模擬戦開始
6/2 (金) 午後 第2室内模擬戦場
午前は普通に授業があり、昼休みを挟んで午後から1年生の模擬戦が開始された。
判定人は霧真者先生と、中年のメガネの男性教師の富武先生が補佐役を務める。
第1試合は宮ノ本だった。相手は男子の田所君で、彼の魔物は大型の真黒な犬もしくは狼のような姿のものだ。だが、その能力は全くわからなかった。
試合開始数秒で、宮ノ本が鈍器型の魔物『ザック』から衝撃波を放ち、その攻撃で田所君の魔物は真っ二つになり、そのまま強制帰還された時点で試合終了のブザーが鳴ったからだ。
「なんだ、もう終わったのか。拍子抜けだな」
「ちょっとザックさん、相手の前で失礼ですよ。もっとお上品にできないんですかねー」
毒づくザックを刀の『バラン』がたしなめる。そう、この武器型の魔物は普通に話せるのだ。鍔の部分にそれぞれハニワの顔のような模様があり、その口が動いて人の言葉を発する。
「けっこうおしゃべりだね、宮ノ本さんの魔物って」
「僕も今日初めて知ったよ、宮ノ本の魔物がしゃべれるの」
右隣に座っているサックと雑談する。
模擬戦場の2階部分の観覧席で、他の1年生は試合を観戦していた。
「しかし宮ノ本さんってほんとに強いんだな。田所君の魔物秒殺しちまったよ」
左隣の呼刀が今度は口をひらく。
今、僕はクラスの人気者2人に挟まれて模擬戦を観戦している状態だ。
これはなんとも周りの目が気になる。2人のファンから自分が恨まれるんじゃないかと余計な心配をしてしまう。
「宮ノ本家っていえば伝統ある異能の家系だそうだからね。子供のころから魔物を扱う訓練してるって、本人が言ってたよ」
僕の代わりにサックが呼刀に答える。
「へー、俺たちとは全然レベルが違うなあ。なんか自信なくなってきたよ」
いつも能天気な呼刀が、ため息交じりに弱音を吐く。
「まあ、みんながみんな宮ノ本みたいに強いわけじゃないって」
呼刀に声を掛けるが、確かに宮ノ本に勝てる自信は僕も全くない。だが、今日の相手はその宮ノ本でも勝ったことが無いっていう握徒だ。
判定試験以来忘れかけていた恐怖心が脳裏を過ぎる。
館内では第2試合が始まろうとしていた。
「じゃあ僕、次の対戦だからそろそろ行くよ」
ビニールのバッグを持ち、席を立つ。
「おお、がんばれよ普人」
「気を付けてね、普人くん」
2人の声援を受けて下の控室へと向かう。
控室は男子用と女子用がそれぞれ2室ずつある。男女があるのは更衣室も兼ねているため、2つずつあるのは試合の前後に対戦相手と一緒にさせないためだ。
僕は男子B控室へと入り、支度をする。備え付けのロッカーにスマホと時計、学生証を入れ、持ってきたビニールバッグから雨合羽を取り出す。
昨日の夕方、帰宅した後サックの言っていたスポーツショップへ向かい、店員さんにカッパがあるか尋ねた。
普段はあまり売れる代物ではないが、梅雨時は学園ではたらく作業員がけっこう買いに来るそうで、陳列棚の目立つところに置いてあった。
形や色もいくつかあったが、お目当てのポンチョタイプのものを見つけ、学生証で購入した。
制服のワイシャツを脱ぎ、袖なしのシャツの上から雨合羽をかぶる。
オリーブ色のナイロン製のカッパはすっぽりと体全体を包み、垂れ下がった布の下から両腕を出してみる。
昨日も試しに着て動きを確かめてみたが、問題ないようだ。
軽くストレッチをしてからベンチに座って出番を待つ。
しばらくすると表でブザーが鳴った。どうやら2試合目が終わったらしい。
「おーし、いっちょう気合入れてやってみるか」
自分を奮い立たせるようにつぶやき、控室の扉をあけた。




