成長
6/9 (金) 夜 霧真者宅
辛口のビーフカレーを頬張ったあと、普人君の注いでくれたビールを流し込む。
スパイスの辛さで熱くなった口の中を冷たいビールが冷やしてくれる。喉を貫く爽快感も心地いい。
「ぶはぁ〜。好きです、辛口ドライ!」
CMを意識した私の感想に、普人君は苦笑いを浮かべる。
「んもぉ〜、さーみーしーいー。普人君が構ってくれないと、先生さみしーなー」
ビールのコップを置き、彼の左腕に抱きつく。おっぱいをぷにぷにと押し付けると、顔を真っ赤にしながらも嬉しそうに普人君が口をひらく。
「い、いやー、なんとツッコんだらいいか。それより先生、先ほどの続きなんですが……」
「んっもう、分かってますって。武器型魔物の欠点でしょー。まあ欠点ってほどでもないけどねー。
……それは応用力の乏しさと伸び代の少なさよ。
武器タイプは戦闘に特化した分、戦う道具としての限定的な性能に限られる傾向がつよくなるわ。斬る、叩く、突き刺す、爆発する、発砲する、魔力を飛ばすといった限られた使い方だけしかできない。
つまり、実在する銃や剣に似た性質に偏りやすい……ってことは発現者である強みが薄れる。実在する武器ではできない特殊な性能がないと、攻撃が単調になって見切られやすくなるってこと。
加えて戦闘以外での使い道が極端に少ないってのもあるわね。確かに戦闘での強さは最重要ともいえるけど、偵察、移動、逃走、隠ぺいや、その他の能力も侮れないわ。
柵平君のバリアも防ぐだけならただの盾だけど、見えなくなる、宙に浮けるって能力が付けば、かなり使いどころや応用法が増えるじゃない?
それに比べて宮ノ本さんの能力は基本的に『斬る』っていう1つの選択肢しかない。魔力オーラを飛ばしたり、剣自体を空中移動させることができるのはかなり有用だけど、どれも最終的な攻撃方法は『斬る』ことよね。
1つの攻撃方法に特化している魔物ほど強力な攻撃力を有しているケースが多いけど、そういった発現者は対戦相手による相性の良し悪しが激しくなりやすい。
さらには元々高い攻撃力だから、そこからさらに威力を上げるのは難しい。得てして爆発的に強くなることは少ない」
「つまり、宮ノ本や八田さんはこれ以上強くなるのは難しいってことですか?」
小林君が少し怒ったような口ぶりで私に尋ねるが、すぐにそのことに気付いた様子で、しょんぼりする。
「す、すみません、大きい声出して」
やらないうちから可能性を否定されるのは、不適合者判定試験を受けた彼には他人事でも腹が立ったのだろう。
「あくまでそういう傾向があるって話よ。実際に成長できるかどうかは彼女たち次第。もちろん生物タイプの魔物を持つ生徒だって、強くなれるって保障はどこにもないわ。
要は発現者の努力と知恵次第ってこと。普人君もがんばってね。先生、普人君には超期待してるんだから」
残りのカレーを口に運びながら、隣りにいる生徒を励ます。
「先生……こんなこと聞くのは今更あれなんですが、先生はなんで僕にそんなに期待するんでしょうか? 僕の魔物ってそんなに強いんですかね?」
ほんとに今更な質問に、少しイラッとする。
スプーンを置き、普人君の両頬を指で掴んで引っ張りながらお説教をする。
「なーんでいまさらそんなこと聞くんでしょーねー、この口は。
いーい、普人君? 私が君に肩入れするのは強いからじゃなーいの。
『カッコイイ』からよ。
不適合者判定試験で絶望的な状況でも諦めずに努力したし、怖くても節家君に向かっていった。
友達の万屋さんを助けるために超強い握徒に勝負を挑んだし、その握徒でさえ助けた。
さっきも言ったでしょ? その人の持つ信念の問題よ。自分の可能性を諦めない、仲間を助ける、強い相手にも立ち向かう。だから君はカッコイイ。
ただ強いだけの人間なら、私が応援しなくても勝手に勝つわよ。そんなの応援してもクソつまんないじゃないの、そーでしょ?」
「ふぁいぃ。ひゅみまへんれひた」
力説したせいか、思わず頬を引っ張る指にも力が入ってしまった。両頬を伸ばされて涙目で謝る普人君から、あわてて手を離す。
「あっ、ごめんごめん。痛かった? つい引っ張り過ぎちゃった。ゆるして、普人く〜ん」
赤くなったほっぺを優しくムニムニする。
「いえ、だいじょぶですよ。僕の方こそ、つまんないこと聞いてすみませんでした」
こーゆう謙虚なところがまた応援したくなる理由でもある。
「普人君、私も折谷学園の教師になって5年経つけど、未だにどの生徒が強くなるかーなんてわかんないのよ。たぶんほかの先生たちもわからないと思う。
だからこの学園の偉い人たちは元から強い魔力をもつ生徒や、強力な能力を持つ魔物の生徒に注目し、大事にするの。
まあ発現者の社会は実力重視の世界だし、それが悪いことでもないしね。
でも私は素質や能力だけで判断するのは間違っているとも思うわ。もっとも重要なのはその人の性格や人間性、姿勢とかやる気といったメンタルな部分だと信じてる。
そういう生徒でトップクラスの実力者に成長するのはたしかに少ないけど、そういう子は見ていてすっごくワクワクするのよ。
それにいくら強くても、クズ野郎を社会に出したんじゃ発現者たちの未来はこの先暗いものになる一方でしょ?
普通の人間からすれば発現者は自分たちの法律では規制できない存在だから、恐れ、忌み嫌うのは当然。その感情が加速すれば、いずれは発現者を根絶やしにするってこともあり得ない話じゃないし、現にそういう思想の人たちも存在するわ。
この学園はそういった教育や、危険人物を選別をする機関でもあるんだけど、最近は利益性に重きを置く傾向にあるのが心配なのよね。
だから普人君には強くてカッコイイ発現者になって欲しいんだ。ただそれだけのことよ、私が君に肩入れする理由は」
柄にもなく堅苦しい演説をしてしまった。ちょっと飲み過ぎたかなー?
「僕がどこまでできるかわかんないですけど、がんぱってみますよ、霧真者先生。それに、強くてカッコイイおたくってのも悪くないですね」
少しはやる気になったみたいね。それでこそ私の普人君。
「う〜ん。カワイすぎるぞ普人君」
しっかり抱きついて、ほっぺにチューをしてあげる。
美味しいカレーも作ってくれたし、これくらいのご褒美はあげてもいいだろう。
続きはもっと活躍してからのお楽しみってことでね。




