最低な発現者
6/2 (金) 午後 第2室内模擬戦場
「握徒! 『助けてくれ』って言え! 万屋さんに言うんだっ!」
小林君が握徒に馬乗りになったまま魔力を吸収してゆく。
「ぐくうぅ……」
魔力が全身にみなぎる小林君とは対照的に、握徒は苦しそうに呻くだけだ。
まさか本当に小林君は握徒を殺すつもりなのだろうか。
私は……どうしたらいいか分からない。
彼は今まで私の周りの人を傷つけて来た。
私のお父さんを殺した。確かに頼んだのは私だったし、お父さんの暴力に耐えられなかったから仕方なかった。
でも昔のやさしいおとうさんを思い出すと、殺した握徒が憎かった。
それに怖かった。人間を簡単に殺せるバケモノがいつもそばにいると思うと……
「……理紀……助けてくれ……」
声が聞こえる。
握徒の声だ。
「……理紀、たすけてくれ……」
擦れた声だが、確かに聞こえてくる。
見ると小林君の下の魔物は、体からうっすらとしたオーラがかろうじて見えるほどまで魔力が弱まり、その巨体が徐々に小さくなってゆく。
「リキ……たすけて……」
このままだとホントに握徒がいなくなる。
握徒は私とおかあさんを助けてくれた。
怖がってずっと避け続けてきた私を、間違ったやり方とはいえ、それでもずっと守ろうとしてくれた。
握徒は言うことを聞かないことはあっても、決して私に怒ったことはないし、今のように助けを求めることもなかった。
わたしはただ怖がって、避けて、嫌って……まともに話もしなかった……
いままでは
両手を固く握りしめ、まっすぐ2人の元へと歩いてゆく。
涙が勝手に流れるが、そんなことはあとまわしだ。
にじんだ視界で辿り着くと、1つ深呼吸する。
「小林君、握徒を放して」
ぬいぐるみのように小さくなった握徒の胸に手を置いたまま、小林君は真剣な眼差しをこちらに向ける。
「嫌だと言ったら……」
おもいっきり握り締めた右の拳を振りかぶり、しゃがんだ小林君の顔面へ打ち込む。
生まれてはじめて人をなぐった。
だが私の貧弱な拳では彼の頬が赤くなっただけで、真っ直ぐ見返す瞳がわたしの要望に応えないことを語っている。
今度は左の拳で右頬をなぐる。
もういちど右のこぶし。
さらに左のこぶし。
はあはあと乱れる息を深く吸い、おなかからありったけの大声を出す。
「わたしの握徒をかえしなさいっ!」
小林君はぬいぐるみサイズになった握徒の両脇を抱え上げ、こちらに差し出す。
「さあ、きみの魔物だよ。万屋さん」
微笑んだ小林君から握徒を受け取ると、ちいさな握徒が私に抱きつてくる。
「りきぃ……ありがと」
お礼を言う自分の魔物をだきしめたまま、その場に泣き崩れた。
「……ごめん……ごめんね握徒……」
謝っても謝りきれない。私はこの子をはじめっから見捨てていた。ただのバケモノだと決めつけていた。
わたしは……最低な発現者だ。
『俺が助けるよ。きみと、握徒を』
あのとき廊下で小林君が言ったことばの意味を、いま理解できた。




