非効率的に行く効率的人生
5/6 (土) 午後 学生食堂
「んー、やっぱここのホットドッグは美味いな。ファーストフードのとはまた違った美味さだ」
売店で買ったホットドッグにかぶりつきながら感想を言う。
食堂に置いてあるレンジで少し温めたが、パンから余裕ではみだす大きさのソーセージの中はまだ冷たい。といって温めすぎるとパンがフニャフニャになってよろしくない。
よくある惣菜パン同様、ラップに包まってるタイプなのでちょっと温めるくらいがベストだ。
太目のソーセージは皮がパリッとしてて中の肉も粗挽きで冷たくてもおいしく、パンのほうもほんのり甘味があり、パン屋さんのパンのような手作り感があっていい。
ケチャップとマスタードがあらかじめ掛かっているが、僕の好みとしてはもう少しマスタード多めがいいのだが、そこは人によって好みが分かれるから仕方ない。
レントゲン検査の結果、僕の腕は完治し、至って正常と箱入先生に診断されたので、食堂で待っていたみんなと合流した。
霧真者先生は上への報告が終わったとのことなので自分の家へと帰って行った。
他のみんなは霧真者先生と既に昼食を取ったとのことなので、僕だけ売店で買ったパンで遅めの昼食を食べている。
「みんなごめんね、せっかく私のこと庇ってくれたのに、全部本当のこと言っちゃって」
万屋さんが申し訳なさそうにみんなに謝る。
「理紀が謝る必要は無いわ。みんな勝手にやったことなんだから」
意外だな。宮ノ本はもっと僕をけちょんけちょんにけなして無能呼ばわりすると思ったんだけど。
「そうそう、僕らこそ万屋さんに何も言わないで勝手に嘘付いちゃってごめんね。もっと万屋さんの気持ちを酌むべきだったよ」
サックの言う通り、僕が勝手に万屋さんを守ろうとしたのがいけなかった。いや、自分のミスで招いた惨事を帳消しにしたかっただけなのかもしれない。
守ろうとしたなんて只の口実で、ほんとは必死に自己防衛しただけだ。
「みんなごめん。今回のことは全部僕が1人で先走ったのが悪かった。もともと万屋さんに触った僕の不注意が原因だ。
それに万屋さん本人の気持ちも考えないで、周りのみんなも巻き込んで、ほんと悪かった。許してくれ」
食べかけのパンを置き、みんなの方を向いて頭を下げる。
「頭あげて、小林君。大怪我した本人に謝られたんじゃこっちも困っちゃうよ」
万屋さんが本当に困ったような声で言う。
「じゃあ、キリが無いからもう謝るのはやめやめ。さあ、普人くんも食べて食べて」
こういうときにサックがいてくれると助かるな。さっきまでの暗いムードを一言で変えてしまう。
サックの言葉に甘えて再びホットドッグを咥えようとしたとき、宮ノ本が口を開く。
「念のためみんなに確認しときたいんだけど、これからもこの関係を続けるのかしら。
もう別にやめろと言う気はないけれど、一応確認しておこうと思って」
ズバリ核心を突く質問。だれもが触れずにおこうとしたことをメガネは堂々と聞いてくる。
こいつはなんでも白黒つけたい性格なのか、それともただ単に空気を読めないのか。性格はまるで反対だが、呼刀に似てるところがある。
「お前は聞きにくいことを聞いてくるねー。あえて言うなら半分はYesで、半分はNoだ。
この4人の付き合いをやめるつもりは僕にはないよ。ただ、このままでいいとも思ってない。今のところはそれしか言えないな」
「ボクも普人くんと同じだよ。とゆーか、もっと仲良くなりたいんだよね。けどまあ、焦らずゆっくりいくよ」
「あたしはみんなにも、両子ちゃんにも迷惑かけるかもしれないけど、お友達でいたい。それだけだよ」
みんなの意見を聞き、宮ノ本は大きくため息をつく。
「はー、わかったわ。じゃあ今日はもう長くなったし、解散にしましょう」
おいおい、みんなに言わせっぱなしか? 言いだしっぺのくせに。
「待て待て。宮ノ本、おまえはどうなんだ? みんなのことをどう思ってるのか聞きたい」
立ち上がろうとした宮ノ本が腰を下ろす。
「そりゃ理紀を守る身としてはリスクが少ない方がいいに決まってるわ。でもどうせ言っても聞かないんでしょ、あなたたちは」
逃げの一手だな。
「そうじゃない。お前自身の気持ちを聞きたいんだよ。みんなとおしゃべりして、ボウリングして楽しかったかってこと。
俺は楽しかったぞ。もちろんお前も含めてだ。はじめはムカついたが、おまえほどおちょくり甲斐のあるやつはいないからな。できれば宮ノ本とも仲良くなりたいと思ってる」
いままでの自分ならこんなことは言わなかっただろう。いや、そもそも宮ノ本を引き止めたりしていない。
だが、一度死ぬ思いをしてから僕の中で少し考えが変わってきている。本心を言わない人生ってのはなんともつまらないと、ときどき思うようになった。
波風立てずに効率的にいくのも結構だが、そればっかりだと楽しみってもんがない。そっちのほうが人生においては非効率的なんじゃないだろうか。人生ってのは楽しむためにあるんだろうに。
僕と宮ノ本は喧嘩ごっこをよくするが、今はもう本気でいがみ合ってるわけではない。ただのじゃれ合いだってのは宮ノ本もわかってるはずだ。
ただ、それを口にするのはけっこう恥ずかしい。でもこいつが勘違いをしてるなら、言わない道理はない。俺は宮ノ本と友達でいたいからな。
「な、なにいってるのよバカ! そんなのっ……えーと……私だって、その……か、帰るわよ理紀!」
「両子ちゃん顔真っ赤だよ、ふふっ」
宮ノ本は赤い顔のまま1人で先に帰ってしまった。
「じゃあ、またね2人とも。今日はいろいろありがとう。また遊ぼうね」
宮ノ本のあとを追う万屋さんに、僕とサックは手を振る。
「やれやれ、またメガネを怒らせちまったなー」
残りのホットドッグを頬張りながら呟く。
「あれは照れてるだけだよ。てゆーか、普人くんって意外と軟派なんだね。宮ノ本さんにもあんなこと言えるなんて」
サックの言いたいことはわかる。自分でも恥ずかしいことを言ってる自覚はあるからな。
「不適合者判定試験を受けてからかな。恥ずかしがって黙ってるより、本音を言った方が後悔しないかなって思うようになったんだ。ここじゃ本当にいつ死ぬかわかんないからね。
まあ、さすがに仲良くない人間にまでほいほい本音は言えないけど、この4人の間なら言うべきだろう?
ん、僕また恥ずかしいこと言ってる?」
「なるほどねー。参考になります、小林先生」
「参考にしてくれたまえよ、柵平クン」
パンを食べ終わった僕は、残りの缶コーヒーを口に流し込む。
「ねえ、普ちゃん。今夜普ちゃんち泊めてよ。」
「ん? どうした、サック。えらい急な話だな。」
まあウチにしょっちゅう来てるし、明日も休みだから問題ないんだが、泊まるのははじめてだな。
やっぱこないだまで無視してたこと気にしてんのかな。
「別に構わないけど。このあいだのことならもう気にしてないぞ。」
「うん、わかってるよ。ただ遊びにいくだけだよ。」
そうは言うものの、なんだかサックの様子がいつもと違う気がする。落ち着かないとゆーか、挙動不審とゆーか。
まあ今晩ちょっと探りをいれてみよう。




