友達は作るモノ?
6/21 (水) 放課後 喫茶店
商店区の外れにある『珈琲館』は、その立地条件の悪さと店の小ささからか、お世辞にも人気があるとは言い難い。
だが、そういう静かな店を好む人間も少なからずいる。
斯くいう私も、この店を訪れるのはまだ2度目ながら、落ち着いた雰囲気とスイーツの味に好感を持っている。
ぱらぱらと小雨の降るなか、傘を差しながら店に辿り着いた私は入り口でそれをたたみ、ドアを開けたところのすぐ横にある傘立てに刺してから一番奥のテーブルへ向かう。
「やあ、宮ノ本。今回も時間ぴったりのご登場だね」
お冷を飲みながら待っていた小林君が砕けた口調で言う。
「あなたは今回も早いわね」
「いやいや、今来たところさ」
この前とほとんど変わらないやり取りに、自然と笑みが浮かぶ。
向かいの席に座ると店のおばちゃんが注文を取りに来た。
「じゃあ僕はコーヒーとチョコレートパフェください。宮ノ本は何にする?」
テーブルの脇に置いてあるメニューを手に取り、スイーツの欄を一通り眺める。
「私はコーヒーとイチゴパフェをおねがいします」
この前はチョコだったので、他の味も試してみたかった。
今日は店内には私たちの他にお客は誰もいない。貸し切り状態だ。
おばちゃんが出してくれたお冷を口にしながら、小林君に尋ねる。
「それで、今日は何か話があったのかしら?」
「いや、特には無いんだけどね。あれからそっちの調子はどうかなーと思って」
なるほど、理紀の様子が気になったから私から探ろうって魂胆で呼び出したみたいね。
まあ彼のお陰で理紀も握徒も周りと打ち解けられるようになったんだから、知る権利は十分あるだろう。
「おかげさまで理紀も握徒も何事もなく順調よ。平和そのものって感じかしら。
……小林君、ありがとう。理紀に代わってお礼を言うわ」
本当に彼には感謝しきれない。4年間私以外とまともに触れ合えなかった理紀と握徒を命懸けで救ってくれたのだ。
私は小林君に、自然と深く頭を下げていた。
「おいおい、らしくないな宮ノ本。そんな頭さげることはないよ。俺がやりたくてやったんだから。
それにお前も手伝ってくれたじゃないか」
私は何もできなかった。ただ見ていただけだ。
小林君の戦いは見事だった。自分の魔物の特徴を生かした戦法はとても2か月前に発現したばかりの人間とは思えないもので、素直に尊敬できる。
私には真似のできない戦い方だ。
「私もお礼を言いたくて言ってるのよ。気にしないで」
今日は自分の気持ちをそのまま伝えようと心に決めて来た。余計なプライドや虚勢は一切抜きだ。
「それで、宮ノ本のほうはどうだ? こういう言い方はあれかもしれないんだが……その……寂しくないか?」
ははーん、私がボッチになったから気が引けるってことね。
「あら、私が理紀をみんなに取られて寂しがってると思ったの?」
確かに、元から明るく社交的な性格の理紀はあれ以来多くの友人ができ、以前は私とベッタリだった関係も希薄になったと見えるだろう。
もちろん仲が悪くなったなんてことは無い。理紀は今でも私と仲良く接してくれるし、自宅を行き来することも多い。
ただ、私は理紀のように誰とでも仲良くできる性格じゃないし、みんなで騒ぐのも苦手なほうだ。
「私にも、もっと友達作れってお説教するために呼んだのかしら?」
冗談っぽく言ったつもりだったが、小林君は慌てて私のことばを否定する。
「い、いやいや、べつにそんなつもりはないよ。俺も友達作るのは苦手だし、みんなで騒ぐのもなんだか性に合わないし……
だいいち、友達は人に言われて無理やり作るもんじゃないしな」
こんなに慌てた様子の小林君ははじめてみた。なんだか可愛げがあって見ていて楽しい。
「私は別に落ち込んでないし、寂しくもないわよ。前は四六時中理紀といっしょだったけど、やっぱりあの時は自分でも異常だったと思うわ。
それに私、1人でいるの嫌いじゃないわよ。小林君は1人でいると寂しくなるのかしら?」
理紀が家に来るまでは小学校でもあまり友達がいなかったし、それで別段寂しさを感じはしなかった。
1人のときに、ふと孤独を感じることはたまにあるが、それは誰しもが持つ感覚だろう。
「まあ、たまに1人でいるのが不安になるときはあるね。なんとゆうか、ヒトの本能とでもいうのかな。
でもそこで『ヤバいっ、友達作らなきゃ!』とはならないんだよね。それは一概に、1人でいることの恐怖よりも友達をつくることの恐怖が上回っているからだと思うんだ。
気の合わないヤツとこの先ずっと付き合うことになったらどうしようとか、たとえ嫌いじゃない友達でも、気まずい関係ににならないようにしなきゃとか、相手に嫌われないように毎日気を使う生活なんて耐えられないと考えちまうんだよ」
たしかにその気持ちは私にも分かる。でもそうなると、小林君は私たちと友達でいることにも少なからず恐怖やストレスを感じているのだろうか?
