チョコレートパフェ2つ
5/20 (土) 午後 喫茶店
縦長のガラス容器にチョコレートソース・シリアル・ソフトクリーム・生クリームが層状に重ねられ、最上部にはディッシャーですくった半円のバニラアイスとチョコアイスが生クリーム・ソフトクリーム・チョコソース・刻んだナッツでデコレーションされている。
頂点のソフトクリームの上には缶詰のチェリー、グラスの脇にはスライスバナナが飾られ、その華やかさはまさに『パフェ然』としている。
正直私はこういったスイーツを子供のころから食べてみたかった。
日々精進と鍛錬に励む宮ノ本家での生活では、なかなかこうしたスイーツやジャンクフードは口にできなかった。
たまに外食に連れて行ってもらったりもしたが、両親やおじいさまの前ではなんだか恥ずかしくて注文できなかった。
「まあ話はあとにして、溶けないうちに喰っちゃおうよ。いやーパフェなんて何年ぶりかな」
目の前で小林君が柄の長いスプーンにソフトクリームをすくっておいしそうに口に運んでいく。
私も彼をまね、スプーンですくい、口に入れる。
「おいしい……」
はじめて体験するその蕩けるような甘さにスプーンがすすむ。
コクのあるチョコソースがアクセントとなってアイスの層を食べ進むと、シリアルのサクサクした食感が変化を与え、さらに下の層を目指したくなる。
「うん、おいしい。これは止まんないわね、ふふっ」
ふと目の前の小林君と目が合う。彼は食べる手を止め、笑顔でこちらを見ていた。
とたんに恥ずかしくなり、一気に血液が顔面に集中する。
動揺しているのを悟られないよう忙しく動かしていたスプーンをゆっくり置き、温かいコーヒーを口にして必死に誤魔化す。
「いや、ごめんごめん。宮ノ本も笑うとカワイイね。ギャップ萌えってやつかな。そーゆうのは男子にもてるよ」
な、なにいってんのよコイツ。私がそんな見え見えのおだてで喜ぶとでも思ってんの。
「フンッ、あなたがそんな軽薄な男とは思わなかったわ。私を口説いてるつもりなのかしら」
「そんなつもりはないよ。まあ、今のは確かに軽薄だったか。でもお前の外見がいいってのは事実だよ。少なくとも俺はそう思う……ってのも軽薄か」
こいつとは仲悪かったけど、なんでか今はそうでもない。
はじめは大嫌いだった。こいつのせいで理紀が遠くにいってしまいそうな気がした。私と理紀の仲を裂くこいつを許せないと思っていた。
でも、小林君と柵平君と一緒にいて楽しいと感じる様になった。
そしてなんとなく気付いた。わたしも握徒と同じことをしていたと。
理紀を他人から遠ざけて、自分とだけ仲良くするよう仕向けていた。それは偏に、私が1人になるのが怖かったからに他ならない。
彼女を守るという大義名分を振りかざして、その実自分は友達1人作れない臆病者だと認めたくなかった。
彼らと友達になって一番救われたのは他でもない自分だった。
「ねえ、小林君。握徒と戦うのは私の方がいいんじゃないかしら。私なら対戦経験もあるし、あなたより勝てる確率は高いと思うわ」
嘘だった。握徒と手合せしたことは何度かあるが、1度も勝った試しはない。勝てるイメージさえ全く湧かないのが現状だ。
それでもこのまま小林君にすべて任せるのは、今まで自分が避け続けてきたことを全て彼に背負わせるようで忍びなかった。
これではどっちがおんぶにだっこかわからない。
「それはだめだ。今、握徒の味方はお前だけだ。それが表だって対戦したんじゃヤツは1人になっちまう。そうなると握徒を救うのが難しくなる。
それにヤツは俺との決着を望んでるからね」
握徒を……救う……
そんなこと考えてもみなかった。これは私の出る幕じゃないみたいだ。
「大丈夫だって。こっちにも勝算はあるよ。私に任せてくれたまえ、宮ノ本くん」
こんな冗談を私に言う人間はこいつが初めてだ。
「はいはい。じゃあお任せするわ。でもあなたが無事じゃなかったら……たぶん誰も理紀と握徒を救えない」
くそっ、なんでこんなプレッシャーをかける! もっと気の利いたセリフを言えないのか私は!
「そりゃめんどくさいことになったな。まあやるだけやってみるよ。すまんが宮ノ本、僕に協力してくれ」
そう言って私に頭を下げる。よく謝るヤツだ。
「”俺”でいいわよ。私にかしこまっても気持ち悪いだけだわ」
本当はもっとやさしい言葉を掛けたいのに、いつも妙なプライドが私の邪魔をする。小林君も飽きれているに違いない。
「おしっ、じゃあパフェの続きを食べようじゃないの。さっきみたいにガツガツいってもいいぜ、宮ノ本」
前言撤回。こいつにはデリカシーってもんを教える必要があるわね。




