ボクッ子の秘密
5/20 (土) 午後 万屋宅
「実はボク……女なんだ……」
「……えっ」
柵平君が意外な事実を口にする。
いや、その幼さの残る美しい顔立ちはむしろ女性といわれた方が納得がいく。
問題は小林君との関係だ。2人はいつも仲良くしていたし、お互いのおうちを頻繁に行き来しているようでもある。
ひょっとして2人はもう恋人同士なのだろうか。
「万屋さん、ボクと普人くんの関係が心配?」
「えっ! あ……いやぁ……そのぉ……」
ズバリ直球の質問に、驚くと同時に恥ずかしさでどう答えたらいいのかわからない。
心臓が早鐘のように鳴り続け、口から飛び出すのではないかと本気で心配になる。
「大丈夫だよ。ボクらはただの友達だから」
「へ、へえー。そそっ、そうなんだ……」
動じてないふりをするが、焦っているのが丸わかりの受け答えになってしまう。
よしっ、大丈夫! 私にもまだチャンスがある!
「でもね、ボクは普人くんのこと好きなんだ」
ハンマーで殴られたような衝撃。
だめだ、勝てない。こんなカワイイ子が相手じゃ全然勝てっこない。
あー、そうかー。そうだったのかー。霧真者先生の言う通り、小林君はやっぱりモテる男子だったのかー。
意外と楽勝とか思ってたさっきまでの自分をグーでぶん殴ってやりたい。
私のバカバカバカバカボカバカッ! 噛んだっ! 心の声で噛んだっ! キセキッ!
「万屋さんは、普人くんのことどう思ってる?」
えっ……どうしよう。なんて答えたらいいんだろう? ホントのこと言えばいいのかな? でもそんなこと言ったら『空気読めない女』って思われない?
「い、いやー。私はー……そんなことは……」
「うそだー。万屋さんも好きなんでしょ、普人くんのこと?」
うわー、わかんないわかんない! もう正解がわかんないよ! これ『うん』って言ったら昼ドラになっちゃうんじゃない? 柵平君と骨肉の争いになっちゃう展開じゃない?
私ぜったい姑役の方じゃない? 『このドロボー猫!』とか言わなきゃなんなくなるの? てゆーか、『ドロボー猫』なんてセリフ、リアルで言う人ほんとにいるの? 言ったらマジで引かれるやつだよね?
「……うん」
言った―! 言っちゃったー! ドロボー猫確定です。ほんとうにありがとうございます。
「やっぱそーだよねー。んー、これは強敵だなー。霧真者先生も普人くんにいろいろちょっかい出してるって言うしなー」
そーかー、霧真者先生も居たんだった。益々私の当選確率が下がってしまうじゃない。
かわいい美少女幼女枠が柵平君、大人の色気ムンムンムチムチ枠が霧真者先生、普通に足ひっぱるだけのモブ同級生枠が私……
あーだめだー……だめなやつだー……スペック低すぎるから『気持ちだけは誰にも負けません!』とか言い出すタイプだよー私。就職面接だったら真っ先に落とされるパターンだよー。
あ、そーいえば大事なことまだ確認してなかった。
「ところで、柵平君が女の子だってこと、小林君は知ってるのかな?」
「うーん、どうなんだろう。ボクもはっきりと打ち明けたわけじゃないんだけど……今もほとんど変わらない関係なんだよねー」
この際、根本的な疑問も解消しておこう。
「そもそもなんで男の子として入学したの?」
「いやー、まあ大した理由じゃないんだけど……うちのお父さんが心配性でね、学園生活でボクに彼氏ができないようにって。
要するに自分の会社の跡継ぎを自分で決めたいんだよ、ボク1人っ子だから」
『柵平スタッフ』といえば発現者の人材派遣会社の最大手だ。そこの1人娘に悪い虫が付かないようにってことかな。
学園側にとっても大事な取引先だから、たぶん協力しているんだろう。
「じゃあ先生たちも柵平君の秘密は知ってるってこと?」
「うん。霧真者先生もいろいろ手助けしてくれるんだけど、ホントはボクはあんまり乗り気じゃなかったんだよ。普通に女子高生としてエンジョイしたかったんだけどね。
万屋さんの秘密と比べると、なんともくだらないでしょ?」
「ううん。そんなことないよ。教えてくれてありがとう、柵平君。あ、柵平さんかな」
「いやいや、君付けでいいよ。ボクっ子キャラもけっこう楽しいしね、エヘヘ」
「ゲコゲコッ」
ミルクティーを舐めていたピースが賛同するように鳴いた。




