告白と決意
5/15 (月) 放課後 渡り廊下
「いやー、ごめんね小林君。ちょっとなんか、霧真者先生のノリについてけなくて」
万屋さんが廊下を歩きながら僕に謝る。さっきは僕も先生もかなり驚いた。
悪乗りした僕らが悪かったのだから、万屋さんが謝ることはない。
「いや、こちらこそごめんね。霧真者先生と2人だといつもあんな調子だからつい……」
「いつもあんな感じなの? 先生と2人っきりって、そんなにしょっちゅう2人になるの?」
珍しく万屋さんがグイグイくるなー。でも友達らしくなってきたって証拠かな。こちらとしては大歓迎だ。
「あっ、ごめんね。いや、ちょっと気になったもんだから」
顔を赤くして、作り笑いで誤魔化す。こーいう仕草も乙女チックで万屋さんの魅力だよなー。
「そんなに頻繁に2人になることはないよ。それにあれは先生がからかってるだけさ」
「そ、そーだよね。エヘヘ」
僕らは先生の部屋を後にし、サックと宮ノ本が待つ学生食堂へと向かっている。これはもちろん宮ノ本が万屋さんと一緒に帰るためだ。そこへサックも乗っかった感じだ。
誤解が解けたところで、先程気になったことを万屋さんに尋ねてみる。
「万屋さんってさー、握徒のことどう思ってるのかな?」
僕の質問に万屋さんが立ち止まり、驚いたような表情でこちらを見る。
「あ、いやー、さっき自分の憑依能力を説明するときに『自分自身が握徒に変身するようなもの』って言ってたでしょ。その時、なんか思い詰めてた感じだったからちょっと気になってね。
いや、ムリに答えることはないんだけどさ、万屋さんのことと握徒のことがもっとよく知りたいなーなんて……」
立ち止まった万屋さんは少し伏し目がちに僕の質問に答える。
「正直考えたことなかった……かな? 私が発現したのは小学校5年生のときだったんだ。
握徒が現れて、私のお父さん殺したの」
彼女の言葉に息を飲む。
「ごめん。へんなこと……」
「聞いて欲しいの。普人君には、わたしと握徒のこと知っといて欲しい」
潤んだ瞳を向けられ、僕は口を閉じる。
「そのころのお父さんはお仕事上手くいかなくて、お酒ばっかり飲んで、お母さんと私に暴力振るって……以前は優しいお父さんだったんだけどね。
ちょうど同じ時期に、私は握徒の夢をみるようになってね。夢の中でお願いしたんだ、『お父さんを殺してください』って。
……だからお父さん殺したのは握徒じゃなくてわたしなの。
そのあとは、発現者になった私は両子ちゃんのおうちに預けられて、お母さんはどうなったか分かんない。
たぶんもう二度と会えないと思う。私のこと、相当怖がってたから……」
不意に万屋さんはにこっと笑う。
「以上です!」
こんなこと打ち明けてくれたのは、俺のことを相当信頼してくれているからだろう。
「ありがとう」
そのことばしか思い浮かばない。
万屋さんが再び渡り廊下を歩き出す。
その背中はとても小さく見える。
「万屋さん!」
小さな背中を呼び止める。
決意だ。一緒に生きる決意を見せろ。
俺が万屋さんと友達になる決意。
万屋さんが握徒と生きていく決意。
「俺が助けるよ。きみと、握徒を」
万屋さんが振り返って小さく頷く。
言葉はただの約束だ。約束したなら破らない。
あとは実行するだけだ。




