MorningBowling
5/6 (土) 午前 ボウリング場
見慣れた自動ドアを通り、店の中に入る。
土曜とはいえ朝一のボウリング場はいつも通り閑散としている。まあ、それが目当てで通っているところが大きいのだが。
見慣れた顔がカウンターで出迎えてくれる。
「やあ。おはよう節家君。今日も早いね」
この店の店長さんだ。白髪交じりの長い髪を後ろで束ね、綺麗に手入れされた口ヒゲを生やしている。
こんな無愛想な俺にも優しく接してくれる感じのいい人だ。この人に会えることもここに来る理由かもしれない。
「おはようございます、店長。毎週朝早くすみません」
「なに言ってるの。ウチは節家君でもってるみたいなもんなんだから。いつもの1番レーン空いてるよ」
開店時間とともに入店する俺にも嫌な顔を1度も見せたことが無い。それに長いこと通っているせいか俺の名前も憶えてくれ、いろいろと気を使ってもらっている。
「じゃあすみません。今日も2ゲームおねがいします」
学生証を出し、カードリーダで利用記録を記録してもらう。
「ゆっくり楽しんでって」
俺が長話を嫌うのもよくわかってくれていて、必要以上に話しかけては来ない。
いつも通り26.5センチのシューズを借り、缶コーヒーを1本買って入り口側にある1番レーンに向かう。
途中、いつもの棚に置いてある11ポンドのボールを掴み、ボールリターンにボールを置いてから缶コーヒーを開けて一口飲む。
スコアボードの用意ができるまで軽くストレッチをしていると突然後ろから両目を塞がれる。
「だーれだ?」
「大洗さんです」
面倒な人が来た。
「元くんつまんなーい」
そのまま後ろから抱きついてくる。大きな胸が俺の背中に密着する。
「胸当たってますよ」
俺にセクハラをしてからかうのがこの人の楽しみらしい。
「いーのいーの、わざとなんだから」
掴まれた腕を放し、後ろを振り返ると、メイド服のような制服を着た顔なじみの女性従業員が立っていた。
「仕事しなくていいんですか?」
「お客さんが1人しかいないからねー。それよりどう? 今日もカワイイかな、わたし」
栗色のロングヘアに胸の谷間を強調した襟元、短いスカートと白いタイツの間から覗く太もも、なんとも目のやり場に困るかっこうだ。
たしかに大洗さんは俺からみても可愛い。これだけ可愛ければ言い寄ってくる男も引く手あまただろう。
「ええ、可愛いです」
いつも通り、素直な感想を答える。
「エヘヘ、そーかなぁ。いやーそこまで言われちゃうと困っちゃうなー」
そこまで褒めたつもりはないのだが、大洗さんはいつも通りの反応でご満悦のご様子だ。
「おーし、今日もそこそこがんばっちゃうぞー」
そう言って、仕事に戻って行く。
なんだかんだ言ってはいるが、毎回すぐに雑談を切り上げて立ち去ってくれるのは大人の気遣いというやつだろうか。
どうも俺は周りに気を遣わせてしまうようだ。根暗な性格を自覚してはいるが正直1人のほうが気楽と考えてしまう。
そんなことを考えていると、いつも死んだクラスの仲間たちを思い出す。
こんな俺でもあのクラスではけっこう馴染めていた。
俺も一緒に死ねば良かったかなーと頭の片隅で悩みだす。
「あ、いらっしゃいませー」
フロアに戻った大洗さんの声が聞こえる。だれかお客が来たようだ。こんな朝早くに珍しい。
連休中だし、あまり騒がしくなるようなら今日は早めに切り上げるか。
カウンターで手続きをし、入ってきたのは顔見知りだった。
「あっ、ふっ、ふっ、節家先輩。おはようございます」
過剰に驚いた様子で俺に向かって頭を下げたのはこの前の試験で戦った小林だった。




