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欲望=魔物  作者: クニクニ
3章
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最低な発現者

6/2 (金) 午後  第2室内模擬戦場


「握徒(あくと)! 『助けてくれ』って言え! 万屋(よろずや)さんに言うんだっ!」


 小林君が握徒に馬乗りになったまま魔力を吸収してゆく。


「ぐくうぅ……」


 魔力が全身にみなぎる小林君とは対照的に、握徒は苦しそうに呻くだけだ。

 まさか本当に小林君は握徒を殺すつもりなのだろうか。


 私は……どうしたらいいか分からない。


 彼は今まで私の周りの人を傷つけて来た。

 私のお父さんを殺した。確かに頼んだのは私だったし、お父さんの暴力に耐えられなかったから仕方なかった。

 でも昔のやさしいおとうさんを思い出すと、殺した握徒が憎かった。


 それに怖かった。人間を簡単に殺せるバケモノがいつもそばにいると思うと……


「……理紀(りき)……助けてくれ……」


 声が聞こえる。

 握徒の声だ。


「……理紀、たすけてくれ……」


 擦れた声だが、確かに聞こえてくる。


 見ると小林君の下の魔物は、体からうっすらとしたオーラがかろうじて見えるほどまで魔力が弱まり、その巨体が徐々に小さくなってゆく。


「リキ……たすけて……」


 このままだとホントに握徒がいなくなる。


 握徒は私とおかあさんを助けてくれた。

 怖がってずっと避け続けてきた私を、間違ったやり方とはいえ、それでもずっと守ろうとしてくれた。

 握徒は言うことを聞かないことはあっても、決して私に怒ったことはないし、今のように助けを求めることもなかった。


 わたしはただ怖がって、避けて、嫌って……まともに話もしなかった……


 いままでは



 両手を固く握りしめ、まっすぐ2人の元へと歩いてゆく。

 涙が勝手に流れるが、そんなことはあとまわしだ。


 にじんだ視界で辿り着くと、1つ深呼吸する。


「小林君、握徒を放して」


 ぬいぐるみのように小さくなった握徒の胸に手を置いたまま、小林君は真剣な眼差しをこちらに向ける。


「嫌だと言ったら……」


 おもいっきり握り締めた右の拳を振りかぶり、しゃがんだ小林君の顔面へ打ち込む。

 生まれてはじめて人をなぐった。

 だが私の貧弱な拳では彼の頬が赤くなっただけで、真っ直ぐ見返す瞳がわたしの要望に応えないことを語っている。


 今度は左の拳で右頬をなぐる。

 もういちど右のこぶし。

 さらに左のこぶし。


 はあはあと乱れる息を深く吸い、おなかからありったけの大声を出す。



「わたしの握徒をかえしなさいっ!」



 小林君はぬいぐるみサイズになった握徒の両脇を抱え上げ、こちらに差し出す。


「さあ、きみの魔物だよ。万屋さん」


 微笑んだ小林君から握徒を受け取ると、ちいさな握徒が私に抱きつてくる。


「りきぃ……ありがと」


 お礼を言う自分の魔物をだきしめたまま、その場に泣き崩れた。


「……ごめん……ごめんね握徒……」


 謝っても謝りきれない。私はこの子をはじめっから見捨てていた。ただのバケモノだと決めつけていた。

 わたしは……最低な発現者だ。




『俺が助けるよ。きみと、握徒を』


 あのとき廊下で小林君が言ったことばの意味を、いま理解できた。

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