普人、焦る
5/4 (木) 午後 第2室内模擬戦場
ぐにゅっと突如、左背面に柔らかい物体が接触するのを感じる。次の瞬間、その目に見えない物体は僕をまっすぐ貫く勢いで突進を続け、スピードの乗った力に押し倒される。
受け身を取りつつも地面に転がった途端、僕の右前方に柵平君が姿を現す。もちろん肩にはゴールデンピースが乗っている。
「バリアッ!」
サックが叫ぶと彼の周囲に直径3、4メートルほどの黄金に輝く透明な球体が現れる。
サックがそのままゆっくり宙に浮き、それに合わせてバリアも浮遊を始める。バリア内に閉じ込められた僕も必然、球体内の底面に押し上げられるように離陸する。
バリアが浮遊する間、着地の用意をする。
「リキッド、頼む」
僕の合図にリキッドが真下に駆け寄ってきていつものクッションに変形する。
しかしこの浮遊速度の遅さは気になる。僕がバリア内で立ち上がると、まだ天井まで半分ほどの高さにしか達していない。
実戦形式の練習とのサックからのリクエストだから反撃しないわけにはいかない。
「パンチパンチ」
と、目の前の高さにあるサックの腹部を殴る真似をする。さすがに小柄なサックを本気では殴れないが、これが模擬戦なら相手は容赦しないだろう。
「ひらけっ!」
サックは慌てて僕を落とそうとバリアの底に穴を開ける。
「おっと」
間一髪、落ちる直前にサックの腰にしがみつく。
「うわっ! ちょっと、普ちゃん!」
驚いた柵平君が落とさないように、しがみついた僕の腕をしっかりと掴む。
「サック助けちゃだめだろ、実戦形式なんだから。僕を引き剥がして落とすんだ」
「こんな不安定な状態で落ちたら危ないよ。ちょっと、ヘンなとこさわんないで……あっ!」
サックが叫ぶと同時にバリアが消え、2人は抱き合ったまま地面に急降下する。
ばにゅんっ
と僕らをリキッドのクッションが受け止める。
「サック、大丈夫か?」
抱きついたまま、上になったサックに声を掛ける。
「う、うん。普人くんは?」
僕を気遣う柵平君の表情がおかしい。
「僕は大丈夫だけど、サックほんとに大丈夫か?なんかおかしいぞ。」
寝ぼけたような表情に、ボーッとした眠そうな目で僕を見つめている。呼吸も不規則だ。
やばい、頭でも打ったのかもしれない。正面から見た感じでは出血はしていない。
だが顔がうっ血でもしているのか、赤くなっている。
「普ちゃん……うで、痛い」
「腕? 腕を打ったのか。痛みは? 骨折れてるんじゃないか?」
「ちがくて、普ちゃんが抱きついてるから……」
「あ、ごめん」
サックの体をギュッっと抱きしめていた自分の腕に気付き、ゆっくり放す。顔のうっ血はこのせいか。
「あたまは? 頭は大丈夫かい? どこか打たなかった?」
「だいじょうぶ……」
そうつぶやくものの、サックはゆっくりとこちらに倒れてくる。
耳元でハアハアと苦しそうな呼吸音が聞こえる。僕の肩を掴む両手もわずかに震えている。
いつか見た健康番組の脳内出血の症状を思い出す。言語障害、意識障害、体の震え。くも膜下出血で脳に後遺症が残るとも言っていた。
自分の顔からみるみる血の気が引いていくのが分かる。
まずいぞ。早く柵平君を医務室に連れていかないと。
柵平君の肩を掴み、そのままゆっくり起こす。ここで頭を激しく動かすと後遺症の危険がある。慎重に起こし、意識を確認する。
「聞こえるかい、柵平君」
「……うん」
目は虚ろだが意識はある様だ。
「君は脳内出血を起こしているかもしれない。僕がおぶってくから急いで医務室にいこう。分かるね」
くそっ、僕のせいだ。実戦を意識してと言っても練習で怪我したら意味ないだろう。俺はバカ野郎だ。
サックにもしものことがあれば悔やんでも悔やみきれない。
ばちんっ
と突然音がした。




