試合前
6/16 (金) 午後 第2室内模擬戦場
2階の観覧席に登ると、既にクラスのほとんどが席に付き、模擬戦がはじまるのを待っていた。
といっても、わずか18人のクラスで第1、第2試合に出る4人の生徒は控室にいるのだから、全員集まっても席はけっこうまばらな状態だ。
まわりを見渡すと、最前列右寄りにお目当ての焦げ茶のポニーテールと黒髪ショートの2人を見つけ、彼女らの元へと近づく。
2人もこちらに気付き、声を掛けてくれる。
「あ、普人君。こっちこっち。もうすぐはじまるよー」
明るい万屋さんに呼ばれ、彼女の右隣の席に着く。
「やー、お待たせ2人とも。間に合ったみたいだね」
サックが第1試合に出るというので3人で観ようという話になり、昨日から集まる約束をしていた。
「ねーねー、普人君は柵平君と呼刀君、どっちが勝つと思う?」
万屋さんの言う通り、サックの対戦相手というのは呼刀だった。正直どちらにも負けて欲しくはないが、引き分けだと両者負け扱いになってしまうので、そうも言ってられない。
大怪我さえしなければどちらが勝ってもいいとは思っているが、仲のいいサックの方に若干期待している。
「まあサックには勝ってほしいって気持ちがあるけど、相手が呼刀だとやっぱり気が引けるよ。
宮ノ本はどっちが勝つと思う?」
万屋さんの左隣に座るメガネに話を振る。
「有利なのは呼刀君じゃないかしら。ピースのバリアは魔物には弱いし、呼刀君のダガーフィッシュは4匹まで呼べるからステルス効果も比較的見つかりやすいわ。
お互い攻め手に欠ける点はあるけど、防御一辺倒の柵平君と比べたら攻撃型の呼刀君のほうが有利ね。まあ、柵平君が無策だったらの話だけど」
非の打ちどころのない解説。さすがに発現者一族の名門で育っただけあって、魔物の分析が的確だ。加えて、たぶん宮ノ本はこういう理論的なものが好きに違いない。
呼刀の魔物は『ダガーフィッシュ』という名前通りの小刀のような魚で、空中を高速で泳ぎ回ることができる。先端はカジキマグロのように尖っていて突き刺すことが可能、背びれと腹びれはブレード状で切れ味鋭い。
しかし、ダガーのようにサイズが小さめなので一撃で致命傷にはなりにくい。
4匹まで同時に呼べるという節家先輩の不死ガラスと同じ、複数個体タイプの魔物だ。
憑依能力は検知・探索能力と本人は言っていたが、詳しいことまでは聞いていない。
確かに、見た感じだと防御能力しかないサックのほうが不利に見えるだろう。だが、僕との特訓で体当たりと上空落下を会得したことを周りは知らない。もちろん呼刀も含めて。
僕から見ればサックの方が有利だ。ペースにはまれば呼刀はなにもできずに終わる可能性もある。呼刀には悪いが、僕はサックの勝利を確信していた。
「いやーサックの試合に間に合ってよかったです。普人はなぜ私を呼んでくれないのですか? 浮気はよくないですぞ」
僕の右隣にはいつのまにか八田さんが座り、僕の右腕にしがみついてくる。
「えっ、八田さん? 普人君、浮気ってなに? もしかして2人は付き合ってるの?」
「あら、知らなかったわ。小林君に彼女がいるなんて」
驚く万屋さんと、蔑んだ目で見下す宮ノ本の誤解を解くため、八田さんの腕を振りほどいて説明する。
「いやいや、この子が勝手にサックと僕につきまとってるだけなんだよ。こないだちょこっと話しただけで、ほぼ初対面の赤の他人だから、2人とも気にしないでくれよ」
「うわー、引くわー。せっかくできた友達にハブられたわー。また今日から孤独な日々がはじまるわー。子供電話相談室に『どうしたらトモダチができますか?』って質問するしかなくなるわー。
これはもう鬱ですなー。鬱という病に蝕まれて、これから先ズタボロの人生が始まりますなー。もう泣くしかないですなー。毎晩枕を濡らしながらエロ同人誌を読む日々が続きますなー」
まーた大げさに騒いで強引に潜り込もうという作戦らしい。つーか、エロ同人誌読めるなら鬱でもなんでもないだろーに。
「あ、ごめんなさい八田さん、勘違いしちゃって。普人くんと柵平くんとお友達だったんだ。よかったら私たち2人ともお友達になってくれないかな?
