1人と仲間
5/6 (土) 午前 ボウリング場
「あっ、ふっ、ふっ、節家先輩。おはようございます」
思いもよらない人に出会い、ビビったまま挨拶してしまった。
「ああ、おはよう小林。なんだ、宮ノ本と万屋もいっしょか」
「先輩おはようございます」
「あ、どうも節家先輩。おはようございまーす」
な、なんだ2人とも先輩と知り合いだったのか。
そーいやあ、入学前から発現してた2人は基礎実習の時間は2年生と別メニューとかでいなかったけ。
それに2年生は1人しかいないって話だからその1人は必然、節家先輩ということだ。
「もう1人のちっこい女子は初めて見るな。2年の節家だ、よろしく」
相変わらずぶっきらぼうな物言いでそっぽを向いたままサックに挨拶する。とっつきにくいんだよなー、いい人なんだけど。
「先輩、柵平君は男ですよ、こう見えても」
一応僕が訂正する。しかし今日は私服なのでいつにも増して女の子っぽい。先輩が間違えるのも無理はない。
「あ、はじめまして。1年の柵平です。節家先輩よろしくおねがいします」
もう名前を覚えたらしい。さすがサックだ、人付き合いに関しては抜け目がない。
「先輩よく小林君のこと褒めてたよ。あいつ才能あるって。ですよね、先輩」
万屋さんが僕と先輩をみて嬉しそうに話す。あの節家先輩が僕を褒めてたなんて意外だな。
先輩に対して大きな口叩いちゃったから、てっきり恨まれてると思ってたんだが。
「ああ、そうだっけか?」
相変わらずそっぽを向いたまま先輩はしらばっくれる。
「小林君と模擬戦でぜひ対戦したいとも言ってましたよ」
宮ノ本の言葉に先輩が反応する。
「ああ、それは本心だ。ぜひ小林ともう一度手合せ願いたいね。今度はお互い本気で」
そっぽを向いてた節家先輩がチラッと僕を見て言う。
試験の最後に見せた先輩の鋭い視線を思い出し、背筋に冷たいものが走る。あのときは先輩が憑依能力をまったく使ってなかったからなんとか攻撃をしのげたが、本気の節家先輩とやったら勝てる自信など全くない。
くっそう、宮ノ本の野郎余計なこと言いやがって。
冷血メガネは薄ら笑いを浮かべて俺を見下している。ゼッテーわざとだな。
「い、いやだなー、ははっ。ぼ、僕なんか全然ですよ。先輩がお相手する価値もありませんって」
なんとか作り笑いでごまかすが、先輩は無反応だ。
「そうだ、先輩もいっしょにやりませんか、ボウリング。みんなでやったほうが楽しいですし」
さすが万屋さん、いいこと言うな。
「いやいや、せっかくの場に俺みたいのが居たんじゃみんな気を使うだろ。俺のことは気にせずお前らだけで楽しんでくれ。それに俺も1人の方が気楽だしな」
先輩を見てるとなんか中学のときの自分に似てるなーと感じる。
僕も他人から誘われても断ってしまい、いつも教室の隅っこで1人でいた。知らない人間に気を使うよりも1人のほうが楽だった。
いまでもそれが悪いとは思わない。現に僕も今のクラスでは1人でいることも少なくない。
でも仲間といるのもまた違った楽しさがある。そんな仲間ができれば人生の楽しさが断然違ってくる。
噂じゃ2年生は事故で全員亡くなったそうだ。ただ一人、節家先輩を除いて。
先輩にもそんな仲間がいたんだろうか。事故で亡くなったとしたら先輩はいままでどんな気持ちだったんだろう。
なんとなくそんなことを考えていた。
「じゃあ今度またみんなでボウリングしましょう、節家先輩」
万屋さんが笑顔で言う。
「ああ、また今度な」
先輩がそっぽを向いたまま答える。
みんなが受付で指定されたレーンへと移動するなか、ぼくは残って節家先輩に小声で話す。
「先輩、火田先輩から伝言聞きました。わざわざすみません。あと、試験のときは生意気いってすみませんでした」
先輩に向かって深く頭を下げる。
「何を言ってる。俺は約束を守っただけだ。それにお前はたしかに落ちこぼれじゃなかったよ。謝る必要なんてない。
ほら、早く行け。みんな待ってるぞ」
「はい」
もう一度頭を下げ、みんなの元へ戻る。
先輩と模擬戦ってのも悪くないかもしれない。なぜかそんな考えが頭を過ぎった。




