模擬戦終了
6/2 (金) 午後 第2室内模擬戦場
「霧真者先生、僕ギブアップします」
先生に負けを宣言する。一応握徒が戦闘不能とも見れるが、まだ強制帰還した訳ではない。霧真者先生の判断次第だが、万屋さんがギブアップしたのを僕が無理やり止めたのだからその責任を取るのは当然だろう。
「普人君ならそう言うと思ったわ。じゃあポチっとな」
ビーーーーッ
と、ブザーが鳴る。
「理紀っ!」
模擬戦終了の合図とともに、宮ノ本がうずくまって泣いている万屋さんに駆け寄る。アイツに任せておけば大丈夫だろう。
「しかしダミーの腕をリキッドで作れるなんてねー。いつから腕をリキッドにしてたの? もしかして最初から?」
「いえいえ。はじめは僕の生身の腕ですよ。ダミーを作ったのはゲボ吐いたあと、うずくまってた時です。
自分の腕をリキッドで包んで、形と色を記憶させなきゃならないんで少し時間が掛かるんですよ。ゲボ吐いたあとなら長時間しゃがみこんでも不自然じゃないですからね。
あとは透明なリキッドを握らせたダミーの手を見せれば強制帰還されてないことをアピールできるし、握徒の目を騙せるか確認もしておきたかったんで」
「なるほど。ポンチョ型のレインコートを着たのは、気付かれずにダミーの腕を作る為ね。リキッドの接着能力で肩にくっ付けた偽物の腕を握徒にわざと掴ませ、隙を見て本物の腕で捕まえてすぐに憑依して魔力を吸い上げたってわけか。
考えたわね」
「正直冷や冷やしましたよ。腕が偽物だとばれたら握徒は掴んでこないですし、本物の腕を折られたと先生が思ったらブザー鳴らされちゃいますしね。
僕を信じてくれてありがとうございました、先生」
あそこで先生が僕に任せてくれたから成功した。本当に握徒を倒せたのは先生のおかげだ。
「何言ってるの。君に頼ったのは私だからねー。最後まで責任もって頼んないとね。
あ、そうそう」
霧真者先生が僕の耳に手を当て、ナイショ話をする。
「ご褒美たのしみにしててね、普人クン」
うほほぉおおーーっ! すっかり忘れてた。遂にあのセクスィーバディの霧真者先生が俺にあんなことやこんなことを!
いいのか、本当に生徒と教師がそんなハレンティーなことをしてしまっても。
ん、ハレンティーとレモンティーって似てるな。
そんなことはともかく、どんなご褒美が待っているのか。いまからワクテカが止まらない!
おーし、ウチに帰ったらリキッド呼び出してゴムまり2つにして鷲掴みで揉む練習するっきゃないなっ! ないよなっ!
「では、今日の模擬戦はすべて終了でーす。みんな要領はだいたい分かったと思うので、来週対戦する人もしっかり準備しておいてくださいねー。それでは解散ー」
霧真者先生が館内用のマイクで終了を宣言すると、2階の観覧席からみんなが下に下りてくる。
「普人くーん」
「普人、大丈夫かー」
サックと呼刀が僕の方に駆け寄ってくる。
「2人とも、さっきは声援ありがとな。おかげでリラックスできたよ」
緊張でガチガチだった僕を応援してくれた友人に礼を言う。
特に周りの目を気にするサックが、まさかあんな大声で声援を送るとは意外だった。
「なにいってんの。あのくらいなんてことないよ。それより大丈夫? 普人くん」
「ああ、僕は大丈夫さ」
「しかし凄かったな、普人。お前すんげえ強いんだな、万屋さんの魔物倒しちまうとはねー」
呼刀は感心したように褒めてくる。
「いやいや、倒したとは言えないよ。それに一応俺が負けたんだしな」
「でも万屋さん、大丈夫かな?」
サックが宮ノ本に付き添われて控室に向かう万屋さんの後ろ姿を見送りながら言う。
「今はそっとしといた方がいいだろう。たぶんもう大丈夫さ」
両腕で握徒をしっかり抱えながら歩く彼女を、僕も眺める。
「あ、小林君は一応医務室に行って殴られたとこ診てもらいなさい。箱入先生には電話しとくから」
霧真者先生がそう言うと、
「先生、僕が付き添います」
サックが手を挙げる。
「俺も佐野君が心配だから一緒に行くよ」
そういえば呼刀と佐野君が2人で話してるのをよく見かけた覚えがある。
でも仲のいい佐野君には君付けで呼ぶのに、なぜに俺には呼び捨てなのだ、呼刀よ。
まあ今更お互いを呼刀くん、普人くんと呼ぶのは、それはそれで違和感があるが。
3人で医務室に向かう道すがら、僕は見れなかった第2試合の模様を2人に聞いた。
佐野君を倒したあの不思議ちゃんの八田さんが少し気になっていた。




