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欲望=魔物  作者: クニクニ
3章
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告白と決意

5/15 (月) 放課後  渡り廊下


「いやー、ごめんね小林君。ちょっとなんか、霧真者(きりまじゃ)先生のノリについてけなくて」


 万屋(よろずや)さんが廊下を歩きながら僕に謝る。さっきは僕も先生もかなり驚いた。

 悪乗(わるの)りした僕らが悪かったのだから、万屋さんが謝ることはない。


「いや、こちらこそごめんね。霧真者先生と2人だといつもあんな調子だからつい……」


「いつもあんな感じなの? 先生と2人っきりって、そんなにしょっちゅう2人になるの?」


 珍しく万屋さんがグイグイくるなー。でも友達らしくなってきたって証拠かな。こちらとしては大歓迎だ。


「あっ、ごめんね。いや、ちょっと気になったもんだから」


 顔を赤くして、作り笑いで誤魔化す。こーいう仕草も乙女チックで万屋さんの魅力だよなー。


「そんなに頻繁に2人になることはないよ。それにあれは先生がからかってるだけさ」


「そ、そーだよね。エヘヘ」


 僕らは先生の部屋を後にし、サックと宮ノ本(みやのもと)が待つ学生食堂へと向かっている。これはもちろん宮ノ本が万屋さんと一緒に帰るためだ。そこへサックも乗っかった感じだ。

 誤解が解けたところで、先程気になったことを万屋さんに尋ねてみる。


「万屋さんってさー、握徒(あくと)のことどう思ってるのかな?」


 僕の質問に万屋さんが立ち止まり、驚いたような表情でこちらを見る。


「あ、いやー、さっき自分の憑依能力を説明するときに『自分自身が握徒に変身するようなもの』って言ってたでしょ。その時、なんか思い詰めてた感じだったからちょっと気になってね。

 いや、ムリに答えることはないんだけどさ、万屋さんのことと握徒のことがもっとよく知りたいなーなんて……」


 立ち止まった万屋さんは少し伏し目がちに僕の質問に答える。


「正直考えたことなかった……かな? 私が発現したのは小学校5年生のときだったんだ。

 握徒が現れて、私のお父さん殺したの」



 彼女の言葉に息を飲む。


「ごめん。へんなこと……」


「聞いて欲しいの。普人(しんと)君には、わたしと握徒のこと知っといて欲しい」


 潤んだ瞳を向けられ、僕は口を閉じる。


「そのころのお父さんはお仕事上手くいかなくて、お酒ばっかり飲んで、お母さんと私に暴力振るって……以前は優しいお父さんだったんだけどね。

 ちょうど同じ時期に、私は握徒の夢をみるようになってね。夢の中でお願いしたんだ、『お父さんを殺してください』って。

 ……だからお父さん殺したのは握徒じゃなくてわたしなの。

 そのあとは、発現者になった私は両子ちゃんのおうちに預けられて、お母さんはどうなったか分かんない。

 たぶんもう二度と会えないと思う。私のこと、相当怖がってたから……」



 不意に万屋さんはにこっと笑う。


「以上です!」


 こんなこと打ち明けてくれたのは、俺のことを相当信頼してくれているからだろう。


「ありがとう」


 そのことばしか思い浮かばない。



 万屋さんが再び渡り廊下を歩き出す。

 その背中はとても小さく見える。



「万屋さん!」


 小さな背中を呼び止める。



 決意だ。一緒に生きる決意を見せろ。



 俺が万屋さんと友達になる決意。


 万屋さんが握徒と生きていく決意。





「俺が助けるよ。きみと、握徒を」



 万屋さんが振り返って小さく頷く。


 言葉はただの約束だ。約束したなら破らない。

 あとは実行するだけだ。

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