「ならあなたは私たちとの関係も面倒に感じているのかしら? いや、別にそれを非難するつもりはないし、理紀や柵平君に言いつけるつもりもないわ。
ただ……ちょっと興味があるだけ」
本当はちょっとどころではない。大いに興味がある。
理紀のことをあれだけ助けてくれた小林君が、どんな気持ちで私たちと接しているのか。
それに、彼の今までの話は個人的に共感できる。たぶん小林君と私は似ているのだろう。そんな彼の気持ちを知ることで、私自身が理紀や彼らをどう思っているのかがわかるのではと期待している。
「いいや。まあ確かに嫌われたくないとは思うし、多少は気もつかうよ。でもみんなとの関係が面倒だとは思わない。
これはまあ、俺みたいなボッチの言うことだから真偽は定かじゃないけど、友達ってのは作るもんじゃない、自然となるもんなんじゃないかと思うんだ。
今も宮ノ本とこの店に約束して、一緒にこうやって話をしてるだろ? これが大して興味のない相手や反りの合わない人間なら、俺は恐ろしいほどのストレスを感じているはずさ。
それが嫌とは思わず、むしろ楽しいと感じるのは宮ノ本のことが好きだからに他ならない。好きだから、嫌われるかもしれないと思っても本心を言いたくなるんじゃないかな。
……ああ、ごめん。宮ノ本はこういうの嫌いだったな」
「嫌いじゃないっ!……わよ……」
とっさに叫んで否定したものの恥ずかしくなり、最後のほうは消え入りそうな声でつぶやく。
彼の『好き』という言葉に、急に私の心臓が別の生き物のようにドクドクいいだし、なんだか落ち着かない気分になる。
ダメダメ、今日は自分の思ったことをそのまま話すって決めたんだ。恥ずかしがるな!
「私も……小林君のこと……す、す……」
「ホットコーヒーお待たせしましたー」
謀ったような最悪のタイミングでおばちゃんがコーヒーを2つテーブルに出す。
「ああ、ありがとーございます。いやー、ここのコーヒー美味しいですねー。僕好きですよ、ここの味」
「あら、ありがとーお兄ちゃん。2人は恋人かしらね?」
「あ、いいえ。ちが……」
「ちがいますっ!」
ああ、また大声出してしまった……
「すみません……ただの友達です……」
驚いたおばちゃんに謝り、2人の関係を訂正する。
「あら、ごめんなさいねお嬢ちゃん。おばさんお節介だったわね」
人の好さそうなおばちゃんを困らせてしまい、なんだかばつの悪い思いだ。
「いえいえ、彼女極度の照れ屋なんで。お気になさらないでください」
小林君がすかさずフォローを入れる。この前もそうだったが、2人になるとなんだか彼のペースに乗せられてる感じがする。
「パフェもすぐ持ってきますから、2人とも待っててね」
「おねがいしますー」
おばちゃんと小林君の会話に、1人蚊帳の外の私は顔を赤くしたまま俯くしかない。
「どーした、宮ノ本? いつも沈着冷静で、嫌味なほどお高くとまってるお前が。らしくないぞ」
「あんたのせーでしょ、ばかっ!」
結局いつもの私に戻ってしまった。




