気がかり
6/7 (水) 正午 学生食堂
食堂中央付近のテーブルには1年女子のグループが楽しそうに食事をしている姿が見える。
その中心は誰あろう万屋さんだ。
握徒の障害がなくなった今、元来の明るさと誰にでも分け隔てなく接する人の好さで、彼女は多くの友人に囲まれた学園生活を送っていた。
「いやー、万屋さんすっかりクラスの人気者だね。女子からも男子からも評判いいよ」
僕と向かい合った席でキツネうどんをすすりながら、サックが嬉しそうに話す。
「ああ、そだね」
僕もカレーのスプーンを口に運びながら返事をする。
「あれ? 普人くん元気ないね。あー、やっぱ万屋さんが遠くに行っちゃった感があるのかな?」
「んー、まあ確かにそれはあるけどね」
もともと性格のイイ万屋さんがこうなることは分かっていたが、実際話す機会が減るのはちょっと寂しい。
かといって、僕らだけといっつも一緒にいるのも良くないのは分かっている。だから今の状態になんら不満などない。
ただ、気にかかることが1つある。
万屋さんのとなりの席にいたメガネがなにやら話して、食べ終わったトレーをもって先に席を立つ。
万屋さんは少し複雑な表情で見送るが、周りの友人たちに促され、おしゃべりの輪にもどる。
宮ノ本には悪いことをしたかな……僕が気にかけているのはそれだ。
口下手でプライドが高いアイツのことだ、あーいうワイワイ大勢でいるのは苦手なのだろう。
自分も同じような性格なので、メガネのことはよくわかるつもりだ。
このままアイツがクラスで1人ぼっちになってしまうのではと心配になる。
かといって、男の僕が宮ノ本といつも一緒にいるってのもあまりよろしくない。
んー、こんなこと考えるのは余計なお世話かなーとも思えるし……
「普人くん、何か悩みごと?」
スプーンの手を止め、物思いにふける僕をサックが心配する。
「サック、君はなんで僕なんかと一緒にいるんだ? 他の明るい人間や面白い生徒となんで昼メシをともにしようと思わない? 君が誘えば楽勝だろ。もしかして僕に気を使ってるのかな?」
「ちょっとちょっと、なんだよ急に。ボクのこと嫌いになった?」
たちまち不機嫌になるサックに慌ててフォローする。
「いやいや、ただ純粋に気になっただけだよ。こんな根暗な僕に、クラスで1、2を争う人気者のポテンシャルを秘めたスーパースターサタデーナイトフォーエバーなサックがいつもいっしょにいてくれるなんて。
ハニートラップ的な何かを疑いたくもなるだろう?」
「今更な疑問だねー。そんなの普人くんが好きだからに決まってんじゃん。ほかのみんなが何人集まっても、普人くんの代わりにはなれないよ。あ、あとサタデーナイトフィーバーね」
ツッコミながらも恥ずかしくなるようなことを恥ずかしげもなく言ってのけるサックに、こちらが恥ずかしくなりつつも、うれしさ爆発でニヤニヤがとまらない。
「サック、俺は今モーレツに感動しているぞ。ここが公衆の面前でなかったら即押し倒して、頭ナデナデしながらムッツンゴロウ王国なみにヨシヨシペロペロしまくってるぞ」
僕の言葉に、今度はサックがニヤけ顔を炸裂させる。
「な、なんだよそれ。チョーうれしいじゃんか。今度2人っきりのとき実践してよね。ボク野生のライオン役やるから、普人くんは動物メッチャ好きなおじさんの役ね。そんで最終的にお互いが周り引くくらいペロペロし合う流れね」
ちょっとサックの目が怖い。完全にヤンデレ状態で、薄ら笑いを浮かべながら危ないくらいこちらを凝視してくる。
「サック、ちょっと落ち着いて。目がヤバイことになってるから。例えばの話だから、ね。ちょっとそのお揚げでも食べて落ち着こう。
ほーら、お出汁たっぷりのお揚げがおいしそうだ。ちょっとそれハムハムしてみようか、はむはむって、ね」
プリティボーイの皮を被った雌ライオンは、言われたとおりにうどんの上の油揚げをハシでつまみ、端っこをパクリとくわえる。
「あむっ、んっ、んぅうん……んちゅちゅうぅ……はむっ、はむうぅ」
ぐぉあぎゅううおぉーー! やりやがった、こいつやりやがったなっ!
こんな挑発的にエロい油揚げの喰い方するヤツを生まれてこの方見たことがない。
たっぷり含んだお揚げの出し汁を溢れるように甘噛みし、ぬらぬらに濡れた唇をこれ見よがしに見せつけながら、揚げにしゃぶりつくようにして上目使いでこちらを見つめてくる。
しかも最後、口ではっきり『はむはむ』って言いやがった。はじめのセクスィーで焦らすような食べ方から一転、こんどはキャワイさ全開でこびるような『はむはむ』を見せつけてきやがった!
いや、今考えると前半のエロ路線はすべて捨て駒。最後の最高にカワイイ『はむはむ』への布石に他ならない! 自分のキャラを把握し、はじめっからすべて計算しつくされていたのか!
こいつ、とんでもねーバケモンだっ!
カチャカチャ カチャカチャカチャカチャカチャ
と、カレーをすくうスプーンが震え、皿を叩く音が響く。
いかん、もちつけ! 相手のペースにのるんじゃない。ここは冷静に、目の前の生物が女であることを忘れろ。
サックは男だ。そうだ、漢なんだぞ! あくまで僕のトモダチだ。『すまんがBL以外は帰ってくれないか?』だぞ。あ、BLはボーイズラヴのことね。
「はむっ、はむうぅ……んちゅっ、ちゅちゅうぅ……はむぅ、はみゅうぅ」
ふっざけんなよコイツうぅうーーーっ! いま『はみゅう』って言った! どさくさに紛れて『はみゅう』っていいやがった!
こうなったらもうカンケーねえっ! 今すぐその出し汁まみれのアヒル口ちゅぱちゅぱ吸い上げて、クチビルはみゅはみゅいわせてやんのぜっ!
「どうもこんにちは。2人ともエロい顔して何してるんです?」
いつのまにか僕の隣りにはツインテールに赤いメガネの少女が、紙パックのイチゴオレを右手に座っていた。




