ヤヴァイ憑依能力
「ゲコッ、ゲコゲコッ」
普人くんの掌のピースが呻くような鳴き声をあげる。
傍目から見てもピースの魔力のオーラが急速に弱まって行くのがわかる。
「ゲコオ……ォ……」
前脚で宙をもがきながらピクピクと震えるピースは遂に力尽き、コテンと仰向けに転がる。
白いおなかを天井に向け、グッタリとなり、体の輪郭も薄くなり始めている。
魔物は魔力によって現実世界に実体化している。その魔力が無くなれば必然、強制帰還させられることになる。
ピースには常にボク自身の魔力が一定量供給され続けることで召喚状態を保っているが、普人くんからの吸収量がそれを遥かに超えているため、今のような状態に陥っている。
通常、魔物の魔力量は召喚者しかコントロールできないが、普人くんの憑依能力は触れることで他人の魔物の魔力を吸収・供給できるらしい。
しかもその吸収速度はかなり速く、ボクが供給量を増やしても追いつかない。
「普人くん、そろそろピースがヤバいよ。強制帰還されちゃう」
強制帰還されればいくらボクに魔力が残っていようと、しばらくはピースが呼び出せなくなる。再召喚可能になるまでは魔物の強さによって違いがあるが、ピースの場合はだいたい5分くらいだ。
たかが5分……とは侮れない。発現者同士の戦いで5分も能力が使えないのは絶望的といえる。
「おお、ゴメンゴメン。だいじょぶか、ピース。」
言って普人くんは、今度は魔力をピースに戻し始める。
無様にひっくり返っていたカエルはすぐに元気を取り戻し、いつもどおりのしゃがんだ格好で鳴いて見せる。
「ゲコゲコオォッ!」 (ヤバかったぁっ!)
たしかに魔物にとってはかなりヤバい、いや、ヤヴァイ能力だ。
だが、これってヤヴァイのは魔物だけなんだろうかという疑問が湧く。
「普人くん、これって人間にも効果あるの?」
「ああ、タブンあると思うけど……憑依状態の万屋さんに使ったら、憑依してた握徒が強制的に憑依解除されたけど、召喚状態や能力未使用状態の相手には使ったことないからなー」
これはチャンス! いや、チャヴァンス! ん? 言い換える必要なかったな。
ともかく、普人くんとスキンシップのチャンスだ。
「じゃ、じゃあ試しとかないとね。ボ、ボクがじ、実験台になってあげるよ、へ、へへっ」
ヤヴァイ、なんかコーフンしてきた。
「柵平君、なんか目がヤバイことになってますけど……?」
まずい、こちらの下心が顔にでてしまったか。
でもこの間は一緒に寝たけど何もなかったから安全だと高を括ってるはず。ここはスーパー柵平くんにゴールデンハンマハンマで小林 普人さんに全部! 倍率ドンっ! さらに倍だっ!
「だ、ダイジョブだって。ほら、吸って吸って。」
ソファの隣りで座る普人くんの左腕に抱きつき、魔力吸収を急かす。
「ゲココォゲコッ」 (ミルクティーくれっ)
「ほら、ピースも準備オッケーだって」
ピースのおねだりを適当にあしらい、普ちゃんの腕をボクの胸に押し当てる。わずかな膨らみを感じてくれることを願い、満面の笑みで普人くんの顔を見上げる。
「ま、まあ、試しときたいのは確かだからね。じゃあ、体調に異常があったらちゃんと言ってくれよ?」
「うん、分かってるよ」
とうとう折れた普人くんが、僕の魔力を吸い始める。
ボクのなかのチカラが一気に普人くんの左腕へ集まって行くのを感じる。
集められた魔力は普人くんの腕を通って彼の全身へと流れてゆく。
「なにこれ……なんか、すごく……イイ……」
その感覚を口で言うのなら、『口では言い表せない』という屁理屈がぴったりだ。
魔力の減少による虚脱感と普人くんとの一体感が何とも言えず気持ちいいのだ。ンッ、ギンモヂイイィのだ!
「すごいぃ……すんごいキモチイイよぉ、普ちゃん……やばいっ、やばいよっ……あ、まちがえた……ヤヴァイよぉ……」
たまらず普ちゃんの左腕にスリスリするが、その動きもメンドウに思えてくる。
「あ……これは……ほんとに……やばいぃ……じゃ、なく……ヤヴァ……」
「ゲコゲコッ! ゲコゲコゲコオォッ! ゲッ……」
机の上のピースが激しく鳴いたかと思うとフッと、まるで電源を切ったかのように一瞬にしていなくなる。
それがボクの魔力供給不足による強制帰還だと気付いたとき、ボク自身も意識を失っていた。




