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欲望=魔物  作者: クニクニ
2章
29/172

電話

5/5 (金) 夕方  自宅


 木曜の一件からサックに無視されてしまっていた。

 携帯に掛けても留守電だし、メールを送っても返事がない。直接柵平(さくだいら)君の家にも行ったが、呼び鈴を押しても反応なしだ。


 そんな折、僕のスマホに着信が入る。サックからかと急いで画面を確認すると、意外な相手からだった。


「あ、もしもし万屋(よろずや)さん?」


「あ、こんばんわ小林君。今大丈夫だった?」


 万屋さんから初めて電話をもらった。お互い番号交換はしたものの、1度も掛けた試しがなかった。

 掛けたいのはやまやまだったが、女の子とまともに会話したことがない僕は電話で何を話したらいいのかわからず、結局掛けられないまま今日まで来てしまっていた。


「もちろんもちろん。万屋さん、いままで電話しなくてゴメン」


「こっちこそ。なかなか恥ずかしくて掛けにくいなーなんて思っちゃって。ごめんね」


 カワイイ。声だけでもその可愛さがストレートに伝わってくる。こんな可愛いコに自分から初電話を掛けさせるなんて、俺はなんてダメ男なんだ。


「それでね、小林君。明日空いてるかな? よかったら両子(りょうこ)ちゃんと柵平君と4人でボウリングでもどうかなーと思って」


「ホント? 行く行くっ! いきます、ぜひお願いします」


「よかった。両子ちゃんも楽しみにしてるみたいだから」


 ボウリングかー、中学んときちょっとやったくらいだな。しかしあの冷血メガネ女も一緒か。まあ万屋さんのお目付け役だから仕方ないか。

 んー、でもサックがなー。連絡とれないんじゃ誘いようが無いし。まさかサックを除け者にして3人で行くわけにもいかないし。


「あのー、それでね万屋さん。今ちょっとサックと連絡が取れなくてね。よかったら万屋さんから柵平君に電話かけてもらえないかな?」


「え、柵平君なにかあったの?」


 何があったのか僕にもわかんないです。やっぱ練習でやり過ぎたの怒ってんのかなー。確かに危なかったけど、何度も落下する練習したんだからリキッドで受け止める自信あったんだけどなー。

 それに実戦形式でって言い出したのはサックのほうなのに。


「いやー、なんとゆーか、喧嘩……みたいな感じになっちゃって」


「へー、珍しいね。2人ともいっつも仲よさそうなのに」


「一昨日(おととい)の夕方から無視されちゃってて。電話もメールも繋がらないんだよね」


「うん、わかった。じゃあ柵平君に電話してみてからまた小林君に掛け直すね」


「ありがとう。ごめんね、万屋さんにこんなことお願いしちゃって」


 感謝の言葉を述べ、電話を切る。あとは万屋さんの連絡を待つだけだ。サックが出てくれればいいが。




 10分ほどしてからスマホがバイブし、着信を知らせる。

 画面を確認すると万屋さんからではなく、柵平君からの電話だった。


「もしもし、サックか?」


「もしもし、普人(しんと)くん? 万屋さんから聞いたよ。てゆーか万屋さんに電話させるなんてズルくない?」


 やれやれ、まだご立腹のようだ。


「いや、だって君が電話に出てくれないんだから他に方法がないだろう? それに万屋さんがせっかく誘ってくれたんだし。」


「んー、それはそーだけどさー」


 おっと、少しは後ろめたさがあるようだな。


「そもそもなんでそんなに怒ってるんだい。確かに練習とはいえ僕もやり過ぎたよ。でもあれくらいやらないと模擬戦の練習にならないと思ったんだ。

 それでもごめん、危ない思いさせて」 


「んー、それはいいんだけどさー、なんてゆーかさー」


 なんとも煮え切らない感じだ。僕にビンタした手前、ひっこみがつかなくなってしまったのか? それとも怒った理由を言いたくないのかな?


「もう理由は聞かないし、ビンタされたのも気にしてないよ。だから仲直りしてくれないかい?

 僕は君しか友達がいないんだ。君に嫌われたらこれからすごくつまんない学園生活になちゃうよ」


「えっ、そ、そう? そう……なんだ。へー……ボ、ボクも普人くんいないと……つまんないかなー、なんて……」


 サックの気まずそうにしながらもまんざらでもない反応にこっちも釣られて恥ずかしくなってくる。

 思い返してみても自分の人生でこんな恥ずかしい台詞を言ったことは今までなかった。いや、それ以前にサックほど親友と呼べる人間と今まで出会わなかった。


 養ちゃんも確かに親友だが彼は2つ年が上だし、何より完璧な人間すぎて仲良しというよりも尊敬の念のほうが強い。

 その点サックはもっと身近に感じるし、なんというか、僕と波長が合う気がする。

 だから僕はこんなに必死に仲直りしようとしているんだろう。普段の自分なら無視されたらすぐにあきらめて、また気楽なボッチの生活に戻ろうとしていたに違いない。


「じゃあまた僕と仲良くしてくれるかい、サック」


 こんな恥ずかしい台詞でも、サックと仲直りできるなら何度でも言ってやる。


「うん。無視してゴメン、普(しん)ちゃん」


 元気ないつもの声が聞けて安心する。


「そんなの気にしないでよ。じゃあ明日万屋さんたちとボウリング行くって知らせとくよ」


「ああ、それならもうさっき万屋さんに2人ともokって言っといたよ。明日の朝9時に公園広場集合だってさ」


 なんだよサック、始めっから仲直りする気だったんじゃないか。人が悪い。


「わかったよ。じゃあ15分くらい前にサックんち迎えにいくから。今度は無視しないでくれよ」


「うん。待ってるからね」


「……」


「……」


「じゃ、じゃあね」


「う、うん。じゃあ明日」


「……」


「……」


「普人くんから切ってよ」


「あ、ああ……じゃ、切るからね……」


「……」


「……」


「ホントに切るからね」


「普人くん……しつこい……」 


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