私は万屋で、こっちは宮ノ本 両子ちゃん。よろしくね」
「いやーそこまで強引に押し切られたら友達にならざるを得ませんなー。私は八田 日ノ芽と申します。詳しい漢字は普人が知っていますので、あとでメールでやり取りしといてください。
では、万屋さんと両子ちゃんも、今日からわたしと友達以上恋人未満とゆーことで」
なぜお前の漢字を万屋さんとメールでやりとりしなきゃならんのだ。まあ、この2人と仲良くなるのは反対はしないが。
「うん。よろしくね、八田さん」
万屋さんは笑顔で挨拶する。
「八田さん、友達以上はダメだからな」
一応釘は刺しとかないとな。
「え、私は名前にちゃん付けでいくの?」
宮ノ本が不安そうに尋ねる。
「これは流れ上仕方ないですな、両子ちゃん。私のこともラブリー日ノ芽ちゃん3世もしくはラブリー日ノ芽ちゃんTheThirdと呼ぶことを許可しますぞ」
まだそのネタ引っ張ってたのか。
「結構よ、八田さん」
宮ノ本が冷たくあしらう。
「あ、じゃあ私がヒノメちゃんって呼ぼうかな」
万屋さんがボケは無視して、腐女子にフォローをいれる。
「普人、また私の渾身のボケがスルーされてしまったぞ」
「もうラブリー日ノ芽ちゃんの下りは諦めろ」
僕らと八田さんが親睦を深め合っていると、控室からサックが、続いて隣りの控室から呼刀が出てきた。
ここは、このあいだの借りを返さねばならない。
「サックー、呼刀ー、がんばーっ!」
クラスのみんなが大声を出した僕に注目する。この前もあの2人はこんな感じだったんだろう。それを思えばこの程度の人目は屁でもない。
「柵平くーん、呼刀くーん、がんばってー!」
万屋さんも僕に続いて応援する。物怖じせず、堂々と声援をおくる姿はさすがだな。
「サック―、普人は任せろー!」
八田さんが意味不明な声援を送る。これには周りが少々ざわつく。
「八田さん、ちょっと静かにしよっか」
僕と万屋さんが戦う2人に気合を入れるために叫んだのに、これでは逆効果だ。
幸い、すぐに静かになったので影響はないだろう。
「うー、良かれと思って言ったのですが。正直すまんかった」
腐女子が珍しく落ち込む。やれやれ。
僕の心配を余所に、サックは余裕の表情でこちらに手を振って見せる。だが、呼刀のほうは少し緊張気味だ。
「呼刀くんがんばってー!」
不意に後方から女子数人の黄色い声援が上がる。さすがに呼刀はモテるなー。
それでも、呼刀の硬い表情は緩まなかった。
「呼刀君は少しマズいかもしれないわね」
宮ノ本が誰にともなく呟く。
「ああ、確かに硬いな」
呼刀は普段は楽観主義者で、緊張とは無縁の性格だと思っていたんだが、意外とプレッシャーに弱いのだろうか?
「では、本日の第1試合をはじめまーす」
霧真者先生が館内マイクで宣言し、模擬戦場中央には富武先生と2人の生徒も集まって開始の準備を整える。
サックと呼刀が向き合い、2人の教師が持ち場に付く。
「本日の模擬戦第1試合、はじめっ!」
先生の合図で戦いがはじまった。




