ボッチの昼飯の喰い方教えます
6/16 (金) 正午 学生食堂
模擬戦のある金曜日は、学食はいつも独特の静けさがある。
もとから生徒数の割には広い食堂なので普段でもそれほど騒がしいことはないのだが、模擬戦の日は人の出入りがさらに少なくなるのでガランとした印象を受ける。
模擬戦を受ける者でガッツリ昼食を取る人間は多くはおらず、購買部のパンや菓子で済ませたり、飲み物だけという場合が多い。僕も自分が出た日は缶コーヒーだけで済ませた。
満腹だと動きが鈍るし、試合中に戻したりする生徒も少なくない。ゲロまみれで医務室行きなんて最悪だろう。
食事にくる生徒が少なくなるということは必然、1人で食事を取る人間が増えるということ。そうなると、お1人さま安息の地である食堂西側のカウンター席にはいつもより多くの紳士淑女が集まることとなる。
僕もサックと食べれない日はよくこのカウンター席を利用する。今日はサックが模擬戦に出場するため、ここで1人食事を取る予定だ。
まずは購買部に向かい、パンと飲み物を購入する。1人の食事はやはりパンやおにぎりといった持ち運びしやすく、手軽なものがいいだろう。
食堂でヘタに汁物やみそ汁のついた定食なんかを買って、カウンター席でこぼしたりしたら最悪だ。周りに『1人で汁をこぼしてあわてふためくぶざまなボッチ』と白い目で見られたりしたら、その日の午後は憂鬱な時間を過ごすことは間違いない。
できることなら紙コップの飲み物も避けた方がいい。汁物の二の舞だ。倒れてもこぼれにくい缶ジュースがベストだろう。紙パックのドリンクも悪くないが、最後の”ズゾゾー”という音が結構まわりに響くので気を付けたいところだ。
購買部のパンコーナーを訪れると、僕のお気に入りのホットドッグがまだ1つ残っていた。金曜日とはいえ、この時間にまだ残っているとはラッキーだ。
早速手を伸ばすと、反対側から別の手が同じパンを掴む。
あちゃー、ブッキングされてしまったか。
ご都合主義のマンガやアニメならこの相手が美少女で、ここから恋愛に発展する鉄板パターンだが、現実世界にそんな甘いものは存在しない。ここでボッチが採るべき最良の選択肢はすぐに手を引っ込めること。間違っても力ずくで奪い取ったり、相手の顔を確認したりしてはいけない。
たかが昼飯のパンくらいで面倒事に巻き込まれるような真似をするのは愚の骨頂。アフォウのすることだ。
相手の機嫌を損ねないようゆっくり手を引っ込める。
だがここでアクシデント発生。なんと相手もほぼ同時に手をゆっくりと引っ込めてきた。これは相当訓練を積んだボッチ紳士の動きだ。やるなー。
恐る恐るゆっくりと手を引っ込めた相手のほうに視線を移すと、そこには巨乳の清楚系美少女……ではなく2メートルをはるかに超える大男が立っていた。
制服を着ているが、こんなデカい男子生徒は見たことが無い。となると、必然この人は3年生ということになる。
「あ、すみません。どうぞ先輩」
先輩に譲るのが後輩の務めとゆーもんだ。
「あ、いやいや。君のほうが早かったようだ。取ってくれ、後輩」
体の割には愛らしい笑顔で僕にホットドッグを譲ろうとしてくれる。それに掴んだのはどちらかというと先輩のほうが早かったはずだ。これは本物の紳士だったようだ。
「いえいえ、ここは後輩が譲る場面です。どうぞ先輩」
「いやー、そうかい? すまないね」
そういうと、最後のホットドッグを巨漢の先輩が買い物かごに入れる。かごの中には惣菜パンが10個近く入っていた。
体が大きいだけあって食欲もすごいな。養ちゃんといい勝負だろう。見た感じだと大柄の養ちゃんよりもさらに一回りデカい。背も高いが、何よりそのはちきれんばかりのマッスルボディがプロレスラーのようだ。
養ちゃんもかなり筋肉質だが、この人と比べると細身に見えるだろう。
先輩はさらにもう1つパンをかごに入れると、
「いやー、邪魔したね。お先に失礼するよ」
と、笑顔でレジに向かった。
僕は軽く会釈して見送る。
まばらになったパンコーナーの商品棚から、コロッケバーガーとハムサラダサンドとゆー人気でも不人気でもない2品をチョイスし、巨漢の先輩のレジが終わるのを見計らってレジへと向かった。
さっき別れたばかりなのに、レジでまた鉢合わせするのはどう考えてもお互い気まずい。これもボッチの処世術とゆーヤツだ。
学生証を出してレジをすませ、自販機で缶コーヒーを買ってカウンター席へと向かうと、先ほどの巨漢先輩がパンの入ったレジ袋を手に突っ立ていた。
見ると、カウンター席は紳士淑女たちですでに埋め尽くされていた。いや、正確にはほぼ1座席おきに空席がある状態なのだが、これはボッチにとっては満席と同じ。
テーブル席がガラガラの状態なのに、わざわざカウンター席の見ず知らずの他人の間の席に座るアフォウなボッチはいない。ましてや身体の大きい紳士な先輩が、強引に空いている間の席に座るはずもない。
「はぁ〜」
とため息をついて、巨漢先輩はたくさん並んだ広いテーブル席の1つに座り、パンを食べ始めた。
ガランとした食堂内で、1人テーブル席の隅っこで小さく座り、パンを頬張る先輩に、なんだか哀愁を感じてしまう。
だが、ここはあえて見て見ぬふりをして、そっとしておいてあげるのが紳士のたしなみとゆーやつだ。現に周りの人々も、何事も無いように食事をしたり、友人と談笑したりしている。
「ここ、いいですか? 先輩」
巨漢先輩の向かいの席に座り、僕は缶コーヒーのプルタブを開けていた。




