不思議少女と声援
模擬戦場に出てみると、場内は騒然としていた。
見ると男子生徒が担架に乗せられ、模擬戦場から運ばれて行くところだった。
たしか2回戦は佐野君と八田さんだったはず。じゃああの運ばれていったのは佐野君で、勝ったのはメガネの八田さんってことか?
肩まである若干長めのツインテールの髪に赤いフレームのメガネ、縞ガラのサイハイソックスがトレードマークの少女が、なにやら霧真者、富武の両先生と相談している。
「はい、みんな佐野君は気絶しただけなので大丈夫でーす。2戦目は八田さんの勝ちになります。では続いて3回戦をやっていきまーす」
霧真者先生が場内のマイクを使って状況をみんなに知らせる。
どうやら魔物の攻撃で佐野君を気絶させたらしい。しかしどうやったのか気になる。彼女はサックほどではないが小柄な方で、見た目はちょっと暗い雰囲気で、あまりしゃべっているところを見たことが無い。
けっこう大柄な佐野君を気絶させたとなると、相当強力な魔物を使うのだろうか。
そんなことを考えていると、八田さんがなぜかまっすぐこちらに歩いてくる。僕の目の前で立ち止まり、感情ゼロの表情で口をひらく。
「雨降ってませんよ」
室内でレインコートを着ている僕に対しては至極まっとうな指摘だが、この場面でこんなことを言うのは普通とは言い難い。
「……はい、知ってます」
一瞬悩んだ末、目の前の不思議ちゃんにそう答えると、彼女は何事もなかったように女子の控室へ消えていった。
今まで八田さんに集まっていた注目は必然、僕へと集中することとなる。
ざわざわする2階の観客席からは『レインコート』とか、『雨合羽』とか、『何で?』といった単語がちらちら聞こえてくる。
生き地獄。
生き地獄とはまさにこのこと。人見知り人間にとって、周りから注目されるのは針のむしろの上で飛び込み前転するようなものだ。それが悪い注目のされ方ならもう失神アヘ顔モノだ。
くそっ! 堂々としろっ! これから万屋さんにとって大事な1戦をするんだ。集中だ、集中。
「普人くんがんばれー!」
不意に2階席から大声が聞こえた。振り返るとサックが周りの目も気にせず、僕に声援を送っていた。
「普人ー、がんばーっ!」
呼刀も大声で僕に激を飛ばす。
2人の声援に周りのざわつきは既に消え、模擬戦場内は静まり返った。
「うぉおおおおーーーっ!!」
ブチぎれ状態で顔を真っ赤にし、腹の底からありったけの唸り声をあげる。広い館内に俺の雄叫びだけが大音量で響き渡る。
いままでの人生で1度も出したことのない大声をあげた。
感謝の意を込め、観客席の2人に笑顔で手を振る。
2人も笑顔で手を振りかえす。
さっきまで緊張でガチガチだった体は、憑き物が取れたみたいに軽くなっていた。
2人の先生と万屋さんが待つ場内中央へと走ってゆく。
「おや、小林君。イかしたレインコートだねー」
笑顔で言う霧真者先生に尋ねる。
「この服装でも大丈夫ですか?」
「もちろん。服装は特に規定は無いからねー」
万屋さんの方はいつもの制服姿だが、スカートの下にスパッツを履いている。女子は模擬戦ではこの格好が多いようだ。
「小林君、無理はしないでね」
万屋さんが心配してくれる。
「大丈夫。握徒を一緒に救うからね、万屋さん」
「……う、うん……」
少し驚いたような表情の彼女が小さく返事をする。
今は分からなくてもいい。握徒は万屋さんの魔物だ。僕が手伝えることは限られる。最後の判断はやはり本人しかできない。
そこまでは何としても僕が持っていく。
「じゃあ、いい、2人とも? 時間は無制限で攻撃方法は魔物でもそれ以外でも構いません。ブザーが鳴るまでは戦闘は続いています。ギブアップするときは私か富武先生に宣言すること。ブザーが鳴ったら速やかに戦いを止めること。いいわね?」
先生のルール確認に僕らは頷く。
「では本日の模擬戦第3戦。はじめっ!」
僕と万屋さんの模擬戦がスタートした。




