午後のお紅茶
5/20 (土) 午後 万屋宅
ピンポーン
と、呼び鈴の音がする。
「はーい」
インターホンのカメラには小柄な女の子、じゃなかった、男の子が映し出される。
急いで玄関に向かい、ドアの鍵を外し、扉を開ける。
「あ、ごめんね万屋さん。急にお邪魔しちゃって」
「いいえ、どうぞ上がって。ちょっと汚いかもしれないけど」
今朝柵平君から電話があって、午後にウチに遊びに行ってもいいかと聞かれ、二つ返事でokした。
めずらしく柵平君1人だというのでちょっと緊張してしまうが、べつに断る理由もない。あまり彼とは話せなかったので、仲良くなるいい機会だ。
両子ちゃんからは、午後は用事があるので一緒に居られないけど、なにかあったらすぐに電話するようにと言われている。
まあ、柵平君は私の事情を知っているから大丈夫だとは思うが。
「あ、これ。コンビニで買ったものだけど、もしよかったら」
きちんと贈答用の紙袋に入ったロールケーキを渡される。こーゆうところは柵平君は抜かりないなぁ。
「ありがとう。じゃあお茶いれるね。紅茶でいいかな?」
「うん、ありがとう。できればミルクティーがいいんだけど。あ、あと醤油のお皿なんかあれば出してもらってもいいかな」
醤油ざらなんて何に使うんだろう?
「うん、ダイジョブだよー。ちょっとリビングでくつろいでてね」
あらかじめ用意しておいたティーセットと、カップに注いでレンジで温めた牛乳、ロールケーキ2人分に醤油ざらをトレーに載せ、リビングに運ぶ。
「はい、おまたせー」
座椅子に座って女性もののファッション雑誌を読んでいた柵平君にケーキとフォークを出し、ポットのお湯で紅茶を煎れはじめる。
「あ、ありがとー。なんかごめんね、気を使ってもらって」
「いいのいいの。でもウチにお客さんなんて両子ちゃん以外じゃ初めてだよ。ごめんね、女性ものの本しかなくて。」
「あっ……うー……い、いやいや。女性雑誌もいいもんだよね。ボクけっこう好きだよ、こーゆうの」
柵平君が急にドギマギしだす。やっぱり男の子が女ものの雑誌よむ姿を見られるのは恥ずかしいのかな?
カップに半分ほど濃いめの紅茶を入れ、ホットミルク、シュガーポットと一緒に柵平君に出す。
「はい、じゃあ砂糖とミルクはお好みの量入れてね。あ、あと醤油ざらね」
持ってきた醤油ざらも差し出す。
「ありがとう。ねえ、万屋さん。ボクの魔物呼んでもいいかな。万屋さんに紹介したいんだ」
「ああ、確か金色のカエルみたいなのだったよね。うん、私も会ってみたい」
柵平君は早速魔物を召喚する。
かざした手のひらに魔力を集中すると、ローテーブルの上に金色のカエルが姿を現した。
「これがボクの『ゴールデンピース』だよ。ピース、万屋さんに挨拶」
「ゲコッ」
私に向かって小さく鳴いて見せる。鳴き声もカエルそのものだ。
「かわいいねー。よろしくね、ピースちゃん」
思わず触りたくなるのをグッっと我慢し、顔を近づけて挨拶する。今日は両子ちゃんが一緒じゃないんだから気を付けないと。
柵平君が砂糖とミルクを入れた紅茶を醤油ざらに少量移し、ピースの前に置く。
すると、ピースはヨタヨタとお皿に近づき、無表情のまま舌をペロペロ出してミルクティーを飲み始める。
醤油ざらの使い方がやっとわかった。
「ピースはミルクティーが好物なんだよ」
「へー、そうなんだ。おいしい? ピース」
「ゲコゲコッ」
こちらを向き、頷くように首を縦に振る。
「よかった。いっぱいおかわりあるからね」
「ゲココッ」
私の魔物もこんなカワイかったらなぁ。叶わないと知りつつも、思わずにはいられない。
「万屋さん、ごめんね」
?
座椅子に座りながらピースを眺める私に、柵平君がなぜか謝る。
彼はおもむろに私の左肩に手を触れた。




