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欲望=魔物  作者: クニクニ
3章
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雨の放課後

6/1 (木) 放課後  学生食堂


「いやー、すごい雨だねー」


 サックの言う通り、外はバケツをひっくり返したような大雨だ。朝は晴れていたので傘を持ってきてない生徒もけっこういるようだ。僕らも無論持ってきていない。

 梅雨(つゆ)の時期だから仕方ないが、ちょうど衣替えで夏服のワイシャツを下ろしたばかりなので濡れて帰るのはちょっと気が引ける。

 皆同じことを考えているようで、学食にはぱらぱらと談笑する生徒や、お茶を飲んで雨が止むのを待つ人が見受けられる。


「ところでいよいよ明日だけど、普人(しんと)くん大丈夫?」


 何のことかは言わずもがな。今週の火曜に掲示板に貼られた模擬戦の対戦表で、明日の第3試合、万屋(よろずや)さんと対決することが決まっていた。

 正確には握徒(あくと)と僕が対戦し、相手を倒した方の要望を受け入れるという約束だ。


 もちろん、これは先週のうちに万屋さんと握徒と打ち合わせし、投票用紙にお互いの名前と6月2日の日付を記入したからに他ならない。

 霧真者(きりまじゃ)先生も僕らの意図を察してか、希望どおりに試合を組んでくれた。


「正直自信満々とは言い難(がた)いけどね。でも策が無いわけでもないよ。まだ練り直してる段階だけど」


 ボウリング場での件で召喚能力だけでは厳しいのは明らかだが、僕の憑依能力は相手に触れなければならない。だが、近接戦は握徒が圧倒的に有利だ。

 さて、どうしたもんか。もう明日は本番だ。


「無理はしないでね。命あってのなんとやらだよ、普人くん。模擬戦は1回で終わりじゃないんだし、握徒とはまた対戦できるんだからね」


 確かにそうだが、同じ対戦をそう何度も組めるものではないだろう。できたとしてもだいぶ先になってしまうのは明らかだ。模擬戦以外での戦闘は危険なため、基本的に非常時以外は禁止されている。今回のチャンスを無駄にはできない。


「ああ、わかってるよ。とはいえサックも相当無茶したじゃないの。僕にも一言言ってくれれば一緒について行ったのに」


 まさかあまり他人に深入りしないサックが、1人で握徒を説得しに行くなんて夢にも思わなかった。


「ボクも万屋さんの友達だよ、あれくらいしないとね。」


 心配もしたが、サックが万屋さんのためにしてくれたことは素直にうれしかった。

 でも、僕が負けたらおなじことを自分も受けるというのはやり過ぎだ。ヘタをすれば手足を全部へし折られるかもしれない。

 まあ握徒に確認したら、サックに怪我をさせるつもりはないと言ってたので大丈夫だろう。僕の方には大怪我をさせるつもりしか無い様だが。


「それに普人くんは宮ノ本(みやのもと)さんとデートだったんでしょー、邪魔しちゃーわるいですよー」


 うっ、棘のある言い方。


「デートじゃないって。戦術的相談をしてただけだよ。彼女は握徒と何度も戦ってるんだから、話を聞いといたほうがいいだろう?」


 このあいだから何かにつけてはサックがこの話題を振ってくる。そっちも万屋さんと2人でお茶してたんだからお互い様だろうに。


「でも宮ノ本さんも万屋さんに負けず劣らずの美人だよねー。スタイルもいいしー、胸もおっきいしー」


 不機嫌柵平(さくだいら)くんのじわじわ精神攻撃がはじまりましたよー。



 目の前のサックは今日から夏服だが、ワイシャツの下には少し厚めの黒のTシャツを着ているので、その下はどうなっているのかわからない。

 やっぱりブラジャー着けてるのかな、そもそもホントに女の子なのかな? ただ言えるのはその胸が『なだらか』だということ。


「普人くんってさー、やっぱり胸おっきい女子のほうが好みなの?」


 唐突にサックが個人的嗜好(しこう)を探(さぐ)ってくる。彼らしからぬ下世話な話題だ。


「おいおいなんだよ急に。サックらしくない話題だな。僕がおっぱいの大きさだけで女の子を判断しているとでも?

 そんなものは小さなことだよ。胸が大きかろうが、小さかろうが、性格がよければどっちでもいいよ」


「へー、じゃあ霧真者先生がおっぱい触っていいって言ってきたらどうする?」


「触るにきまってんだろうっ! おもいっきり触るにきまっているだろうがっ! バチあたりめがっ!」


「なんで触んないとバチがあたるのよ。もうわかったわかった。聞いたボクがわるかったよ」




 それから1時間ほど待ったが、雨足は弱まったものの止みそうにない。

 食堂で待つ人の影も減り、諦めて校舎玄関へ向かう生徒も何人か目撃した。

 僕とサックの家は校舎から遠い位置にあるが、居住区と校舎は比較的近いため、それほど距離があるわけでもない。


 僕らも諦めて家までダッシュすることにした。

 学園玄関に向かうと、校門前の道路脇に人影があった。雨の中、カッパを着た作業員がマンホールのフタをあけて中を覗いている。この雨で下水道の雨水が詰まっていないか見ているのだろうか。

 青色のポンチョタイプの雨合羽(あまがっぱ)を着た作業員は確認を終えたのか、カッパの下からマンホールオープナーを出し、傍(そば)に置いてあったフタにひっかけて元に戻している。


「普人くん、どうかした?」


 その様子をじっと見ていた僕に、サックが声をかける。


「いや、あの合羽(かっぱ)かっこいいなーと思って」


「そーかなー。たしか商店区のスポーツショップにも同じ様なカッパ売ってたよ」


 平日の商店区は学園の時間帯に合わせて朝は遅く開店し、夜は比較的遅くまで開いている店がほとんどだ。

 今から帰って、商店区に向かっても十分間に合うだろう。


 あの雨合羽、どうしても今日中に欲しいな。

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