do not end
5/6 (土) 深夜 普人宅
「あっ、あっ、らめっ、らめえぇ! 落ちるっ、落ちちゃうぅっ! はひいぃっ!」
普人くんが卑猥な声を上げる。
「ほらほら普人くん。しっかり繋げないとまた負けちゃうよ。普人くん相当溜まってるんでしょ? 全部吐き出さないと意味無いよ」
「きゅきゅっ、きゅううっ!」
リキッドも熱い声援を送っているようだ。
「ゲコゲコォ」 (もう無理だろ)
ピースは既にボクの勝利を確信している。
「じゃあもう透明なのドバッと出しちゃうよ。たぶんこれで終わるから……いっけえっ!」
ボクは容赦なく普人くんにトドメを刺す。
普人くんの上から透明なモノが大量に降り注ぐ。
「サック、待って……あっ、あぅああーっ!」
普人くんが断末魔を上げる。
ボクの10連勝。結局、普人くんは1度も勝てなかった。
少し大人げ無かったかな。1回くらいは勝たせてあげてもよかったかも。
「普人くんヘタクソだね。まあ経験の差かな。こう見えてもボクは普段からけっこうやってるからね。エヘン」
「いやー僕はこうゆーの苦手なんだよなー。たぶん才能だと思う。サックはホント上手だよね」
そんなに褒められると照れちゃうな。
僕らはパズルゲームをしていた。いわゆる『落ちゲー』とゆーやつで、ボクはけっこうこのジャンルのゲームは好きでよくやる。
落ちてくる『ぷにぷに』キャラを同じ色のヤツ4つくっつけると消えるルールで、連鎖を溜めて消すと相手側に透明なぷにぷにが大量に落ちてくる。
普人くんはどっちかっていうとアクション系やホラー系のゲームが好きらしく、パズルゲームは苦手らしい。
部屋にある壁掛け時計を見ると、もう深夜2時を過ぎていた。明日は休みとはいえ、さすがに眠くなってきた。
「じゃあ……そろそろ寝よっか」
「あ、ああ……もうこんな時間かぁ……」
なんとなく気まずい。
あんな約束をしてしまったからか、普人くんはそわそわして落ち着かない。
言い出したボクのほうも、なんだか急に緊張してきた。
「じゃあリキッド、今日はおやすみだ。またなー」
「きゅきゅう」
普人くんがリキッドを帰還させる。手を振るリキッドが徐々に薄くなって消えてゆく。
「ピースも帰る時間だよ。じゃあね」
「ゲコゲコォ」 (バイバイ)
ピースもボクの命令でゆっくり消えてゆく。
「…………」
「…………」
2人きりになり、しばし沈黙。
「じゃあ、い、行こうか。寝室はこっちだよ」
「う、うん」
Tシャツにスウェットのズボンの普人くんが、先に薄暗い部屋に入る。そのあとをパジャマを着たボクがついて行く。
寝室には机や本棚が入って左側、ベッドは右側の壁にくっつくようにおいてあり、奥は小さな裏庭に面したガラス戸になっていて、今は薄手のカーテンが引かれている。
普人くんが電気をつけて中に入り、ベッドの前で止まる。
「サックは壁側でいいかな」
「うん、どっちでもいいよ」
普人くんが掛布団をまくってくれ、ボクが先にベッドに上がる。仰向けの状態で壁に左肩がくっ付くくらいまで移動し、続いて普人くんもベッドに上がる。
「じゃあ、電気消すね」
普人くんが照明から垂れ下がる紐をカチカチと引く。
あたりは暗くなり、薄いカーテン生地から漏れる月明かりと街灯の光がぼんやり室内を照らす。
「ふ、普通に寝るだけだよね」
ベッドに入ってきた普人くんが念を押す。
「も、もちろんだよ。な、何言ってるの……」
慌ててボクも肯定する。
1人用のベッドに2人で寝るのは予想以上に狭かった。必然、2人とも横向きになるが、お互い内側を向くと相手の顔がすぐ目の前にくる。
「ご、ごめん」
普人くんは急いで反対側に向きなおす。ボクの目の前には普人くんの後頭部が来る。
小柄なボクとは対照的に、180センチ近くある普人くんの背中は間近だと大きく見え、彼が改めて男子であることを実感する。
「サック……」
「な、なに?」
普人くんが背中を向けたままボクを呼ぶ。
「何か悩みでもあるのかい?」
鋭い質問にボクはビクンと反応する。
こちらの迷いを読み取ったのか、普人くんが続ける。
「このあいだのことと、何か関係あるのかな。言いたくないなら、別にムリすることはないけど……」
やさしい口調の普人くんの声が、静まり返った暗がりの部屋に響く。
「う……ん……」
うまく言葉が出てこない。さっきまで決心していたのに、急に決意がぐらつき始める。
こんなことを言って嫌われないだろうか。ボクらの関係はここで終わってしまうのではないだろうか。
普人くんはもう二度と口を利いてくれなくなるんじゃないだろうか。
そんなことが脳裏をよぎり、声を出すのも怖くなる。
しばしの沈黙のあと、思い切って話し出す。
「普人くんが試験受けた日の夕方にさ、普人くん言ったじゃない。ボクとイチャイチャペロペロする仲になるって。
冗談なのはわかってるけどさ……その……なんてゆーか……」
普人くんは黙ったままだ。ボクは勝手にはなしを続ける。
「実を言うとさ、このあいだボクが怒った理由ってのは……あのとき……キス……、されちゃうんじゃないかなーなんて勘違いして……その……期待したっていうか……」
普人くん、ボクのこと気持ち悪がってるかな。
「もしボクが……ボクが女の子だったら……ボクたちの関係は……終わっちゃうかな……なんてね……」
もう寝ちゃったのかな。でもその方が良かったかも。
こんなの聞かれたら、ホントに……
なんだか空回りしてる自分がひどく惨めで、情けなくて。
ボクが女の子だって知ったら普人くんはどんな顔するか心配で、でも黙ってるのは裏切ってるみたいでもっと心配で。
それでも普ちゃんと、この関係を続けたくて……
何やってんだろ
「おわらないよ」
微かに聞こえた声。
でも確かに聞こえた。
ボクは壁の方を向いて、理由のわからない泪をパジャマの袖で何度もぬぐった。




