コピー
5/18 (木) 夕方 普人宅
「うーん、どっちかなー」
サックの前には2匹のゴールデンピースが並んでいる。
ピースが双子だったとか、複数召喚可能とかいうわけではない。
「じゃあ、こっち」
サックは向かって右側のピースをツンツンと指先で突く。
「きゅきゅっ!」
突かれたピースが変な鳴き声で鳴く。
「あちゃー、ハズレかぁ」
金色のカエルは”ぐにゅっ”と形を変え、間の抜けた顔の透明なゆるキャラになる。
「リキッドにこんな特技があったとはねー。スゴイね」
「きゅきゅうっ!」
得意満面のリキッドがサックに胸を張ってみせる。
「ゲコッ」
「ピースもすごいって言ってるよ」
昨日の夜、リキッドにいつものコーラのミニ缶をあげたら何やら遊びだした。
体をスライム状に変え、ミニ缶を完全に包み込む様に張り付いたあと、缶から離れるとグニュグニュと形を変え、包み込んだミニ缶そっくりに変身した。
物体を包み込むことでその形と色を記憶し、そっくりに自分の体を変形できる能力。変形能力は知っていたが、体を着色できるとは知らなかった。
「僕もこんな能力があるなんて昨日まで気付かなかったよ。あ、そうだ。リキッド、僕のコピーをサックにも見せてあげようぜー」
「きゅきゅっ」
ゆるキャラが右手をあげて賛成の意を表す。
机の上から僕の右手の平に乗り移り、スライム状に溶ける。普段召喚している量では足りないので、掌へ追加のリキッドを召喚する。
右手の平からどんどん溢れるスライムが僕の体に広がって行き、やがて全身をスライムが包み込む。
瞑っていた目を開け、瞳もしっかりと記憶させる。数秒すると記憶が終わり、スライム状のリキッドが床へとすべて流れ落ちる。
床のスライムが1カ所に集まり、まるで考え込むようにグニュグニュと蠢く。
すると”ぐにゅん”とタケノコのように上に伸びたかと思うと、人間のかたちに変わる。透明な人間の像に自然と色が付いてゆき、もう1人の僕が姿を現す。
「きゅきゅうぅっ!」
と右手を挙げて鳴く僕の偽物。
「すごいっ! 普人くんのコピーだ。触ってもイイ?」
「きゅうぅ」
と頷く僕の形をしたリキッドにサックが手を伸ばす。
「うわっ、感触も人の肌みたいだ。服も、髪の毛も全然ホンモノと見分けつかないよ。質感まで真似できるなんてすごいな」
サックのべた褒めに偽物の僕が胸を張って見せる。
「でしょ? 硬めのゴムくらいの質感までなら再現できるみたいなんだ。さすがに分厚い鉄板とかは無理だけど」
「これは使えるよ、普人くん。囮としても使えるし、このまま抱きついてスライム化すれば相手を簡単に拘束できる。いくらでも応用が効く、強力な能力だよ」
「いやー、そこまで言われると照れますなー」
「きゅうきゅきゅうぅー」
本物と偽物で、サックの賞賛に頭を掻く。
「さすがに声までは真似できないし、模擬戦のような隠れる場所のないところではコピーがバレバレだから使えないけどね」
だが、強力な武器には変わりない。要は使い方次第だ。
「まあ、この話はこれくらいにしといて、今日はちょっと頼みごとがあるんだ」
サックに今日の目的を切り出す。
「きゅきゅう」
リキッドも元のジャストサイズなゆるキャラに戻し、余分な魔物は帰還させる。
「なになに? なんでも言ってよ、ボクと普人くんの仲なんだから」
笑顔で僕の顔を覗き込んでくる。
このあいだの夜のことは、2人の間ではなかったことになっている。サックがなかったことにしている以上こちらもなにも言う気はないし、その方が今の僕らにとってはいいだろう。
「ちょっとピースに試してみたいことがあってね。」
「ゲコッ?」
机の上のピースが不思議そうに首を傾げた。




