カッコイイとはこういうことだ
5/25 (木) 放課後 霧真者知華職員室
「ほほー、そう来たかー」
模擬戦開始1週間前、投票用紙の集計と対戦組み合わせの作成作業に追われていた。
毎月最終木曜に生徒1人1人に自分の名前が印刷された投票用紙を配布し、そこに希望する対戦相手と日にちを書いてもらい、その集計をもとに対戦日程を決めてゆくのが担任の仕事だ。
なるべく生徒の希望を酌んで対戦を決めていくが、もちろん明らかに実力の違う生徒同士や、繰り返し同じ相手になることは避けなければならない。
投票用紙は白紙で提出しても問題はなく、実際無記入で投票する生徒も多い。特に1年生ははじめてとあってか、無記入や、日にちだけの記入がほとんどだった。
その中で、全く同じ日にちで互いの名前を対戦相手希望欄に書いた1組がいた。
われらが普人君と万屋さんだ。
どうやら模擬戦で万屋さんの魔物と決着を付けようということらしい。やるわね普人君。
希望日は初日の6月2日。
模擬戦は毎週金曜の午後に行われ、毎月1人1戦もしくは2戦が基本だ。
来月はまだ初戦ということもあり、上級生とは別の模擬戦場で、1年生同士の対戦を組むしきたりになっている。
毎年10〜20人ほどの新入生がいるので、1日2〜3試合ほど行われる。
となると、この2人の実力からすると間違いなくトリの3試合目が最適だろう。
「んー、しかし普人君はどうやって握徒を倒すつもりなのかしら」
心配なのは彼の身の安全だ。握徒は今年の新入生の魔物の中では実力はトップ。発現者のスキルまで鑑みれば宮ノ本さんも引けを取らないが、彼女を以てしても握徒に勝てた試しは無いと聞く。
まあ宮ノ本家における訓練での話なので両者とも本気ではないだろうが、うちのクラスで勝てる可能性がある生徒は宮ノ本さんくらいだろう……と、校長はじめ、上の連中は思っている。
たしかに生まれた環境や才能による力の差は歴然とあるし、ここに集められている時点でだれしも普通の人間をはるかに上回る才能を持っていることは事実だ。
だけど……だからこそ、そういったモノをぶち破る人間というのに私は強く惹かれる。
3年生の火田君、2年生の節家君がそのいい例だ。
彼らはごく平均的な家庭に生まれ、ごく普通に生活してきた。この学園に来るまでは。
学園で発現しても、その魔物はずば抜けて強力だったわけでもない。そんな2人は、もちろん誰からも期待されない普通の生徒だった。
しかし、彼らの努力は普通ではなかった。
火田君はその旺盛な好奇心と他人を惹きつける人当りの良さで自分のため、仲間のために夢中で自分の能力を磨き続けた。
対して節家君は己の限界を超えることを常にもとめるストイックな性格により、自然と自分の能力を1人で分析し、試行錯誤と鍛錬を積み重ねた。
全くタイプの違う2人だが、自分の能力を劇的に成長させたという点では共通している。私の大好きなタイプの人間だ。
この学園では自分の力が現在、もしくは将来の生活に直結するため、スキルアップに努力する生徒は少なくない。そのなかでも彼らの成長は群を抜いている。
その理由は前向きな志向性、つまり強くなるのが”楽しい”と考えているためだと思う。
成長を楽しめる人間は強い。
いままでの教師人生、いや、発現者人生で私が強烈に感じたことだ。これを実践できる者は恐ろしく強い。そしてめちゃくちゃカッコイイ。
『小林 普人』もその可能性を秘めた人間だ。
はじめは彼も他の生徒たちとおなじで、凡庸に見えた。だが、発現しないという逆境が彼を変えた。
説明するのは難しいが、魔物を扱うこと、生きることに没頭しているように見えるのだ。
そういう人間は根暗だろうがボッチだろうが最高にカッコイイ。
普人君が常識や概念に縛られた大人の度肝を抜く姿を私は見てみたい。まあ、本人は目立つのは好きじゃないみたいだけどねー。
「とりあえずは無事に万屋さんを救えるかだけど、早く見てみたいわねー。彼がどんな戦い方をするのか今から楽しみだわ」
あ、そーいえば忘れてた。
「万屋さんの問題解決したらごほーびあげる約束してたんだっけ。なーににしよっかなー」




