僕らに遠慮しなくていいから」
細かい気使いをする養ちゃんのとなりで、森ノ本先輩は容赦ない質問を僕らに、とゆーか宮ノ本に浴びせてくる。
「ところで2人は恋人なのかな? さっきすっごいイチャイチャしてたけど、まさかただの友達なんて言わないわよねー。両子ちゃんはそんなに節操のない子じゃないでしょ?」
養ちゃんとのアツアツぶりを見せつけるようなべったりの状態のまま、不敵な笑みを浮かべる。
森ノ本先輩はさっきから宮ノ本にやけに挑発的な態度をとっているが、この2人はどんな関係なんだろう。
宮ノ本はさっき『結姉』って呼んでたし、宮ノ本と森ノ本はかなり似た苗字だ。何か関係あるんだろうか。
「結、やめなさい。2人とも困ってるだろ? それになんでそんなに宮ノ本さんに突っかかるんだい」
「えーそんなことないよぉ、養助くん。ただ私は両子ちゃんが心配なだけだよ」
いつもの宮ノ本なら嫌味の1つでも言い返すところだが、なぜか今日は俯いたまま黙り込んでいる。彼女も森ノ本先輩は苦手なようだ。
「ところで森ノ本先輩と宮ノ本とはどういったご関係なんでしょうか? 差支えなければお聞かせ願えないでしょうか」
あまりに宮ノ本が不憫なので、ここは話題を逸らそうと森ノ本先輩にはなしを振る。
「あら、両子ちゃんてば、彼氏に私のこと何も話してないのかしら。私、両子ちゃんとは仲良しだと思ってたのにぃ」
うわー、これはもう手がつけられませんわ。この悪女っぷりは霧真者先生と通ずるものがあるな。
「結、いい加減にしとけよ」
養ちゃんが見かねて、語気を強める。
「ごめんごめんー。養助くんそんなに怒んないでよー。
私と両子ちゃんの家は古くから異能の能力を継ぐ家系として関係が深くてね。幼いころからお互いの家を家族でよく行き来してるのよ。プライベートでも、仕事でもね。
まあ私がこの学園に入ってからはほとんど会えなくなっちゃったけど。
両子ちゃんがやっと折谷学園に入ってくると思って、私楽しみにしてたのに。両子ちゃんったら、全然私に会いに来てくれないし。
昔は一緒にお風呂入ったり、おっぱい揉んであげたりしたんだけどねー。普ちゃんは両子ちゃんのおっぱい毎日揉んであげてる?」
「ゆ、結姉っ! そんなことまで……ここで言わなくてもいいじゃない……」
なるほど、森ノ本先輩にとってはまじめな宮ノ本は格好のおもちゃってことか。たしかに宮ノ本にとっては天敵だな。
「私は養助くんに毎日揉んでもらってるわよー。ねー養助くーん」
なるほどー。スタイルの割にやけに大きな胸してるなーと思ったけど、毎日養ちゃんが揉んでるからかー。なんつーうらやましい日々を送ってるんだ、養ちゃん!
「おいおい、人前で品がないだろう? それに毎日じゃないだろうに」
つまり揉んでるのは事実なんですね、リア充の自慢乙ですね、わかります。
「あ、じゃあ森ノ本先輩は万屋さんともお知り合いなんですか?」
万屋さんが宮ノ本家に預けられたのは小5のときって聞いたから、先輩が会っていても不思議じゃない。
「ええ、知ってるけど、宮ノ本家の監視が厳しくてねー。あんまり話はできなかったのよ、魔物の件もあったし。
けど、普ちゃんが倒しちゃったんだって、あの魔物? 3年生で誰が初めに倒すか楽しみにしてたんだけどねー。まあ今度は誰が普ちゃんを倒すかに変わったけど」
こわいんですけど……3年ちょーこわいんですけど……
「普ちゃん冗談だよ。結はこういうたちの悪い冗談が多いから気を付けてね。まあ、普ちゃんも宮ノ本さんも期待されてることは確かだけど」
「僕が期待されてるのは養ちゃんが周りに話してるせいもあるよ。このあいだも堀田さんがそう言ってたし」
巨漢の堀田先輩との昼食での会話を思い出す。
「いやー、ごめんごめん。堀田君とは仲良しだからね。つい普ちゃんのこと話したくなっちゃって。でも隠すことでもないだろう?」
それにしても、言い方とゆーものがあるのでは? 僕は養ちゃんほど強くないでしょうに。
「なーに、皐月ちゃんともう仲良くなったの? 皐月ちゃん、私と全然話してくれないのにぃ」
森ノ本さんが僕の話に喰いつくが、堀田さんのことを名前でよんでるのかな?
確かに模擬戦順位の札に『堀田 皐月』と書かれていたのを覚えている。女の子っぽい名前で疑っていたが、どうやら堀田さんの名前は『皐月』であっているようだ。
思案顔の僕に養ちゃんが解説する。
「ああ、堀田君の下の名前は『サツキ』っていうんだ。旧暦の5月の漢字の『皐月』。確かにあの外見で女子みたいな名前だから、本人も多少気にしてるみたいでね。まああんまり名前のことは本人の前では話題にしないほうがいいよ。
結もだぞ。堀田君は結構繊細なんだからな」
「えー、でも名前のほうが親近感が湧くじゃない。養助君のことも『ヨウスケくん』って呼んでるんだしー」
たしかにこの名前で呼ぶのは悪意を感じる。親近感というより悪ふざけという言葉がピッタリの言動だ。
堀田先輩はおとなしそうだったから、森ノ本先輩が苦手なのだろう。僕も苦手だが。
「ねーねー、ところで普ちゃんと両子ちゃんはどこまで行ってるの? もうチューした? エッロいことは? ねーねー、どうなの?」
森ノ本先輩が机に身を乗り出して僕と宮ノ本にグイグイ来る。これにはちょっと引く。どうあっても僕らのことを突き止めたいらしい。
「結姉! 私と小林君は恋人じゃないの! ただの友達よ!」
堪りかねた宮ノ本が大声で僕らの関係を説明する。
「……え?」
「……え?」
3年生のカップルは驚きの声でハモった。




